15-2.
→つづき
「大丈夫だったか!?」
息を切らした東条先輩が戻ってきた。
10分経っていない。
足速いんだな。
「大丈夫です。不安定ではありますが、さっきとさほど変調ないです」
東条先輩は脳波のデータを見つめ、安心したように一息つき、手元のファイルからROMを取り出した。
「ROM!?」
「今時な。もう何年も使ってないからアップデートも兼ねて今からアプリに落とし込んでもいいかもな」
もしかして。
「NOTESって先輩が?」
開発したの?
「まぁそんなとこ。もちろん所長も噛んでるけどな」
噛んでるって...言い方。
ROMを読み込み、真っ白なノートのような画面が開いた。
東条先輩がジンへ「伝達」を始めた。
なぜそこにいるのか。
何をするためなのか。
まずは何をすべきなのか。
ジンが自分で置かれた状況を理解できるよう、ヒントを書き込んでいく。
実際、過去を取り戻すための行動はジンに委ねられており、信じて待つしかない。
「こんなもんか...」
NOTES電流の逆流操作は順調で、恐らくジンの脳...か心かに届いているはずだ。
「先輩、脳波に変調ありです」
2人で見つめるジンの脳波は少しずつ波間を広げていき、次第に地を這うような直線へと落ち着いた。
「これって...」
「まだいけるな、コレ」
NOTESの画面を閉じ、ROMを取り出し嬉しそうにファイルへと戻す先輩は、まるで無邪気な少年のようだった。
「とりあえずこのまま様子見て...あと24時間経ったら覚醒準備に入ろう」
初めてのタイムリープでトラブルもあったので少し早めに切り上げるつもりのようだ。
「分かりました。私このまま残りますので交代の研究員が来たら先輩は休んでください」
窓枠の下側を切り込むように夜明けを知らせる光が射す。
もう朝なんだ。
長い1日だったなぁ。
「何言ってんだ。あと丸一日ここにいるつもりかよ。帰れ、お前も」
いや、でも...
「彼氏くんが目覚めた時、お前がいなかったら」
あっ...そうか。
また間違うところだった。
「わっ分かりました。帰ります。休んで今日の夜にまた来ます」
コンコン
先輩がうん、と黙って頷き、あくびをしたところに交代の研究員がやって来た。
引き継ぎを行い、先輩と2人で試験室を後にする。
「心配すんな、もう大丈夫だ。しっかり寝ろよ」
「はい!先輩、本当にありがとうございました」
90度の最敬礼。
こんなのでも足りないくらい、先輩には感謝の気持ちでいっぱいだ。
「あー、はいはい」
こちらを見ずに手をヒラヒラさせて歩いていく。
本当...尊敬だなぁ...
「使用許可申請書、書いて出しとけよ。あと明日の晩飯、駅前の焼肉屋のプルコギ弁当でよろしく」
本当...これぞ東条先輩...
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
次回からはジン目線で物語が進む「JINside」の始まりです。お楽しみいただけたら幸いです