来週あたりに、書き上げた島津義弘の最終原稿(本)も、そろそろ出来上がってくるのではないかと思い、楽しみに待っているところです。

 

 ふと島津さんのことを思い出しました。

 「島津さんという方からお電話です」受付事務の女性からでした。

 「島津です。お久しぶりです。お元気ですか」

 「よく分かりましたね、ここが。僕も嬉しいです」

 「会いたいです、声が聴きたくて電話しました。でももう無理かな…」

 「そうですね、お互い元気で頑張りましょう」

 他愛ないやりとりで電話を切りました。12年前のことです。

 島津さんとは、同じ学園で働いた同僚でした。

 ある昼休み、花壇のブロックに座っていると、可愛い猫が甘えて擦り寄って来ました。膝の上にも勝手に乗ってくるのです。そういう日が何日も続きました。

 しかし、ある日から来なくなりました。少し心配になって校庭に向かって手を叩きました。

 すると、何処に隠れていたのか私を目指して飛ぶようにしてあの猫が走り寄って来たのです。

 それからは、手を叩くといつでも私の許に一目散に走り寄ってくるようになりました。

 大きな学園ですから、怖くて何処かに隠れていたのでしょう。

 もう可愛くて、放っておけなくなりました。餌をあげ、雌だというので校長先生の知り合いの獣医さんに連れて行き避妊手術もさせましたが、全く嫌がりませんでした。

 お腹の毛を剃った切開手術の痕を舐めないようにと胴回りにガーゼの服を着せられて戻ってきました。

 事情を知らない生徒たちからは、「猫に服を着せるなんて、猫可愛がりもほどほどにしてください。猫が可哀そうです」と顰蹙(ひんしゅく)を買いました。それを聞いた校長先生と笑い合いました。

 私はマンションの一人暮らし、猫は飼えませんでした。そこで、友人の島津さんに相談してみました。

 「よかったら、僕が飼いますよ」と申し出てくれました。

 1か月ほどして、島津さんから「家に遊びにきてください。トミちゃんも元気ですよ」

 「トミちゃんと名付けたのですか」

 休日、2時間かけてトミちゃんに会いにいきました。

 島津さんの家は、自然豊かな津久井湖畔にあり、広い庭のある平屋のお屋敷でした。

 「島津さんの家って、スゴくないですか。もしかしたら…」

 「えぇ何でも、先祖は参勤交代で江戸に置いていかれてしまったのだそうです」

 まるで、テレビドラマ「名建築で昼食を」のように、お昼をご馳走になりました。

 テーブルの横にはトミちゃんも一緒です。

 何と、トミちゃんは、お刺身を食べていました。

 トミちゃんは、お姫さまになっていました❤。