この冬

一番じゃないかと思うくらい寒い日に

彼女が病院から退院して

施設に帰ってきた

 

 

 

 

熱発を繰り返して

点滴が続いていたが

食事も以前と変わらず

取れるようになったらしい

 

思ったより元気そうだ

おかえり

ただいま

変わらない笑顔にほっとする

 

 

彼女の部屋には古いラジオがある

 

つけようか

というと

 

壊れてるみたい

と暗い表情を浮かべた

 

ラジオって

そう簡単に壊れるかな?

 

電源を入れると

たしかに何の音もしなかった

 

うまくチューニングが出来てないみたい

 

と言うと

 

そうみたい

みてもらったけど

うまく音が聞こえなくなったみたい

 

ダイヤルを回してみても

全く音が入ってこない

 

私自身ラジオを聴くことがないから

チャンネルもよくわからない

 

とにかく

ぐるぐる回し続けた

 

アンテナかな?

長く伸ばしてみても方向を変えてみても

何も聞こえなかった

 

やっぱり壊れちゃったみたいね

ありがとね

 

多分

いつもなら

そうみたいだね

残念だね

また家族さんに言ってみよう

って

終わらせたに違いない

 

だって

私なりにできること

ちゃんとしたんだから。

 

ちゃんと相談員として

対応したんだから。

 

 

ただ

私には後悔があった

 

今彼女のためにできること

私には体温がのっているのか

 

彼女がいつも楽しみにしている

ラジオをきかせてあげたい

 

チャンネルを切り替える

 

かすかに

「ジ ジ ジ」

と電波の音がした

 

だけどうまく音が拾えない

 

ゆっくり回しても

クリアな音がどうしても入ってこない

 

やっぱり壊れてるわね

 

私みたいね

 

とおどけてみせた

 

違う

絶対違う

絶対そんなんじゃない

 

だって壊れてなんか絶対ないから

 

そっか

そうだよ

 

ラジオの向きを変えてみた

 

聞こえる

 

ラジオから

軽快なパーソナリティの声が聞こえる

 

聞こえた

 

ふたりで声をあげて笑いあった

 

きっと

きっとね

 

私に出来ることは

こんなことぐらいしかない

どうしたって

彼女の人生を変えてあげるような

奇跡はおこせない

 

けど今

彼女とこうして

笑いあえたことがすべてだ