✨♡✨【月下、君の声が揺れる】夕記すい - monogatary.com ✨♡✨ 💫✨ 2023年9月12日 1神様は想像していただろうか。人間にこんなにも綺麗で星くずみたいな光を生み出す能力が備わることを。キラキラとした地上の中に溶け込んでしまおうかと身を乗り出したあの夜。そうすればあたしの正体不明なモヤモヤから解放されるんじゃないかってそんな気がした。体が地上に吸い込まれてしまいそうなほど孤独を感じたあの夜に、タクの歌声が聴こえたんだよ。その瞬間…monogatary.com ✨💫 2023年9月12日 2あたしが生まれたのは下町の、ごく平凡な家庭だった。父は町工場勤めで、母は駅1つ向こうのスーパーに働きに出て、3つ下には弟がいた。うちの地域の周りは再開発が進んでて、でも自分たちのいる場所はあたしが生きてるうちには壊れる気がしなくて、大人たちが深刻そうに話してたってそれは遠い未来の話だった。小さい頃から1人が好きで、友達がいないわけではなかったけど学…monogatary.com 💫✨ 2023年9月13日 3高校卒業後は大学へ進学した。本当の子どもでもないのに進学させてもらう資格はないんじゃないかと思ったりしたけど、それを跳ねのけるのは以前と変わりなく接しようとしてくれている両親に悪いと思う気持ちもあったし、大学を出た方が結果的には親孝行できるような気がした。育てたことを後悔されたくなし、与えてもらった分を返せる自分でいたかった。それでも気を遣われ…monogatary.com ✨💫 2023年9月13日 4あたしとルリはSNSを通して、会いたくなると時々初めて会ったファーストフードの前で待ち合わせるようになった。「たぶんだけど私さ、リトルの頭の中、誰より知ってる」そう微笑むルリがたまらなく好きだった。二人でいれば言葉なんかいらなくて、ただ隣に座っているだけで安心できた。あたしとルリの二人だけが世界から切り取られたみたいに感じた。ルリは飾りっ気のな…monogatary.com 💫✨ 2023年9月13日 5何かいけないことを言っただろうか。それともルリに何かあったのだろうか。あたしとルリを繋ぐのは頼りないSNSだけで、そこが途絶えてしまえば繋がることは叶わなかった。本名も知らないままだったことを後悔した。もっと深く繋がっていればと何度も思った。小説を書いても誰にも読まれないまま、ルリと連絡がとれなくなって秋になり雪が降って溶けてまた夏が来た。…monogatary.com ✨💫 2023年9月13日 6「ルリ…」思わず口にしたけれど、そんなはずはない。ルリは綺麗にメイクした、フリフリのスカートのよく似合う女の子だ。こっちを見ているのは、ルリと同じような細身で長身と思われるスタイルの青年だった。履き潰したジーンズとちょっと擦れたスニーカー、長めの前髪。黒のパーカーのフードが大きく見えるほど小さな顔はルリそのもの。世界に3人は存在するとよく聞く…monogatary.com 💫✨ 2023年9月13日 7タクと時々会うようになって3ヶ月が過ぎた。街には雪が降る前の張りつめた空気が漂よっている。タクとは一緒に電車に乗って出かけたりごはんを食べに行くようになった。ルリとはまた違った感覚の楽しい日々だった。何も知らずにいた頃、友達と一緒にいた感覚を思い出した。あたしたちはよく同じものを見て笑った。隣にいても指先さえ触れないように、電車で隣同士に座る…monogatary.com ✨💫 2023年9月13日 8あたしが誰かと触れ合うこともわかり合うことも避けて生きてきたのは、その温もりを失ったときのことを想像してしまうからだった。失うのが怖かったからだった。けれど今、タクと手を繋いでしまった。感じた温度を離したくなかった。鉛のようだった体が軽くなってゆくのを感じた。初雪が降った日も、もうすぐ今年が終わる頃もタクの歌を聴いて過ごした。「明日、今…monogatary.com 💫✨ 2023年9月13日 9「姿形も女の子に生まれたかった。けどそうしたらリトルには受け入れてもらえないんじゃないかって思った。タクの姿ならリトルのそばにいられるんじゃないかって、そう思ったんだよ。だから戻ってきてもタクのフリをした」「…ルリ」「どうしてこんなチグハグに生まれてきちゃったんだろう。タクとして生まれてたら…私がいなくなれば、リトルとタクは一緒にいられるでしょ。私の半…monogatary.com💫✨🌿✨💫✨🌿✨💫✨🌿✨💫画像は pinteretより
1神様は想像していただろうか。人間にこんなにも綺麗で星くずみたいな光を生み出す能力が備わることを。キラキラとした地上の中に溶け込んでしまおうかと身を乗り出したあの夜。そうすればあたしの正体不明なモヤモヤから解放されるんじゃないかってそんな気がした。体が地上に吸い込まれてしまいそうなほど孤独を感じたあの夜に、タクの歌声が聴こえたんだよ。その瞬間…monogatary.com
2あたしが生まれたのは下町の、ごく平凡な家庭だった。父は町工場勤めで、母は駅1つ向こうのスーパーに働きに出て、3つ下には弟がいた。うちの地域の周りは再開発が進んでて、でも自分たちのいる場所はあたしが生きてるうちには壊れる気がしなくて、大人たちが深刻そうに話してたってそれは遠い未来の話だった。小さい頃から1人が好きで、友達がいないわけではなかったけど学…monogatary.com
3高校卒業後は大学へ進学した。本当の子どもでもないのに進学させてもらう資格はないんじゃないかと思ったりしたけど、それを跳ねのけるのは以前と変わりなく接しようとしてくれている両親に悪いと思う気持ちもあったし、大学を出た方が結果的には親孝行できるような気がした。育てたことを後悔されたくなし、与えてもらった分を返せる自分でいたかった。それでも気を遣われ…monogatary.com
4あたしとルリはSNSを通して、会いたくなると時々初めて会ったファーストフードの前で待ち合わせるようになった。「たぶんだけど私さ、リトルの頭の中、誰より知ってる」そう微笑むルリがたまらなく好きだった。二人でいれば言葉なんかいらなくて、ただ隣に座っているだけで安心できた。あたしとルリの二人だけが世界から切り取られたみたいに感じた。ルリは飾りっ気のな…monogatary.com
5何かいけないことを言っただろうか。それともルリに何かあったのだろうか。あたしとルリを繋ぐのは頼りないSNSだけで、そこが途絶えてしまえば繋がることは叶わなかった。本名も知らないままだったことを後悔した。もっと深く繋がっていればと何度も思った。小説を書いても誰にも読まれないまま、ルリと連絡がとれなくなって秋になり雪が降って溶けてまた夏が来た。…monogatary.com
6「ルリ…」思わず口にしたけれど、そんなはずはない。ルリは綺麗にメイクした、フリフリのスカートのよく似合う女の子だ。こっちを見ているのは、ルリと同じような細身で長身と思われるスタイルの青年だった。履き潰したジーンズとちょっと擦れたスニーカー、長めの前髪。黒のパーカーのフードが大きく見えるほど小さな顔はルリそのもの。世界に3人は存在するとよく聞く…monogatary.com
7タクと時々会うようになって3ヶ月が過ぎた。街には雪が降る前の張りつめた空気が漂よっている。タクとは一緒に電車に乗って出かけたりごはんを食べに行くようになった。ルリとはまた違った感覚の楽しい日々だった。何も知らずにいた頃、友達と一緒にいた感覚を思い出した。あたしたちはよく同じものを見て笑った。隣にいても指先さえ触れないように、電車で隣同士に座る…monogatary.com
8あたしが誰かと触れ合うこともわかり合うことも避けて生きてきたのは、その温もりを失ったときのことを想像してしまうからだった。失うのが怖かったからだった。けれど今、タクと手を繋いでしまった。感じた温度を離したくなかった。鉛のようだった体が軽くなってゆくのを感じた。初雪が降った日も、もうすぐ今年が終わる頃もタクの歌を聴いて過ごした。「明日、今…monogatary.com
9「姿形も女の子に生まれたかった。けどそうしたらリトルには受け入れてもらえないんじゃないかって思った。タクの姿ならリトルのそばにいられるんじゃないかって、そう思ったんだよ。だから戻ってきてもタクのフリをした」「…ルリ」「どうしてこんなチグハグに生まれてきちゃったんだろう。タクとして生まれてたら…私がいなくなれば、リトルとタクは一緒にいられるでしょ。私の半…monogatary.com