今年10月、受賞者が発表され、
命日の12月10日にはストックホルムで授賞式が行われる。
言うまでもなくノーベル賞のことである。
今回、私がノーベル物理学賞を受賞することは、
間違いないので(遅すぎるとの話もある程だ)、
12月10日のスケジュールは今から空けてあるし、
英語やフランス語でのスピーチも完璧に仕上げてある。
ただ、この歴史的な日を半年後に控えた最近、
私はとてつもなく重大な見落としに気づいてしまった。
天才であるが故の苦悩と言い換えてもいい。
私は、今年4月、多くのファンからの要望を受けて、
『どんと来い、超常現象』の文庫版
『どんと来い、超常現象2010』という
世界的にも類を見ない最高の学術書を出版してしまった。
つまり私は、文学としても非常に優れているこの本を、
改めて世に送り出してしまったことにより、
ノーベル物理学賞とは別に、
ノーベル文学賞も受賞してしまうのではないかという、
懸念にさらされることになってしまったのだ。
物理学賞と文学賞の同時受賞など前例がないものの、
私にはその才能があったのだから仕方ない。
果たして、選考委員はこの異例の事態(希代の天才の出現)
にどう対処するのだろうか?
いずれにせよ私自身、同時受賞した際の、
心の準備だけはしておくことにした。
天才であるが故の憂鬱。
飛び抜けて人より優れているというのは、
時に深い苦悩をもたらすものなのである。