サッカーファンの皆様、ご機嫌いかがでしょうか?

4月29日(水)、祝日という事でミッドウィーク開催となる明治安田生命J1リーグ第8節。


その中で個人的に最も注目している一戦が、等々力競技場で行われる川崎フロンターレ×柏レイソルです。

何故注目しているかというと、共に「ボールを持って相手を叩きのめす」サッカーをチームのサッカースタイルとしており、例年の川崎×柏とは全く違うゲームになると思うからです。


◯ここ数年の川崎×柏は「90分間ボールを持ち続ける川崎」×「相手のストロングポイントを消す柏」だった。

2012年4月に風間八宏監督が就任した川崎フロンターレは徹底的に選手達自身の足元の技術に拘り、ボールを失わない事を前提に90分間ボールを持ち続けて相手を叩きのめす、日本では「非常識」と言われるスタイルをどんな相手にもブレずにやり続けてきました。

対して昨シーズンまでの就任期間にJ2、J1、ゼロックススーパーカップ、天皇杯、ナビスコ、スルガ銀行チャンピオンシップと数々のタイトルをもたらし、FIFAクラブワールドカップベスト4、アジアチャンピオンズリーグベスト4と、国際舞台でもチームを躍進させた名将ネルシーニョ監督(現ヴィッセル神戸監督)が率いた柏レイソルは、対戦相手のストロングポイントを消す為に、相手によって戦い方やシステムを臨機応変に変更する緻密なチームでした。

そんな柏に対して、風間体制の川崎は僅か1勝しか挙げていません(風間体制以降の川崎はネルシーニョ体制のレイソルに通算1勝4敗1分)。
その挙げた1勝も柏がACLセミファイナル、アウェーで中国の広州恒大に0-4で大敗してから中3日での等々力でのゲームだったのでコンディション的にも明らかに川崎が優位な中での勝利でした。
それでも柏はサイド攻撃から幾度も川崎のゴールを脅かしていた為、川崎が3-1で勝ちはしたものの決して簡単なゲームではなかったという事は強調しておきます。

川崎のストロングポイントであるテンポの良いパス回しからの崩しをさせない為に、その軸となる川崎の中盤を封じてボールの循環を悪くさせ、手詰まりにさせた所でボールを奪ってカウンター、またはサイド攻撃で仕留める柏の「川崎対策」の前に川崎は何度も苦しめられました。

ちなみに今シーズン、川崎はネルシーニョ率いる神戸と2節で対戦し、中村憲剛と大島僚太のダブルボランチをまず潰しに掛かられて、何とか2-2で引き分けたものの、やはりネルシーニョの「川崎対策」に苦しめられましたし、先日のナビスコカップでも途中から出場した憲剛に対して本来右サイドバックの奥井諒を真ん中に配置し、憲剛にマンツーマンでマークに付いて徹底して川崎の中盤を機能させない采配を振るって来ました。

少し話が逸れましたがとにかくネルシーニョ監督時代の柏とは食い合わせが悪く、川崎が柏の対策を上回ろうとしても更に試合状況を見てネルシーニョが即興で対策を打つので、柏にはとことん相性が悪かった、そんな印象が強くあります。


◯「ボールとスペースを支配するサッカー」。ネルシーニョと真逆のスタイルに舵を切った「達磨レイソル」

そんなネルシーニョが昨シーズン一杯で柏の監督を退任し、後任には柏の下部組織の監督やダイレクター、強化本部長、強化部ダイレクターを歴任した吉田達磨氏が就任しました。

吉田監督が植え付けたのは前任のネルシーニョとは真逆の「ボールとスペースを支配するサッカー」です。

相手は関係なく、徹底的にボールを持つ事に拘り、相手を「破壊」するサッカー。
そのスタイルは風間監督就任以降の川崎のサッカーと全く同じ方向性で日本では「非常識」と呼ばれるスタイルです。

但し、風間監督が就任してからスタイルをトップチームから根付かせてそれを下部組織に落とし込んだ川崎とは真逆で、柏は吉田監督が下部組織を率いていた時既にこのスタイルを根付かせており、ネルシーニョ勇退のタイミングで、満を持して下部組織から根付かせてきたスタイルをトップチームに落とし込む方向へ舵を切った訳です。

現在、柏の主力選手として活躍している工藤壮人、茨田陽生、そして湘南ベルマーレから「呼び戻された」武富孝介は柏のU-18在籍時に吉田監督の下でプレーしており、吉田監督のスタイルを熟知していますし(ちなみにハノーファーの酒井宏樹も吉田監督の教え子です)、山中亮輔、秋野央樹、輪湖直樹、小林祐介、太田徹郎ら下部組織出身選手にとっては慣れ親しんだスタイルと言えます。
なのでトップチームにスタイルが浸透するのもスムーズで全員が同じ方向性で迷う事なく、どのような結果になってもブレずにサッカーをやれている、今シーズンの柏はそんな印象があります。


◯スタイルの「ミラーゲーム」

前述の通り柏がボールを持って相手を叩きのめすスタイルに舵を切った事で川崎と同じサッカースタイルとなりました。
よく同じフォーメーションのチーム同士で選手がマッチアップする形になるゲームを「ミラーゲーム」と呼ぶのですが、今シーズンの川崎と柏のゲームはフォーメーションではなく「サッカースタイルのミラーゲーム」と言えるでしょう。

川崎としては全く同じスタイルのチームと対戦するのは風間体制以降では初めてですし、当然柏も初めて。
ですから相手を叩きのめす両チームのスタイルがぶつかり合った時、どんな試合になるのだろうか、全く想像がつきません。だからこそ物凄く楽しみな一戦なのです。


◯サッカーの原点=「ボールを持つ楽しさ」を感じたい

両チームのスタイルを考えるとスコアがお互い大きく動く試合になるかもしれません。
勝負を分けるとするならばどれだけ相手よりボールを持つ事に拘れるか。そこに尽きるでしょう。

ボールをどこに止めるか、ボールをどこにどれくらいのスピードで味方のどちらの足に出すか、どれだけ相手が嫌がるボールの運び方が出来るか、相手の矢印を認識してどれだけ相手の矢印の逆を取ってマークを外し続けられるか、そういったチームとしてボールを持ち続ける為の技術を相手以上に拘り続けられるか否か。そしてボールを持つ為の技術に目の前の相手には絶対に負けないという闘争心をプラスした「戦闘能力」でどれだけ相手より上回れるか。
それが勝敗を分けるポイントになるのではないかと思います。

ただ、個人的には勝敗以上に「ボールを持つ楽しさ」を感じさせて、両チームのサポーターや観客が胸躍るような試合になって欲しいと願っています。
サッカーを初めてやった時を思い出してみて下さい。
サッカーを始めた時は必ず自分の足元にボールがあって、ボールを蹴るのが楽しかった筈です。
そして他の人に自分のボールを奪われてしまった時は必死で自分のボールを取り返しに行った筈です。
みんなサッカーを始めた時は「ボールを持っている事が楽しい」を前提にボールを蹴っていた筈なんです。
つまり「ボールを持つ楽しさ」はサッカーの原点なのです。

川崎フロンターレと柏レイソルの一戦はそんなサッカーの原点をみんなが思い出す試合になって欲しいと願いながら、水曜日、等々力競技場に足を運びたいと思います。