幸せな死神さん

 

顔は怖いけど、心はとても優しい死神さんがいました。

死神さんのお仕事は、閻魔さんから「連れてこい」と言われた人を連れてくることでした。

そんなある日、閻魔さんの命令に従い、ある男の人を連れに病院を訪れました。

病室のベッドの上に、その男の人が横になっていました。

死神さんを見つけた男の人はこう言いました。

「もう、時間なのですね・・・せめて、最後にお願いが一つ」

死神さんは答えました。

「いいぞ、いってみな」

男の人は言いました。

「家族に最後に伝えたいことがあります。それが終わるまで待ってはもらえないのでしょうか」

「ふむ・・・早めにしてよな」

「ありがとうございます!!」

それから男の人は一言も言いませんでした。

嬉しい時も、悲しい時も、痛い時も。

ただ、何も話さず、家族を優しく見守る、いつも家族を一番に考える優しい人でした。

「はあ・・・こいつ、やるな。ま、たまにはこういうのも悪くないかもな」

死神さんは、そう言って微笑みました。

そして、10年20年30年が経ち、男の人は、初めて死神さんと出会った病室のベッド上に、また、横になっています。

「やあ、30年ぶりだな」

死神さんは、笑みを浮かべながら男の人に話しかけました。

男の人も笑いながら死神さんを見つめています。

「もう、満足だろう?さすが、これ以上伸びると、閻魔さんに叱られるんでね。最後の一言、手短に頼むよ」

男の人は頷きました。

そして、ベッドの回りを囲んでいる家族に向かってこう言いました。

「みんな、愛しているぞ」

その言葉を最後に、男の人は死神さんと一緒に、空を飛んであの世へと旅立ちました。

「おい!30年間何所で油売っていたんだよ!」

閻魔さんは、怒っていました。

「すみません。手強いやつだったので」

死神さんは、笑いながらそう答えました。

けれど、これで一件落着。

死神さんのお仕事も大変ですね。