車の中でSさんが言いました。
『ロデム、やっぱり危ないし、会社まで遠いんだから、結婚式の前に、年明け早々には引っ越そうよ』
『うん・・・私もあそこ怖くなってきた・・・早く引っ越したいよ!』
会社について、Sさんは言いました。
『気を付けて、ちゃんとドアロックするんだぞ!』
『うん。気を付けるよ。怖いから、ウエジに泊まってもらおうかな・・・』
『あんまりつらかったらそうした方がいいかもな、じゃ、俺行くね』
Sさんは、福島の実家に向かい、私は通用口から入りました。
着替えて、デスクに行くと、すでに部長とすぎとさんとやまぐちさんが来ていました。
部長は電話をずっとしていました。
私に気づいたらしく、手招きされました。
やまぐちさんが言いました。
『今日の夜中に部屋にに不審者入ったんだって!?警察から連絡があったんだよ!管理会社からも連絡あったし、大丈夫か?』
『はい。私は何とか大丈夫です。すいません・・・お騒がせして・・・』
『部長の携帯にも6時に世田谷警察に連絡があって、今話をしてるんだよ・・・』
部長は、入寮者のリストをずっと見ながら、警察と話をしていました。
部長の電話がやっと終わりました。
既にほかの社員が出勤していて、すぎとさんややまぐちさんが、事情を説明していました。
私はただ、部長のデスクの前にずっと立っていました。
部長が言いました。
『無事で何よりだけどさ、大丈夫か?今日は、仕事なんか手につかないだろ。帰っていいぞ・・・大変な目にあったな』
『あまり寝てないんですけど、大丈夫です』
『うーん。世田谷警察からは、寮の構造自体が問題があって、不審者が入りやすいので、注意するようにと言うことと、しばらくパトロールを続けてくれるらしいんだ。あそこには女性も結構入っているからね・・・みんな、帰省するって言ってた?』
『それが、殆どが元日営業のお店ばっかりなので、残るみたいなんです』
『そうだよなー。あの寮にいたらそうなるよなー。とにかく、ほかの寮も気を付けないといけないから、緊急速報流すからね』
『私の名前とか載るんですか?』
『載せないよ!大丈夫だからな!今日は辛かったら、途中で帰りなさい』
『はい。ありがとうございます・・・』
簡単に総務の朝礼をして、部長はすぐに緊急速報の文章を打っていました。
緊急速報は役員が亡くなったとか、事故が起きた場合などに総務が一斉に全店にFAXを送るものです。
さらに今回は入寮者全員に電話をかけて、注意を促すという厳重な流れになっていました。
『よし!準備OKだ!じゃ、緊急速報のFAX流すから、10時になったら、入寮者の店舗に電話いれてね!』
部長はそう言って、全店FAXを流して、入寮者リストをプリントアウトして、総務の全員で手分けをして入寮者に電話をすることになりました。
その当時MKは社員寮15棟、100人以上が入寮していたため、個別の連絡は非常に大変でした。
被害者の私も、電話をしました。
『緊急速報が流れたのを見たと思うんですが、入寮している方は、年末は非常に物騒なので、戸締りには注意するようにしてください』
『わかりました。ありがとうございます!』
『みんな忙しくってクタクタに帰ってるから、戸締りなんかしないやついるからな!ちゃんと言っておくんだよ!!』部長が大声で言っていました。
12/30は年末で一番忙しい日。だから、私も気を遣いながら電話をしていました。
教育課のいのせさんが、私たちのところに来ました。
『ねえねえ~、来年のさー、新人研修の件なんだけどー』
『いのせさん、すいません。今それどころじゃないんですよ!寮に不審者が入ったんで、入寮者に電話してるんです。もうすぐ終わりますから!』とあべさんが言いました。
『寮に不審者?なにそれ?』
『いのせくん!こっち来なさい!!』と部長が言いました。
部長がいのせさんに事情を説明していました。
いのせさんは笑いながら言いました。
『そんな、ロデムちゃんのところに不審者が入ったところで、入寮者に必死に電話する必要なんかないでしょ(笑)無事だったんだから』
その言葉に部長がブチ切れてしまいました。
『お前な!ロデム、下手してたら死んでたかもしれないんだぞ!!
前も湖北寮に年末、強盗が入って、いたやつが羽交い絞めになって大変な目に合ってるんだよ!!
そんなことを繰り返さないようにするのが俺たちの仕事なんだよ!!
お前は、本社に来てから日がたってるからわからねーかもしれないけど、この時期皆クタクタだろ!忘年会だってやるだろうが!ちゃんと戸締りしねーやついるんだよ!
会社が守らなかったら可哀そうだろ!!』
部長の大声でのブチ切れに、電話をしていた私たちも凍りつきました。
いのせさんは、顔色が真っ青になっていました。
『すいませんでした・・・またあとできます・・・』
いのせさんは、どんよりとした顔で3階に戻りました。
総務のみんなでまた電話をして、なんとか入寮者全員に電話で注意を促すことが出来ました。
『みんな、お疲れ・・・昼だな・・・何かとるか。今日は俺が全部おごるよ』
全員で、そばとかうどんとか頼んで、私は蕎麦屋さんに注文しました。
『すいません。今日、忙しいらしくって30分かかるみたいです』
総務のみんなは黙って、うなずいて仕事をしていました。
『ロデム、ちょっと応接に来てくれる?』と部長が言いました。
二人で応接に入りました。
『ロデム、無事でよかった。本当に良かったよ。ただなぁ、警察の話だと、彼もいっしょだったんだってな!』
『はい・・・すいません!!』
『寮にほかの人入れちゃいけないだろ!!』
『すいません・・・昨日から今日にかけて一緒にいてくれたんです・・・』
『これからはそういうことしちゃだめだぞ!!』
『すいませんでした。部長、私、三茶の寮、怖くなってきたので、早めに引越しします・・・本社からも遠いし』
『結婚決まってるんだもんな。早めに近くに引っ越して来いよ・・・まったくなぁ、お前はお店に帰りたいとか騒いだ後は、不審者が部屋に入って騒動おこしたりなぁ・・・困ったやつだな』
『何でこんなことになるかわかりません・・・何かがおかしいんですよね・・・』
『まぁ、それがロデムらしいところだけどな・・・お前、眠くない?』
『めちゃめちゃ眠いです』
『オレもたたき起こされたからな・・・ちょっと一休みするか・・・』
一休みしていると、出前が来ました。部長が全部払ってくれて、全員でありがとうございます!といって、そばとかうどんとかを食べました。
食べたら、もっと眠くなりましたが、頑張って報告書を午後は書いて、定時に早々に上がらせてもらいました。
部屋に帰るのが怖くって、三茶の商店街でご飯を食べて、部屋にいました。
寮の友達は忙しくって、なかなか帰ってきません。
私は、一人で部屋にこもって、ずっとテレビを見ていました・・・
