94.イラク攻撃7
➡アメリカがイラク占領統治のお手本として、太平洋戦争後における日本占領統治の例を採用すると言っていた。しかし、この類推はとてもいい加減なもので、まず成功しないことが明らかであり、実際そうなりつつある。
先ず、イラクとアメリカは、嘗て日本とアメリカがそうしたように、国民が総力戦を戦っていない。勿論、イラクは日本のように、原子爆弾による都市殲滅や絨毯爆撃による大量無差別焼き殺しも受けてはいない。アメリカはイラク攻撃に於いて、一応は限定目標に対して、お上品なピンポイント爆撃をするという建前は取っている。
イラクにおいて、フセインという独裁者集団がアメリカに一方的に征伐されて、イラク国民が巻き添えを食ったという感じである。
その巻き添え的暴行は広汎で残酷で理不尽なものであり、イラク人民の多くにとって、アメリカは占領統治者ではなく、要らぬ侵入者であり、民衆殺戮者でしかない。イラク人は国としてアメリカと戦争をして、降伏したとは思っていない。
この戦争はイラク人にとってアメリカとS・フセインとの間の私闘でしかない。イラクという国はアメリカと戦っていないのであり、それがイラク人のフラストレィションである。
日本は対アメリカ戦の前から、自らの伝統に準拠して民主制をもう構築していた。
しかしイラクにはそのような経験も追想もない.
然るにアメリカはイラクのIdentityを人工的に拵えて上げる事が今からできると思っている。
だがIdentityは自らが産み出すしかないものであり、誰かにあてがわれて出来るものではない。建国というものは、もろもろの倒錯や試行錯誤が交錯して、長い追想の積み重ねのうちに熟成するものであって、人口国家を、それも軍事的暴力によって、いきなり作って美しい理想をそこに植えつけようとしても、それは沖合の海面に松の苗木を植えるようなものでしかない。仮に見かけ上の民主制が出来上がったとしても、アメリカが立ち去ればすぐさま分裂瓦解するであろう。
自由というのは自分が自分の理由であることを言う。されば・・・民族自決の原理に違背して他国による暴力的な介入によってお膳立てをしてもらった国で、独立して自らのIdentityを確立したという事例は今まで一つもないことは必然の理であろう。
アメリカが他国の内政に手を突っ込んで親米民主国が完成したという事例が存在しない。
尤も、従米国(日本、韓国、フィリピン)や憎米国(イラク、サウジアラビア、アフガニスタン、南米の諸国など)ならいくらでもある。
イラクは人種的に(クルド人とアラブ人)、宗教的に(イスラム教のシーア派とスンニ派)、という風に部族的に分裂していて、国家としての自律的な建設をした追憶がない。イラクの体制は外国から侵略者的にやって来るか、フセイン独裁のように天から暴力的に降ってきたものである。然るに日本においてはイラクのような宗教的な原理主義が存在せず、アメリカは日本の国家としての継続性を天皇制の存続という形で保障したのだが、勿論日本には人種の単一性と共に、国家としての継続性が元からあったのである。
自由は、自らが自らの理由である事を言うが、民主制は自分が自分でなければならない事を言う。
即ち、いずれも同質性-より正確には自己同一性-が前提である。
AとBが異質であり、そして、A≻Bであるとき、民主的な意思決定方法と称する多数決は、AによるBに対する強制であり、したがって行く先は強制支配か、又は分裂内乱か、又は一方の手によるもう一方の絶滅・追放、のほかに有り得ない。
日本の場合、天皇がいて、対米戦争終結のときに、全ての武器をアメリカ軍に引き渡せという詔勅を出した。日本人は皆これに従った。
しかしイラクにおいては、フセインが放棄した厖大な兵器は放置され、持ち出されイラク人民に行き渡ってしまった。この武器が今アメリカ軍に向けられている。
結果として、アメリカは少数精鋭主義を採ってフセイン軍を破壊するには成功しのだが、破壊のあとの管理については見通しが甘かったのであり、アメリカのパウエル国務長官(軍人からの転身者であり、しかも理論派だ)が主張したように、そしてアメリカのシンセキ元陸軍参謀長官も言っていたように、数十万単位の大軍を動員して、正攻法の占領政策を取り、イラクの人民の武器を徹底的に(支配の意志を持って)取り上げねばならなかった。
イラクの民主化やイラクの自主更生などはそれから先の話だ。然るに軍事的な素人であるブッシュとその取り巻きの政治家達(ブッシュ大統領を筆頭としてチェニー副大統領、ラムズフェルド国防長官、ヴォルフォウィッツやR・パールなどの高官達)は、机上の想像の中でのみイラク征伐を夢想していて、パウエルが主張したような玄人の意見に耳を貸さなかったのである。ヴォルフォウィッツやR・パールなどユダヤ系高官達にしてみれば尚更で、彼等の第二の母国イスラエルのためには、イラクが混乱して無力になりさえすればいい。