https://38news.jp/economy/10950
☆三橋貴明の「新」経世済民新聞
(三橋貴明の公式サイトhttp://www.mitsuhashitakaaki.net/)より【転載】。
From 小浜逸郎@評論家/国士舘大学客員教授

814日の日本経済新聞記事で、「雇用改善で内需拡大 46月実質GDP4.0%増」という見出しが躍りました。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS14H0F_U7A810C1EAF00...

ほんとかね、と思って記事を読んでみると、やはり肝心のところを見ていない浮かれ記事です。

まず、名目GDP成長率については何も書かれていません(新聞記事には書かれているのですが、ネット記事では、なぜか省かれています)。

御存じのとおり、実質GDP成長率は直接積算できず、名目成長率と物価上昇率との関係で決まる概念上の数字ですから、名目成長率が上がらなくても、物価が下落すればそれだけで上昇します。

案の定、物価の変動を示すGDPデフレータは、前年同期比で、0.4%のマイナスになっています。

日経記事には、両者がまったく関連付けられていません。

またこの記事では、景気回復を印象づけるために、消費や投資の伸びを示すさまざまな兆候を挙げていますが、どれも根拠に乏しく、内需拡大を結論づけるには大いに疑問が残ります。

これらについてはすでに三橋貴明氏や藤井聡氏が指摘されています。

三橋氏は、実質賃金、実質消費、GDPデフレータと、三つの指標が全てマイナスになっている以上、再デフレ化と判断せざるを得ない、と。
https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/day-20170815.html

また藤井氏は、近年の企業の好成績は外需の伸び(つまり輸出)に依存するもので、確実な内需拡大を示してはいず、国際情勢の変化でどうにでもなるたいへん不安定なものである、と。
https://mail.google.com/mail/u/0/#inbox/15de44eef3fcc5c4

一番の問題は、「経済専門紙」を標榜する日本経済新聞のようなマスコミが、日本はすでにデフレから脱却したという、このような超楽観記事を載せることで、国民がそう思い込んでしまうことです。

そうすると、手ぐすねを引いて構えている財務省を中心とする緊縮財政派が勢いづき、財政出動不要論や消費増税の正当化に向かってそれっとばかりに走り出します。これをやられると、日本経済は再生不能です。

日本経済新聞が景気判断についてデタラメを垂れ流すことは今に始まったことではありません。

ここでは、上記記事の詳しい批判は三橋、藤井両氏にお任せするとして、この新聞が、経済に明るくない普通の読者をたぶらかす悪しき体質を、もともと骨がらみで抱えていることについて、別の面から指摘しておきましょう。

筆者は前回、「日本人よ、外国人観光客誘致などに浮かれるな」と題して、2016年の「旅行収支」が1.3兆円の黒字を記録したことなどにそんなに大げさに騒ぐなという趣旨の一文を寄せました。
https://38news.jp/economy/10870

ところが、その矢先、日経新聞が見事にこの大騒ぎをやってくれたのです(813日付)
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO19940990S7A810C1EA300...

訪日消費、主役は欧州客 「爆買い」より体験

訪日外国人の消費が新しいステージに入ってきた。

これまで日本でお金を使う外国人といえば中国人が中心だったが、
英国など欧州勢も1人あたりの消費額を伸ばし、存在感を高め始めた。

地方での訪日消費も息長く続き、いずれ地方経済のけん引役は
公共投資から観光消費にかわるとの期待も出ている。(中略)

観光庁によると、4~6月期の1人あたり旅行消費額は、
首位の英国が25万円、2位のイタリアが23万円。
近年トップだった中国は22万円で3位。
フランスやスペインも20万~21万円台で肉薄する。

消費の主役はいまや欧州勢だ。

1~6月期の訪日客消費額は2兆456億円で過去最高。

みずほ総合研究所は下期もこの勢いを保つなら、
年間の付加価値誘発額は4兆円になると試算。

名目国内総生産(GDP)で0.8%の上昇が期待できる。(以下略)

突っ込みどころ満載ですが、三つにまとめておきます。

1.一人当たり消費額が、中国人より英国客のほうが少しばかり多くなっても、絶対人数では中国人が20倍以上。そのことは記事の後略部に書かれているのに、それに対するネガティブな評価は一切書かれていません。

しかも、筆者が前記事で述べたように、観光客は、「外国人訪問客」の6割どまりで、残りはビジネスその他なのです。

日経記事は、「1人あたり旅行消費額は、首位の英国が25万円、2位のイタリアが23万円。近年トップだった中国は22万円で3位」と、グラフまで掲げて麗麗しく書いていますが、英国とイタリアの訪日人数の合計は、中国一国のわずか6%にすぎません。これでどうして「主役は欧州客」なのでしょうか。印象操作もほどほどにしてほしい。
http://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/since2003_tourists.pdf

2.
訪日外国人が増えても、GDPにカウントされるのは「旅行収支」なので、そのぶん日本人の海外渡航での出費が増えれば、GDPは増えません。

記事中に、「年間の付加価値誘発額は4兆円になると試算。名目国内総生産(GDP)で0.8%の上昇が期待できる。」とありますが、この数字は、たとえ予測通りとしても、日本人が海外で消費する金額が差し引かれていないので、明確に誤りです。

海外取引額としてGDPにカウントされるのは「純輸出」、つまり輸出額-輸入額ですが、旅行収支もこの中に含まれます。
結局、0.8%という見込み数字は、「輸出分」だけを計算しているのです。

3.ちなみに「旅行収支」のGDP寄与額1.3兆円は、2016年で、わずか0.26%です。
これで、「いずれ地方経済のけん引役は公共投資から観光消費にかわるとの期待も出ている」とは、お臍が茶を沸かします。

地方財政は、わずかな例外を除いて、いまどこも逼迫しています。
ことに、度重なる災害が起きた地域では、対策費捻出に血のにじむ思いをしています。

中央政府は財務省の「緊縮真理教」のために、ろくな財政出動も行わず、公共投資を減らし続けています。

地方交付金をケチってきたために、老朽化した橋やトンネルを修繕できずに潰してしまうところも出ています。

橋やトンネルを潰すということは、そこを通過する道を丸ごとなくしてしまうということでもありますよね。

災害大国日本のインフラ整備は、こんな情けないありさまなのです。

これでは、百歩譲って「観光大国」なる目標を景気回復の選択肢の一つとして認めるとしても、そのために不可欠な基盤整備や観光資源の維持・開発もままならないでしょう。

そういう現実をきちんと指摘して、政府に喫緊の課題として突きつけるのがマスコミの役割であるはずなのに、なんと日経は、「政府は20年に訪日客消費を現状2倍の8兆円の目標を掲げる。」などと、もともと何の根拠もない謳い文句を嬉々として掲げ、政府の宣伝係を自ら買って出ているわけです。

日経のこの記事には、悪政のお先棒担ぎをやっているさまがありありと出ています。いまの日本のマスコミの劣化状態を象徴していると言ってよいでしょう。恥を知れと言いたい。

★小浜逸郎ブログ「ことばの闘い」
http://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo