私が生まれた商店街のはずれに古びたパン屋さんがありました。
おじいさんとおばあさんが二人だけでパンを作って売っていました。
大判焼き屋さんみたいにお店の外から窓越しに買える仕組みでしたが
お客さんは引き戸を開けて中に入りました。
中に入ると土間で調理場と売り場がカギ型になっていて上がりがまちの向こうが6畳くらいの畳の部屋で
いつも二人で卓袱台に座っていました。
お客さんが来るとおじいさんが降りてきてパンを茶色い袋に入れてくれます。
パンは二種類だけでした。
黒いアンコの白い蒸しパンと茶色い揚げパンだけ。揚げパンはドーナツみたいに堅めの生地でピンポン玉くらいの大きさでした。
いくらか忘れたけど他のパンより少し高くて自分のお小遣いでは買えませんでした。
私は食べたくなると父に
おじいさんのパン屋さんのパンは美味しいね?
とズボンを引っ張りながら言うと
父が
お姉ちゃんと一緒にみんなの分も買って来てあげなさい。
とパン代をくれて買いに行きました。
子どもにも昔懐かしい優しいお味で大好きでした。
そして静かな佇まいの仲の良い年老いたご夫婦はやっぱり懐かしくて会いに行きたくなる不思議なパン屋さんでした、
父の子どもの頃からあったそうです。
あのパンのお味は今の私が言うにふさわしい昔懐かしい優しいお味でした。