谷村新司が死んで、谷村のことばかり考える

日々が数日続いた。自分でも意外。

自分にとっては過去の人と思っていた。

知人でアリスファンの人に復活ライブに誘われたときも、

もう谷村やアリスは卒業したし思い出だけあればいい

と思って行かなかった。それが訃報を聞いてこんなに

谷村が気になるとは。やはり中学生時代猛烈に

好きだったからだろう。アリスを繰り返し聴き

(そういう男子はクラスに大勢いた)、谷村のラジオを

聴いてエッセイも読み、「天才秀才ばか」まで読み、

アリス漬け、谷村づくしの毎日。アリスの映画も

見に行った。いつも帽子をかぶっていたが

これも谷村のマネだった。

 その後サザンやビートルズが好きになり、

谷村の生真面目世界から離れた。

でも中学生時代よく聴いたレコードは懐かしくて

その後CDで全て揃えた。テレビで『三都物語』や

『忘れていいの』を耳にすると

相変わらず良い歌歌ってるなと思う程度だった。

 谷村が死んで、NHKでアリス復活時の

スタジオライブが再放送され、ミュージックフェアでは

追悼特集が組まれたので両方見た。谷村はルックスが

良かったらさらにスーパースターになっていただろうな

と感じた。ヒット曲の多さには改めてビックリ。

才能を活かしきった悔いなき生涯だったはず。

本当にいい曲を書く人だった。孤独とか訣別の歌が多い。

『夢去りし街角』『風は風』『緑をかすめて』『五年目の手紙』、

『君よ涙でふり返れ』『遠くで汽笛を聞きながら』

などが印象に残る。

 

 谷村が死んで、いろいろな話がネットに出ている。

『いい日旅立ち』が出来た時、谷村は百恵に電話した。

百恵は「すぐに聞かせて下さい」と頼み、

谷村は電話で歌った。百恵は「素敵!」と言ったとか。

(話は逸れるが、やはり百恵はいろんなアーティストを

燃えさせる特異な存在、歌姫だったんだな)

 坂崎幸之助の話。坂崎と谷村は古い知人で、

『帰らざる日々』が出来た時、谷村は坂崎に電話し、

「アルフィー向きの曲が出来たんだけど、どうかな?」

と言ったそうである。『帰らざる日々』はアルフィーの

曲になる可能性もあったのだ。

 百恵に書いた『This is my trial』は、

百恵のラストアルバムのトリをとった曲。

非常にドキュメンタリックな曲で、

「私のゴールは数えきれない人達の胸じゃない」

(ファンよりも、愛する男性を選びます、という意味)、

という歌詞を百恵に歌わせている。

こういう歌詞を引退時の曲として書くところが

谷村はすごい。この攻めた歌詞が。

そして百恵もこれに応え、ラストコンサートの

オープニングでこれを歌った。

こんな歌を歌ったら、そりゃもう のこのこ

復帰なんかできない。谷村は百恵の退路を絶った。

このガチな感じが谷村の凄いところ。

おそらく、百恵に突き詰めた本音を言わせよう

として書いたんだろう。

このアルバムには多くのアーティストが参加しているが、

こういうことを思いつくのは谷村だけ。この企画力、

ジャーナリスティックな感覚が圧巻。

アリスのラスト曲『風は風』にも同じことを感じる。

「カネの為に歌ってきた」とか書いている。

こういうところが谷村は面白い。私小説的な部分が。

あと歌詞を見ていると彼の博識さを感じる。

「冬薔薇(ふゆそうび)」なんて言葉はなかなか

書けるもんじゃない。

 

 谷村が息子と絶縁していたというのには驚いた。

息子は音信不通で葬儀にも現れなかったという。

以下はネットで見た情報で真偽の程は確かでない。
 息子は大輔といい、「天才秀才ばか」にも名前が

よく出てきた有名こどもだった。

その大輔は大人になり谷村のCDのアートディレクターを

していたが、谷村の事務所の女子トイレで盗撮行為を

してしまった。谷村は激怒、息子を解雇し勘当した。

(谷村には『血の絆』という、親子の結びつきの強さを

謳った曲もあるのになんという皮肉であろう)

息子は妻子に逃げられ現在音信不通。

盗撮騒ぎ発覚後、息子はマスコミの取材に

「子供の頃から谷村にスカトロ物のビデオを見せられ続け、

以来、スカトロマニアになってしまった」

と話したという。これは知らずにいたかった話。

 

 もしも事実ならば、谷村、紫綬褒章までもらったのに、

それはあかんやろう。そんな特殊な性教育を息子に

施しては。それじゃ梶原先生よりあかんわ、とも思うが、

まあどこまで事実かはわからない。

でも谷村にしても梶原先生にしても、本当に美しいものを

書く人はその逆の事もよく知っている人なのかもしれないな

とは思う。中途半端な奴は中途半端なものしか書けない。

それにしても、人間死んだらいろんな話が

出てきてしまうものだ。

 

非常に興味深い人だった。合掌。