「HAMORI-BE」という男性デュオがいるらしい。ガットネロを連日満員にし、遠方からも熱心なファンが駆けつけるという知る人ぞ知る人気デュオ。
はもりべ?

日本古代にいた「海部(あまべ)」「土師(はじべ)」みたいな特殊技能集団を思い起こさせるネーミングだ。ハモる職人。それを極めようとしている2人。それが私の第一印象だった。

 

そのHAMORI-BEのライヴに初めて行ったのは、仕事帰りの2月22日。「今日は夜の部だからゆったりしているけど、昼の部だとギュウギュウ」だとオーナーの松浦さんから聞き、その光景を妄想しながら最前席に陣取る。

 

そして開演時間になり、後方からそよ風のように登場したHAMORI-BEは、スマートないでたちですっと空気に馴染み、気がつくと私はオープニング曲に身を任せていた。この自然なエスコート。

 

さあ、今から始めますよ。

 

それではこちらも力が入ってしまうが、草原でねそべっていると何処からか歌が聴こえてくるような心地よさ。う~ん。計算しつくしているのにそれを感じさせない演出が、ニクイ。

 

その日はシリーズ「乗り物のうた」の最終日とのことだったが、てっきり「汽車ポッポ」や「ドナドナ」がラインナップにあるのかと思っていた私は、「想いを運ぶ歌」という彼らの趣旨を知ってなるほどなと感心。初めて耳にするHAMORI-BEの歌声は、生まれたばかりのヒナを両手で温めているような慈愛に溢れ、シンプルな歌詞にそっと命を吹き込む。

 

さて、4曲目あたりで、味わいが微妙に違う2人の声を聞き分けられるようになってくると、「ソロで聴いてみたい」という気持ちがムラムラと湧いてきた。湧いてきたところで、来ましたよソロが。

そうだよね。やるよねソロ。

 

2人それぞれの持ち味が歌とマッチし、思った通り聴き応えあり。今度は同じ歌をもう1人のソロとで聞き比べてみたいと思ったのは、イヂワルかしらん。

 

お楽しみのリクエストコーナーでは、「ビリーブ」をリクエスト。この現代曲をHAMORI-BEが歌うとどうなるのか、聴いてみたかったから。イヂワルかしらん。で、こういう童謡以外の曲も新鮮でいいなと思った次第。現代にありがちな、わかりやすくてまっすぐな歌だけど、HAMORI-BEが後世に伝えたいと思っている歌があれば、もっと聴いてみたい。

 

ちょっと意外だったのが、解説をまじえたMCにもHAMORI-BEらしさがあったこと。歌との流れが途切れず、それでいて素顔が垣間見えるトークに和む。柔らかい物腰。親しみやすい品性。しかしそこに、うっすらとボケとツッコミが潜んでいることに気づいたのは、私だけだろうか。

 

ちょっとしたソフト漫才。

 

これは大事にしてほしい要素だ。

 

 

そうこうしているうちにライヴは終盤にさりかかり、「赤い鳥小鳥」をみんなで一緒に歌うコーナーとなる。可愛らしいアートな紙芝居で盛り上がっている間、そういえば「赤い花白い花」という歌が大好きだったことを思い出した。忘れていた歌をひょっこり思い出してしまうのも、このライヴの力だろうか。今度はこの歌をリクエストしよう。

 

私はごくスタンダードな童謡しか知らない。それでもHAMORI-BEの歌を聴いていると、遠い昔の記憶が蘇る。この歌をどこで耳にしたのか。その時どんな気持ちがしたのか。「かなりや」の残酷な歌詞にドキリとし、でもそこが好きだったっけ。
北原白秋や西條ハ十、そして雑誌『赤い鳥』のことを知っている今、改めて童謡を聴きなおすのもいいかもしれない。絵本を大人が読み返すように、童謡もそうあってほしい。そんなことを考えた。

 

さりげない。はじめてのHAMORI-BEは、手間をかけて作られたスープのように、さりげなく体に染み込んできた。演技の世界でもそうだが、その「さりげなさ」に到達するのがどれほど難しいことか。リコーダーやギターなどの他の楽器とも相性がよさそうだ。

 

歌は心の風景。その景色をまた見に行きたくなる。せわしない日々の中で、ふと旅に出たくなる。そんな時は、HAMORI-BEを聴きに行けばいい。
                                          (2019.2.22 室山恭子)