(第二景)
⒐
⑴
「二度と来ない!」と怒って帰った多和田とライラが
なぜか美味しそうにうどんを食べている。
多和「美味しかった」
川筋「グルメライター稲田さんの記事通り、最高ね」
稲田の記事で早速、客が増えている様子。
⑵
まりこがうどん鉢を返しにくる。
森田「あれ?、大将いない?」
多和「大将なら、さっき出かけましたよ」
森田「客をほったらかしにして、大将何考えてんのかしら?」
大将・裕が買い出しから戻ってくる。
森田「大将、お客さんをほったらかしにたらダメじゃない」
吉田「店やったら、二人に任せてるから」
裕が店内を見回し、
吉田「おらんな…。どこ行ったんや?」
⑶
セロリとミソが上手端通路から出てくる。
吉田「奥で何してたんや?」
千葉「キムチジェンガしてました」
吉田「なんやそれ?(呆れ)」
酒井「葉っぱが取れへん」
吉田「そらそうやろ」
千葉「ミソはメニューも考えてくれています」
酒井「マンドゥ」
吉田「何や?、マンドゥって」
ミソが多和田の頭を見て、
酒井「ちょうどこんな感じです」
セロリが多和田に対し、
千葉「おい、マンドゥ」
多和「…」
千葉「マンドゥのくせに、眉毛整えてんだな」
多和「別にいいでしょ?」
千葉「角度が鋭い」
酒井「(眉毛が)カモメみたい。(苦笑)」
本筋とは関係の無い、緩い絡みの時間。
⑷
多和田がうどんの代金を払い終え、
多和「あっ、残った水を飲んでもいいですか?」
吉田「どうぞ」
多和田が皆から顔を背けて、控えめに水を飲む。
多和「あっ、これ、目上の人とチャミスルを飲む時の飲み方です」
川筋「私も水を飲んでもいいですか?」
吉田「どうぞ」
ライラが水を飲み、
川筋「普通に飲んだだけです」
二人が去っていった。
多和田のネタについて、ミソが
酒井「やったはいいものの、」
酒井「(無反応の客席に)「おや?」思って、すぐ説明した。(半笑)」
カーテンコールの話では、
多和田がアドリブで水を飲むネタを入れたらしい。
⑸
まりこが裕に対し、
森田「大将、約束は続いてるから」
吉田「約束?」
森田「いつでもOKよ」
と、裕に向けてお尻を突き出す、発情期のまりこ。
吉田「帰れっ!」
裕がまりこのお尻を押すように蹴り飛ばす。
森田「ちょっと、大将〜!」
まりこがクリーニング店に戻っていった。
⑹
吉田「お客さんも帰ったし、ちょっと奥で休憩しようか」
千葉「僕は片付けしてから行きます」
裕とミソが奥に消え、セロリ一人になる。
⒑
⑴
セロリ、一人。
ここから、今作最大の見せ場が始まる。
千葉「客が来てくれるようになって良かった」
千葉「父さん。このまま信念を貫いて生きていくよ」
千葉「そうだ」
韓国焼酎チャミスルの瓶とコップを二つ持ち、
レジ前テーブル上手側に座る。
コップにチャミスルを注ぎ(注ぐふりをし)、
千葉「今日は一緒に飲もう」
他界した父と気持ちだけでも一緒に楽しい時間を過ごそうとする、
千葉「父さん、美味しいか?」
⑵
照明が薄明かりになる。
男性『セロリー!』
新喜劇ファンには聞き覚えのある声がする。
千葉「この声は、父さん!」
厨房から、亡き父・裕雅(すっちー)が霊体で現れる。
裕雅は地味めのクリーム色の服を着ていて、
黒の水泳帽でドラマの髪型を表情し、霊らしく白の頭巾をつけている。
吉本新喜劇の座長が登場した割には拍手が少なめで、
裕雅がすち子の中の人であることに気付いていない観客も多い印象。
この日の観客が吉本新喜劇ファンとは少し異なることが垣間見える
すち「セロリ」
千葉「父さんが見える!」
セロリの本名は公平のはず。
裕雅は息子が憧れるドラマに寄せてあげているのだろう。
すち「お盆だから会いにきたよ」
裕雅も標準語のイントネーションのよう。
⑶
裕雅がテーブル下手側に立ち、
白頭巾を取り、頭巾をバッグのように右手で右肩に回す。
千葉「バッグみたいに持つな。(苦笑)」
裕雅は今度は白頭巾をパンツのように股間に当てる。
だが、セロリはなぜか完全スルー。
千葉「父さん、頭、水泳帽だよね?(苦笑)」
千葉「ありがとう。寄せてくれて」
⑷
裕雅がテーブル下手側に座る。
すち「父さん、お前のことをずっと見ていたよ」
すち「お前が寝ている時も、起きている時も、」
すち「純豆腐チゲを素手で持ってきて、ややウケだった時も、」
すち「ヤンニョムチキンのハンバーガーでダダすべりだった時も」
千葉「(劇中の)悪いところをピックアップしないで。(半笑)」
⑸
すち「父さんは車に轢かれて死んだ」
千葉「違うでしょ?」
すち「うどんの出前中に車に跳ねられて」
千葉「ドラマに寄せてくれて嬉しいよ」
千葉「でも、父さんが死んだ理由は違うでしょ?」
千葉「不摂生とタチの悪い性病で亡くなった」
すち「セロリ。タチの良い性病なんて無いんだよ!(苦笑)」
ここから、無類の風俗マニア・
すち「抗生物質だ」
すち「抗生物質があれば、大抵の性病はなんとかなる」
すち「驚くのは最初だけだ」
千葉「父さん、もういい。(半笑)」
だが、裕雅のリアル性病話は止まらない。
すち「最初は症状に不安になる」
すち「でも、二度三度経験すると、(慣れて)『なるほど』って」
すち「クリニックの先生も(呆れ気味に)『またですか』」
千葉「息子として恥ずかしいよ」
千葉「俺が産まれた時は性病じゃなかったんだよね?」
すち「ああ。そりゃ、ちゃんと検査したさ」
リアルを考えると、相当際どいトークをする、二人。
すち「ゆっくり腰を据えて呑もうじゃないか」
千葉「嬉しいよ」
裕雅は客席をほんの僅か意識する素振りを見せてから、自身の性病話について、
すち「(客席には)嫌な人もいるだろう。『
千葉「嫌な人がいるほど長くやるのが父さんだ」
⑹
裕雅がチャミスルの瓶を手にする。
すち「もしかして本物か?」
本物を小道具として使っている様子。
すち「呑もう」
裕雅がチャミスルの瓶の金属キャップをバリバリと音をさせて開け、
チャミスルをコップに注ぎ、
すち「本物だ」
千葉「バリバリって音がしただろう!(半笑)」
すち「お前も飲め」
裕雅がセロリのコップにチャミスルを注ぐ。
千葉「俺はこの後結構長いんだよ」
千葉「どうなっても知らないぞ?(半笑)」
盛り上がり的に飲まざるを得ず、コップのチャミスルを飲み干す、
すち「結構美味しいな、すもも味」
アルコール度数13度のお酒のよう。
⑺
すち「帽子を取っていいか?」
すち「耳が塞がって笑い声が聞こえないから、不安になる」
裕雅が水泳帽を脱ぐ。
裕雅がまたチャミスルを自分のコップに注いで飲む。
唐突にハイテンションで、諸見里座員の『やばいねー!』
すち「美味いねー!」
千葉「父さん、それは新喜劇の諸見里君の『やばいねー』
すち「あのギャグ好きだから、自分のものにしようと思って」
裕雅がマイペースにチャミスルを飲み続ける。
千葉「父さん、グビグビ行き過ぎだ!(半笑)」
裕雅がセロリのコップにもチャミスルを注ぎ、
裕雅はゲスト出演らしく、
すち「父さん、次どうするかも分からない」
裕雅は手にしているコップの内側を見ながら、
すち「このコップ、洗ってんのか?(苦笑)」
千葉「(小道具なのに)本当に飲み出すから…(苦笑)」
千葉「指を突っ込んだかもしれない。(苦笑)」
セロリがチャミスルの瓶を持ち、
千葉「一本空けちゃったじゃねえか!(半笑)」
⑻
すち「もう帰るよ」
裕雅が立ち、セロリも立ち上がる。
千葉「父さん、会えて嬉しかった」
すち「時間だ」
すち「、とっくにオーバーしてるけどね」
公演自体、予定時間をかなりオーバーしている様子。
すち「チャミスルが美味しいことがわかったよ」
すち「セロリ、じゃあな!」
千葉「父さん!」
暗転
⑼
明かりがつくと、裕雅がチャミスルを口飲みしている。
千葉「まだいるのか! アル中かよ!
」
すち「お盆だから会いにきたよ」
千葉「父さん、(これ以上は)だめだ」
すち「帰るよ」
玄関まで来たところで、
千葉「なんで稽古してんだ!?(半笑)」
裕雅が店を出てから、セロリに対し、
すち「セロリ。父さん、凄い(公演の)邪魔をしてないか?(
千葉「帰れっ!!(半笑)」
観客の拍手の中、裕雅が去っていった。
千葉「まったく…」
セロリの顔が赤みを帯び始めているように見える。
もしかして酔いが回り始めているのではなかろうか?
※
補足
カーテンコールで語られるのですが
千葉公平さんは35歳までお酒を一滴も飲めなかったほど下戸なのだそうです。
そのため、この後、みるみるうちに紅潮し、
カーテンコールではわけのわからないことを言い出します。
千葉さんが酔った状態で演じる姿を想像しながら読んでくださると
⑽
酒井『社長ーっ!』
奥からミソの声がする。
千葉「直ぐ行く!」
セロリが上手端通路奥に向かった。
フロアには誰もいなくなる。
その10に続く