岡倉天心は1906年に、帝国主義を推し進める西洋社会と、西洋文化を盲目的に崇拝する日本の現状に危機感を抱き「茶の本-The Book of Tea」を書き上げました。茶道の中にある禅の思想を西洋人にもわかるように論理的に説明し、世界の負の傾向に歯止めをかけようと考えたのです。

 茶道の根底にある思想は禅と道教です。禅と道教では、行為そのものではなくその過程、完成そのものではなく完成にいたる過程が重要視されます。相対的なこと(移り変わること)が絶対的であるとみなされるからです。

「不朽は永遠の変化の中にある」これを知ることが茶道の真髄なのです。


 茶道は「生きる技」を学ぶ手段、己を知る手段です。世間の常識を盲目的に信じるのではなく、移り行く時の中で「今」の自分に最もふさわしいものを選びとる。それが茶人の基本姿勢です。

「今」の自分に最もふさわしいものを選びとるには、心が自由でなくてはなりません。つまり心を「空」の状態にし、「他」を受けいれられるほどの大きな器がないと、とめどなく変化する環境から大切なものを選びとることはできないのです。

 岡倉天心はこう書いています。

「水指が役に立つのは、水を入れる空間があるからであり、水指の形や素材は問題になりません。「空」はすべてを含むから万能であります。「空」の中では、動くことが可能であり、自分を「空」の状態にして、他人が自由に入れるようにできる者は、あらゆる情況を制覇できるでしょう」

 心を「空」にし、あらゆるものと向き合い、大切なものを選び取る。その覚悟をもって、新年を生きたいと思います。