箱庭で迷う | 夕食ホットオフィシャルブログ

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美容師のボーカルしょったん+建築家の鍵盤きくっちゃん+ぬいぐるみのギターすだっちからなる異色ユニット「夕食ホット」の公式ブログです。

みなさまこんばん和傘。

次のライブのためのチェロ編曲がまだ終わっていないのに、ブログを書き始めちゃったきくっちゃんです。


一曲どうしても悩んでいることが収まらなくて。むむう。


仕方がないので、学生の時に迷い込んだ「四角い森」のことを書こうかと。

リラックマや、正確には迷い込んだわけではないのですが。


ずいぶん前、建築学生だったきくっちゃんは、研究室のメンバー&助教授先生と、長野県のとある別荘地に合宿で訪れたのです。
そこはメンバーひとりの親戚がやっている「森のコテージ」的な宿泊施設で、自分たちでご飯なんかを作りながら安く滞在出来るところだったのです。
4-5日の予定。


これ、そこのサイトから頂いた本物の写真です。

夏だったかな?
いや秋か?
学生男女7人+先生だったと思います。
みんな仲良かった。


長野県には”忘れられた別荘地”といった感じの場所がけっこうあって、共通しているのは

・ 高原や扇状地など、けっこう平らな森
・ 白樺や赤松や、その他明るい樹々が美しい
・ 国道からわりとすぐ
・ スキー場が近い
・ 道路が結構整備されていて、碁盤の目だったり扇形だったり、わりと地図的に整っている
・ むかし一瞬栄えかけた
・ 今はペンションとかお洒落カフェとか企業の研修施設が森の中にぽつんぽつんと点在

って感じです。


うちらが滞在するのもそんな”忘れられた別荘地”の一角でした。
空気は死ぬ程おいしくて、木々をすり抜けた半透明の太陽光がきらきらと僕らの前を横切ってゆきました。

先生は建築の話をしたそうだったけど、まーうちらにとってはただの旅行です。


2日目だったかな?

誰かが
「ちょっと歩いた所に、なんか、ただただコーヒーを飲みながら絵本をしこたま読める、小さな絵本図書館があるらしい! そこに行こう
と言い出しました。
歩いて15分くらいっぽい。
って。


これ、いま、ストリートビューで見たその辺りの雰囲気です。

こんな感じで、碁盤の目とは言っても一区画は500m四方くらいあって、その道路沿いにぽつーんぽつーんと別荘やらペンションやらがある感じです。
コテージからその絵本図書館までは二区画くらいだった気がします。
ところで実は、この写真からも分かるように、そういう別荘地って道路を歩いても「あんましおもんない」んです。
歩道はないし、案外車は通るし、景色は単調だし。

なので、誰とはなく
おし、このコテージの裏の森を抜けよう!
ってことになりました。
ショートカットできるやん!
って。


宿の人には「やめときなさい」って言われたんだけど。

そこはほれ。若い男女。
当然冒険寄りの選択肢しかないっすよね。

ダッシュダッシュダッシュ

コテージ脇の駐車場から、全員で裏の森へ突入しました。
駐車場は平らな砂利で、そこから土手みたいな感じで1mほど下ったところが森の地面です。

森は明るくて、地面は乾いていました。つまり完璧なコンディション!
しばらく立派な森に見とれながら歩くと、きちんととっても美しい小川に出ました。

「渡る?」
「男子はいけるな」
「うちら(女子)ちょい厳しいわ」
「ほなもうちょい渡りやすいとこ探そ」


って感じで小川に沿って歩くと、ちゃんと浅瀬みたいなところがあって、飛び石もあり、みんなでそこをきゃーきゃー言いながら渡りました。

さらに10分ほど進むと、なんか砂利っぽい道が。
「おお、道や道!」

さすがにただの森にはちょっと飽きてきてたので、その道を素直に進みます。
このころになると、内心みんな
「そろそろ大きな道路に出てもええんちゃうん」
って思い始めてました。

だって碁盤の目状に綺麗に区画されている森ですからね。


そんなこんなで、小さな不安を抱えつつその砂利っぽい道を進むと、なんとこれまた、絵に描いたようなY字路に行き当ります。

ミステリーならここが運命の分かれ道です。

「どっち?」
「どっちでもええんちゃう?」
「こういうときはシタンやろ」
※ 筆者註:【シタン】メンバーの一人のあだ名。ムードメーカーで山崎まさよし(当時)そっくりのイケメン。

シタン「おっしゃ、おれ決めたろかー笑」
そういって辺りを見回し、1mくらいの枯れた枝を拾うシタン。
もちろん彼は、Y字のど真ん中でそれを天高く放り上げます。

かたーん!

綺麗に着地し、左を指し示す枯れた枝。

「こっちや」
「(一同)おおー!」

ってな阿呆な感じで、一行はさらに10分ほど歩きます。

聞こえるのはうちらの足音と、ちょっと遠くのせせらぎの音と、たくさんの鳥達の声だけです。
(ぼちぼち車の音聞こえてもええんちゃうん?)
と、まあ何人かは思ってたはずですが、口にすると怖いので黙っていました。

雪だるま雪だるま雪だるま

えー。
えーっと。


結論から言うと、
なにもなかったっす。

その後特に問題もなく(イメージしてたよりは倍くらい時間かかったけれど)、ちゃんと大きな道路にぶつかり、そこからはその道路を歩いて目的地に辿り着きました。

本当に素敵なところで、半日まったり、めいめいが好きな絵本を読みました。


そこのサイトより勝手に頂いたエントランスの写真。
嘘みたいな場所しょ?


で、話はこれだけなんです。


でも、この時の体験はいまでも僕に何かを残していて、たまに思い出したりします。


とても美しい場所で、なんとなーく迷ってるけれどそれを口に出せない雰囲気。
でも、実は少し進めば大きな道路に出るはず、という妙な安心感。

“妙”というのは、たぶん五感のせい。

きちん舗装された道路によって四角く囲まれた森。
そのセーフティネットの存在は確かなんだけれど、いまそれは目には見えず音も聞こえない。
「人間が作った道路がすぐそこにあるんだい!」って信じているんだけれど、でも五感で直接捉えられないあの宙ぶらりんな感じ。


この、「箱庭冒険」とでも言うべき体験。
この感じに、僕はとっても惹かれるのです。


実は、他にもこういう感じのする体験がありますよね?
僕だけ?

例えば映画。
例えば旅行。
そして音楽。

どれも前と後ろにわりときちんと線が引かれていて、「中」にいるときもその境界線の存在は常に意識のどこかにあります。
いつ始まってどこで終わるのか。

その中で人は、ドキドキしたりハラハラしたり大泣きしたり死にそうになったりします。
でも本当は気づいている。

あともうすぐでこれ終わっちゃう。って。

その先にはいつもの日常が確かにあるはずなんだけど、でも、なんだか今体験しているこの空間や時間が永遠に続いていて、境界線の向こうまで広がっているんじゃないかって一瞬分からなくなる。

もちろん毎回「それ」はきちんと終わります。

そして日常がはじまると、なんだかんだ割とすぐ、そこでうまくやってゆく自分のあの感じ。
たまらんのですきくっちゃんは。


ってわけで、
いい映画や旅行や音楽に触れるたびに、なんだかあの「四角い森で軽く迷った」ことを思い出しちゃう、繊細で素敵で知的なきくっちゃんをアピールしつつ、ここいらで筆を置こうと思います。


以上です編集長。

あ、ライブは
7/25(金)と、8/9(土)と、あともういっこすぐ決まりそうです。
http://u-hot.net/info/