小説『天平の甍』井上靖

 

新潮文庫 昭和39年初版 

入手したのは平成6年の69刷。

もともとは昭和32年 中央公論社刊行

の小説。

本体350円 古本屋で80円で買った。

 

世の乱れを正すため、唐から優れた僧を

来日させるべく、遣唐使に加わった若い僧が、

苦難の末、高僧・鑑真を日本に招き帰るまでの

物語。

「私には高尚すぎるのでは」との先入観があり、

今まで敬遠していた小説だが、読んでみたら、

シンプルに「面白い」小説だった。

長い長い旅の物語。旅行好きの私にとって

つまらぬはずがない。これぞホンモノの旅だ。

唐に渡った若僧たちは、自分が唐で何かを

学びとれるのかは勿論、生きて日本に帰れる

のかすらもわからない。

(当時の船舶技術では、唐と日本を無事に

渡れる確率は100回に1回程度だったという)

それなのに遣唐使になる。まさに命がけ。

この時点ですでに ものすごいロマン。

苦難の連続で面白い面白いと読み終えるが、

その後で、いろいろと考えさせられる。

使命に生きる人生の素晴らしさ。

結果的に無為に終わることもある、人生の儚さ。

まさに人生の無常。

若僧たちがそれぞれ選んでいくそれぞれの

人生が、人間の道の多様さを感じさせる。

 

面白い面白いと読み終えさせた挙句に、

読者に人生を考えさせる。

これは理想的小説ではないか。

小説の神髄を感じさせてくれる本だった。