先日のこと。


オーディションの帰りにふらりと入った定食屋で、

向かいのテーブルに座った30代男性が、

後から来る連れの分も…と、

とんかつ定食とチキン南蛮定食を頼んだ。


少し遅れて40代半ばの女性が到着し、

歳上の恋人かぁ、なんてぼんやり眺めていた。


料理を待つ間は、

ふたり共スマートフォンを眺めていて会話はないけれど、

付き合いが長いのか自然な雰囲気だ。


しばらくして料理が到着すると、

女性が「とんかつぅ!?」と声を上げた。


続いて「チキン南蛮が食べたかったのに!」と怒気をはらんだ声。


「あれ?とんかつが食べたいって言ってなかったっけ?」と彼。

「チキン南蛮だって言ったじゃん!」

「じゃあ、俺がとんかつ食べるから、チキン南蛮食べなよ」と彼が譲るも、

「いいよ別に!」と、とんかつを食べ始めてしまった。


なかなか大きな声でのやり取りだったから、

お店のひともまわりのお客さんも苦笑いで困惑した様子だったし、

私も「どうせなら半分こにしたらいいのに」なんて思ったりもしたけど、

すっかりヘソを曲げてしまった彼女の食べっぷりを、

どこか優しい困り顔で見つめている彼。


その目を見て、

彼が途方もなく彼女に惚れてるんだと分かった。


「仕方ないなぁ」「かわいいなぁ」と心の声が聞こえてくるようだった。


どんなに心を配っても嫌われることはある。

それならせめて思うままに生きるのが一番いい。


ありのままを愛して貰えたら最強だ。


こういう時、

私は黙って出てきたものを食べるタイプの人間です。



というか食べ物に関しては、

食べることが好き過ぎて、

一周回ってこだわりがないので、

何でも美味しく食べられてしまうだけなのだけど、

食べ物以外の他の場合でも、

空気を悪くすまいと大抵のことは飲み込むのが私です。


こと仕事になるとズケズケ主張もしますが、

普段はぐっと飲み込みます。


それも私らしさだから、

ありのままということになるのだけど、

あんな風にわがままに振る舞えるのちょっと羨ましいなぁと、

感慨深くアジフライを口に運んだのでした。



帰りにふと思い立って、

日の出桟橋から船に乗り浅草へ。


性格が良いから好きになる訳じゃない。


どうしようもなく惹かれてしまうのが恋だよなぁ、と寅さんのようなことを思いながら、

ボラードの縄を手際良く外すおじさんに見惚れる昼下がりでした。