スコアブックの限界

正月に会った弟から聞いた話。
弟の息子が とあるスポーツをやっていて
先日 某大学の体育館で試合があった。
弟はその試合の間、その大学の野球部の練習を
眺めていたという。
すると、奇妙な練習をしていたという。
外野フライを捕球しない練習。
(ちなみにその大学は亜細亜大学ではない)
「あれはどういう練習なの?」と訊かれたので
答えた。
「それは無死か一死でランナー1、2塁で、
浅い外野フライが上がった時の練習。
外野手がフライを捕るふりをして、あえて捕球しない。
フライなので各ランナーはスタートしていないので、
まず二塁に送球し、一塁ランナーを封殺。
続けて二塁ランナーを挟殺して
併殺とする練習である。(外野フライなので
インフィールドフライにはならない)」

このプレーは、かつて亜細亜大学が披露し、
われわれ観戦仲間をして「恐るべし亜細亜」と
いわしめたプレーである。しかもその後
東都スポーツの記者の人により、亜細亜大は
このプレーを日頃からちゃんと練習していると伝えられ、
亜細亜大への畏敬の念はますます高まった。
今は、このプレーは各大学に広まっているらしい。

これに似たプレーで、横浜高校の「二人殺し」がある。
やはりランナー1、2塁で、二塁ランナーを牽制球で
誘い出した時、わざと挟殺に時間をかける。
これを見て一塁ランナーが二塁に進もうとして
一塁から離れた瞬間に、挟殺の対象を一塁走者に
切り替え、先に一塁走者を殺す。続けて二塁走者も
挟殺して併殺とする。甲子園の八重山商工戦で
この秘技を出し、相手の反撃意欲を一気に
削いだことがあった。
小倉元部長の著書によると、
横浜高校は やはりこのプレーを普段から
練習しているという。ある時、神奈川予選で
このプレーをやるチャンスがあったが、
選手がやらなかった。小倉氏が試合後、
「なぜやらなかった!」とその選手を叱責したところ、
「あのプレーは、ここぞという場面まで
隠しておくものと思っていました」と答えたという。
選手の意識の高さにビックリする。
これらのプレーや、「江夏の21球」もそうだが、
スコアブックに書いても、狙ってやったプレーか
偶然そうなったのかまでは記入できない。
むしろ そういうスコアブックに書けない部分にこそ、
野球の凄味とか、妙味が隠れている。
スコアブックが大好きな私だが、スコアブックの
限界はこういうところにあると感じている。