ガザに住みつく二百数十万のパレスチナ難民が片っ端から殺害され始めたころ、加治丘陵には熊が出没して、南も北も出入り禁止の通せんぼがぴしりと張られた。
はじめは私も山歩きを我慢して、昔、飼い犬と散歩した入間川沿いのあたりに行ってごまかしていたが、虐殺反対デモに紛れ込んでいると、つい、心が高ぶり、通せんぼの縄を蹴飛ばして、立ち入り禁止の「桜山展望台」まで行くようになった。
役所の標識を信用していない散歩人は他にもいて、この一月の内に二十数人と山道の奥深くですれ違った。
熊が襲いかかって来ればよろぼい歩きの私は、素早くトンズラこくことは出来なくても、杖で熊の目をついて、抗うことが出来る。爆撃の恐怖に抗うすべもないガザのひとたちとは、雲泥の差だ。歩きながら、いつも、そのことを思う。
このところ体調が持ち直しているので、週に一度は都心のデモに参加する。先々週は、この干あがった時期に信じられないことだが、ぼろぼろの札束を拾った。
前々から欲しかった下着類を山ほどとノートを5冊揃え、残りを全部、あちこちの集会やデモに、目立たないようにこっそりカンパした。
(立ち入り禁止の加治丘陵、「桜山展望台」)