小説『翳った旋舞』松本清張

光文社文庫 2019年初版 本体720円

もともとは昭和38年「女性セブン」創刊号

からの連載小説。

1985年、カドカワノベルズでの刊行あり。

あらすじ

主人公は若い美人女性。大きな新聞社の

資料部で働いている。

ある時、彼女は人物写真を間違えて

整理部に渡すミスを犯し、それがそのまま

紙面に載り、大問題になってしまう。

このミスが原因で主人公の上司は左遷。

しかし実はこれは、新しく就任したばかりの

編集局長が、社内の引き締め的な意味合いも

多分に込めた人事であった。

この件をめぐり、主人公は雲の上の存在で

ある編集局長と関わりになるが、そこからさらに

予期せぬ運命に巻き込まれていく。

感想

ひさびさに清張先生読む。

これは驚きの小説であった。

前半は非常にリアルに、新聞社内の人間関係の

構造力学が書かれていて、このままリアル路線で

いくのかと思ったら、途中、主人公が突飛な

行動に出て、そこから政財界の大物の愛人に

なりかけるというジェットコースター的展開。

前半がリアルなだけに、後半の怒涛の展開が

衝撃的。

後半もリアルに書かれている。主人公の突飛な

行動のあたりだけがいささかリアルさに欠けるが、

それを挟んだ前半後半はそれぞれリアル。

女性週刊誌に連載された小説なので、

大物の愛人になる女性の心理を清張先生が

旺盛な読者サービス精神で解説した作品

のようにも思える。

その時その時は大問題として感じる出来事も、

人生を見渡す大きな目で俯瞰すれば、

小さな出来事にしか過ぎない、

という清張先生の人生観も感じられる。

それと、「社会的地位のある人物も、

一皮むけば、子供っぽい部分を残した

一個の人間に過ぎないんだ」ということも

清張先生は言いたいんだと思う。

でもやっぱり、清張先生は長編より短編、

という感じだね。