3-ハ.巻き込まれ、便乗し、順応し、利用しつつ生き延びようとした人々

先ず国民はどうであったか。真珠湾攻撃の大戦果に始まって、中間負け知らず、台湾沖航空戦での大勝利によって米国艦隊は殆ど壊滅していなければおかしい筈であるのにここに到って何故体当たり攻撃が必要であるのか。

特攻によって必勝の道筋が見えたと思い昂揚したということはいかなるザマであるか。

幸運にも特別攻撃に辟易したアメリカが降りてきたとしても、そのときに結果がよかったから特攻手段が良いなどということが誰に出来るであろうか.

しかし、国民は大本営の邪悪な虚報-(壮烈!敵空母に必殺の体当たり。敵空母轟沈!・・・など)-に希望を見出し、特攻さえすれば戦争に勝てると錯覚したが、しかし、それはそのまま東条英機以下大本営のエリート達、そして、総司令官、方面軍司令官、航空師団長、彼等にまとわりつく参謀達、の浅ましい姿でもあった。

願望をそのまま情勢認識であるかのようにする人種的な性癖はここでも現れ、そして、戦後は反転して無防備他力依存やられ放題平和憲法願望が真理でもあるかのようにして取り扱われている。

(注)*-台湾沖航空戦

(アメリカ軍がフィリピンのレイテ島上陸作戦をごまかすための目くらまし作戦として台湾を攻撃した。(米第58機動艦隊)

そのとき迎え撃った陸海軍航空隊のゼロ戦、艦攻、艦爆、総計400機余が敵空母、戦艦など45隻を大破または撃沈し、敵航空機120機を撃墜して大勝利、アメリカのハルゼーが率いる航空艦隊は殆ど全滅したと報告された。しかし、実際には我が航空戦力が8割方壊滅し、敵艦船の沈没はゼロであった。我が方の航空機損失350機に対してアメリカ航空機の損失数は89機であった)

司令官、参謀、実務者の大群-

立場的には特別攻撃体制に乗るしかない。

乗っている間は熱中したつもりだ。しかし、中には反対して左遷された人もいた。

体制に乗った人々は本心のどこかで何かに自分を委ねていて、過ぎ去ればまた上手に泳ぎまわって生きて行ける。一人一人を取ってみれば一人は所詮一人であるけれども、この圧倒的な大群が実は歴史の素材であるとともに主人公でもあり、決定的な力であるわけだ。何かしらのお墨付きによって動くので無自覚であり、安心して晴れやかであり、迷いがない。

しかも数量が非常に多いために恐ろしい力である。

だが、自らは自殺攻撃をするつもりがないままに、欺き、脅迫し、おだてつつ他人の子を自殺攻撃に組織し、しかも組織したという事実を巧妙に隠蔽しつつ、「志願制」を装うことによって自分達の犯罪性を糊塗し、そして、自分のしていることの意味に対する自覚さえも喪失したこの非主体性的な家畜の群れが、我々日本人の原像の一つである。

精神的土壌に、捨身、自己犠牲、精神力絶対主義の風土が存在した。そしてこれへの過度の偏好と、これの広汎な勧奨と利用が存在した。これさえあれば万能とでも言いたげな口振り。

技術や合理を云うと臆病者と、ブッたるんでいるなどと言われかねないような病的状態が高等教育終了者である陸海軍大学校の卒業者に流行蔓延したのはいかなる教育であったか。

一般兵士の純良勇敢なるに全面的に頼って日露戦争に勝ってからは、完全にのぼせ上がって進歩が止まった(実は止ったのではなく大幅に退化したというほうが正しい)日本軍歩兵の制式銃として、明治38年式のものをそのまま昭和20年まで使わせ続けたことにもそれが表れている.

資材であるとともに要所間の接着剤でもあるような類型。自己決定をしない犬ではあるけれども人間の組織化の為の(数が多く、個々人が表面に出て目に付くということがないが)最強の部分の描写(引用)がこれだ.↓

[「・・・とにかく栗田艦隊*-(飛行機による制空権のない、戦艦を中心にした艦隊で、栗田海軍中将が指揮していた)-をレイテ湾に突入させ敵の輸送船団を叩く。勿論、そこに居るマッカーサーも殺す・・・(それが可能であるため)には一週間(敵の)空母の甲板が使えなければよいことだ。そのためには零戦(ゼロ式艦上戦闘機-飛行機同士の空中戦用のもので爆撃用にはできていない)に二百五十キロ爆弾を抱かせて体当たりさせるほかない・・・」(このような)大西(滝治郎)の言葉の後・・・しばらく沈黙があったが・・・

「いったいゼロ戦に二百五十キロ爆弾を抱かせて体当たり攻撃した場合、どのくらい効果があるのだろう」玉井副長が、隣にいる二十六航戦の吉岡参謀に尋ねた。「・・・高い高度から落とした速力の速い爆弾に比べれば効果は薄いでしょうがね。しかし空母の甲板を破壊して一時的にその使用を中止させることはできると思います」

・・・ややあって玉井は

「長官、三十分だけ、猶予をいただけませんか」

といった。

・・・玉井中佐は、指宿大尉、横山大尉を促して、自室へ二人を招きいれながらいった。

「閣下はすでに決意されているようだ。・・・やむをえないとは思うが・・・」

指宿大尉が「わざわざ私たちに聞いていただかなくても、私に依存はありません」と間髪をいれずにいった。

「それで決まった」

玉井はおおきくうなずくと・・・大西長官のいるベランダへ戻った。

「長官、この特別攻撃は二○一空でやらせてください」・・・「重大なことですから部隊の編成は私にやらせてください」・・・(「海軍中将大西滝治郎)~秋永芳郎~光人社)(太字は筆者)