広瀬勝貞大分県知事の四選では困るけれど | 日本と大分と指原莉乃の左翼的考察|ケンケンのブログ

広瀬勝貞大分県知事の四選では困るけれど

6月25日に「みんろうきょう」が、広瀬勝貞大分県知事に次回知事選での出馬要請した、という地味なニュースは、かなり重大な意味を持っている。
まず、これは広瀬氏の四選出馬が確実だということを示すニュースだということだ。
次に、旧民進/民主支持労組がほとんどを占める「みんろうきょう」からの出馬要請が、保守勢力からの出馬要請に先行してトップを切ったことだ。

広瀬氏は、大分県内に盤石の態勢を築いている。76歳と高齢で、四選となれば任期中に80歳を迎え、以前に腰を痛めたことがあるためさっさと歩くことがてきなかったり、話すときにも考えていることがスムーズに言葉にならないことが多かったり、と身体的な衰えが目立つことから、四選出馬をするのかどうかはわからないとされてきた。しかし、このニュースは四選出馬について、広瀬氏本人が意思表示したに等しいことなのだ。広瀬氏本人が出馬するつもりなら、今の広瀬氏には誰も選挙で勝てない情勢だ。
文末に、この件を報じる「大分合同新聞」の記事を掲載しておくが、「みんろうきょう」の代表者会議の会場に広瀬氏を招き、氏が応じて直接、みんろうきょうからの出馬要請文を受け取っている。これは、あらかじめ広瀬知事のスケジュールを取っておかねばできない。後日、あらためてみんろうきょうの代表が出向いて広瀬氏に要請してもいいものを、わざわざ広瀬氏が会議の会場に出向いて要請文を受け取っているとは、みんろうきょうの出馬要請を極めて重視した対応だ。
慣例では、現職知事の次回選挙への出馬・不出馬の意思表示は、選挙前半年を切った時期の議会での与党議員の質問に答える形式をとる。次期出馬確実となったら、それまでに与党となる政党や各種団体の出馬要請が、積み重ねられる。その先陣をどこの団体が切るかは結構、政治的に意味があって、それがみんろうきょうだった、ということも広瀬知事がみんろうきょうを重視し、広瀬陣営が最も効果的な団体としてほかの無数の広瀬支持団体の間で調整をした、ということだろう。


これは、広瀬氏の知事選四選出馬=四選確実という重大さだけでなく、旧民進/民主系候補出馬にくさびを打ち込む効果もあるからだ。

「みんろうきょう」とは、大分県の民間労組でつくる団体だ。官公労が主力の左派の平和運動センターが社民党とブロックを形成している大分県では、旧民進/民主党支持労組のほとんどがみんろうきょう所属だ。
旧民進/民主系からは、まだ誰も名乗りをあげていない現段階で、みんろうきょうが広瀬氏への出馬要請をしたことは、民進/民主系の政治家が大分県知事選に出馬すること自体に困難をもたらす。
2015年知事選では、旧民主党衆院議員だった、釘宮磐前大分市長が出馬して広瀬氏が圧勝している。連合大分は支持候補を決めず、みんろうきょうは広瀬支持を決めたが、連合とみんろうきょうは分裂選挙となった。

みんろうきょう加盟単産でいうと、把握している範囲内でいうと
・基幹労連や化学総連、自動車総連など、全国的(日系多国籍)大企業の労組は広瀬支持
・電力総連は自主投票
・情報労連とJR労組は釘宮支持(その主力労組の前身[旧全電通と旧鉄産労]は旧社会党支持労組だった)

連合は、民間労組先行で1987年に結成され、89年に官公労が加わって現在の連合となった。全民労協が民間連合の直接の前身で、全民労協の改組という形で民間連合はつくられた。
地方組織も当然に連合の地方組織に改組されたのだが、大分県では民労協を独自の組織として残存させた。官公労を含む連合大分ができたときに、大分県ではなお強い勢力を持つ官公労に対抗しようとしたものだ。大分県では旧民社党支持労組からなる友愛会議などより、みんろうきょうのほうが連合内の平和センターへの対抗組織として存在感がある。

広瀬県政の継続では困るのだ。経産省は「全国共通規制」を旨とし、地方自治体による独自の社会的規制(「上乗せ横出し規制」)を嫌う。国策の貫徹を地方自治体の独自の施策で防がれることは望ましくないと考えている。市場原理を重視し、日本の大企業(もちろん多国籍企業がほとんど)が市場競争力を維持・強化するためには税金の支出をためらわない。311後に悪名をはせたのは、原発推進官庁である、ということだ。
大分県では、平松県政から40年近くを通産/経産官僚出身知事が占めてきたことで、大分県内では県の力が強く、市町村自治が弱められてきた。平成の大合併で、国の方針どおりに市町村の数を3分の1以下にするのに成功した県は、全国でもあまり多くないはずだ。市町村合併で市役所から遠く離れたところとなった旧町村部の過疎と疲弊は加速した。県立高校の廃止はすさまじい速度で進められ、毎年、どこかの高校が消滅する。県立高校くらいしか若者の拠点がなくなっている過疎地で、県立高校をなくすことは財政政策による過疎促進政策で、教育政策でも地域振興策でもない。
個人的に忘れられないのは、津久見市での東北地方の震災がれきの受け入れ問題が放射能汚染への懸念から大揺れのときに、大荒れの住民説明会の開催をもって「住民多数の理解は得られた」と津久見市長とともに宣言したことだ。これには、津久見市民が猛反発の声をあげて、大分県と津久見市は丁寧に市内全域で説明会をやり直す、としたが、その後、被災地での震災がれきの処理の目処がついてきたということで震災がれきの広域処理の新たな受け入れ先は必要ないとし、津久見市で震災がれきの処理が行われることこはなかった。
知事が優秀だということは、対峙する野党勢力には困ったことだ。明晰で回転の速い頭脳で、誤った政策体系を実行されたら、対抗する方はたまったものではない。

広瀬勝貞氏は、元経済産業省事務次官。前任の故・平松守彦氏の後継として担ぎ出され、最初の知事選は、平松県政末期の腐敗への批判の的となり、当時は無名の新人だった吉良州司氏(現・国民民主党衆院議員)と大接戦だった。
大分県知事に中央官庁事務次官経験者が就くのは異例だ。次官経験者が就くには、大分県知事職は役不足なのだ。これには平松氏が自らの腐敗を表に出さないためには、どうしても旧通産省の後輩が後継でなければ、とこだわったためだとウワサされた。
広瀬氏の支持基盤の盤石ぶりには、もちろん知事の絶大な権限があるが、柔らかい県民支持が厚いということもある。終始、柔和な表情を見せ、ソフトムードで耳あたりのいい言葉で県民に接するし、頭の回転が速いことには定評があるし、大きな失策や目立つ腐敗事件がないと県民には思われている。
失政や腐敗も本当はあるのだけど、やり方が巧妙で広瀬知事に結びつく線が弱くさせられて、広瀬氏の失点とはなっていない。脱税事件から明るみに出たキヤノン・鹿島建設と県内コンサル会社の癒着は、大分県の企業誘致補助金と深い関係があり、それは広瀬知事が直接に手がけた案件だったこととか、県教委汚職事件では、広瀬知事と政治家の関与を隠ぺいするために、幹部職員が「トカゲの尻尾切り」にあったこととか。



ちなみに、大分県平和運動センターと自治労大分県本部は前回知事選で釘宮支持だったが、社民党は自主投票で、県職労は広瀬支持という複雑な態度をとった。社民党県連は、村山富市元首相(社民党特別顧問)が1期目から広瀬支持だったため、村山氏の広瀬支援を妨げないための自主投票だったと思われる。県職労は、組織防衛のため、勝利が確実な広瀬氏を支持したのだろう。


(大分合同新聞6月26日付朝刊より引用)

 県内の民間労組でつくる「みんろうきょう」(26組織、約1万2千人)は25日、来年4月の任期満了に伴う知事選について、現職の広瀬勝貞氏(76)に5期目に向けた出馬を要請した。広瀬氏は「心強い後押しで本当に感激した」と謝意を示した一方、出馬に関しては「今ある仕事を一生懸命やっていきたい」と述べるにとどめた。

 同日、大分市内で代表者会議を開催。松尾竜二代表幹事(新日鉄住金大分労組)が「候補者には4期16年の実績を持つ広瀬知事をもって他にない」として出馬要請を提起し、全会一致で承認された。承認議決を受けて広瀬氏を会場に招待。佐藤睦夫代表幹事(昭和電工ユニオン大分支部)が広瀬氏に要請文を読み上げて手渡した。

 終了後、広瀬氏は「今は災害復興や景気対策などにまい進しており、それ以上のことは考えていない」とした。5月から県内各地で地元の経済団体主催の県政報告会を重ねており、去就については「そういう中でいろんな人の意見をうかがっていく」と述べた。

 松尾代表幹事は「ギアチェンジでなく、大分県の次の道筋を示すことが知事には求められる。出馬のきっかけや弾みになれば私たちの要請は価値があったと思う。知事が判断することだが、前向きに考えてくれていると受け止めている」と話した。みんろうきょうは過去4回の選挙で全て広瀬氏を推薦している。来春の知事選では、大分市内の医師黒川達郎氏(63)が出馬を表明している。