⒌
⑴
花月うどん店の大将・裕
アルバイト希望のチバ・セロリ(こと千葉公平)
クリーニング店のまりこ
3名。
先程、セロリの接客態度に怒って帰った多和田とライラが
チラシを見ながら店の前を通る。
多和「吉本うどん、できたんやな!」
ライラが花月うどん店をちらりと見て、
川筋「こんな店より吉本うどんに行きましょ!」
二人が下手袖(奥側)に消えていった。
多和田たちの様子を見ていた、裕たち。
森田「私もさっきチラシもらったわ」
森田「吉本うどんの道頓堀店が直ぐ近くにオープンしたって」
千葉「日本一大きい外食企業、吉本グループの店じゃないですか!
森田「近くに出さなくてもいいのに」
吉田「俺が店を出したからや」
吉田「一年前まで吉本うどんで働いていた」
吉田「独立が気に入らないから、潰しにきた」
森田「こんな小さい店のためにそこまでする?」
⑵
サラリーマン風の男性・椎森(もりすけ)がやってくる。
椎森「失礼します」
千葉「ようこそ、スイートナイトへ」
椎森「客じゃないんです」
椎森が裕を見て、
椎森「ぼっちゃん」
森田「ぼっちゃん?」
椎森「裕さんは吉本グループのご子息なんです」
裕がまりこに説明する。
吉田「俺が継ぐ予定やったけど、親と揉めて店出したんや」
森田「だから、お店が小さくても潰そうとしたのね」
話を聞いていたセロリが怒り出す。
千葉「そんなのダメだ!」
全員「…?」
千葉「ドラマには、社長の息子の下でアルバイトするなんて話は無い!」
千葉「それと、もう一つ!」
セロリが椎森の前に行き、
千葉「こんなハゲ、出てない!」
と、椎森の頭をバチンッ!と強めに叩き下ろす。
椎森「痛ーっ!」
セロリがバッグからノートを慌てて取り出し、必死で捲りながら、
千葉「ドラマの内容は全部メモってんだ!」
千葉「こいつが出ていいとしたら、それはダイハードだ!」
椎森「おいーっ!!」
千葉「ただただ声がでかい」
⑶
椎森は社長秘書らしく、
椎森「社長も来ています」
椎森に呼ばれ、吉本グループ社長で裕の父・吉田耕一(烏川耕一)
耕一は黄色みのある白髪(カツラ)で、大企業の社長らしさが表現されている。
耕一(の役作り)に感動する、セロリ。
千葉「めっちゃいい」
千葉「でも、口だけおかしい。ひょっとこみたいだ」
千葉「(唇を)切って、キムチにしていいですか?」
耕一「せめてチャンジャにして」
⑷
耕一が裕に対し、
耕一「久しぶりやな」
耕一「この店を潰して、お前を吉本グループに連れ戻す」
吉田「戻りません」
耕一「そう意地を張るな」
耕一は宣戦布告のためにやってきた様子。
耕一が店を見回し、
耕一「何の特徴も無い、普通の店やないか」
すると、セロリが厨房に消える。
耕一「こんな店、直ぐ潰れるだろ」
吉田「客は増えてきている」
耕一「お前に私の店は超えられない」
吉田「越えてみせる!」
耕一「せいぜい頑張れ」
耕一が椎森に対し、
耕一「行くぞ」
吉田「一回、食べてみてくれ!」
耕一「食べるまでもない」
⑸
厨房から、セロリが器らしきものを手のひらに乗せて現れる。
千葉「純豆腐チゲです」
確かにうどん店で純豆腐チゲの提供は特徴があるが…
吉田「素手で!? 熱々ちゃうの?」
千葉「手の皮は焼き付いてます」
そのままテーブルに行き、純豆腐チゲを置くが、
耕一は純豆腐チゲを食べることなく、椎森とともに去っていった。
吉田「相手にされてない…」
千葉「土下座させましょう!」
吉田「ドラマはどうでもええ!」
⑹
吉田「小さいころから父に厳しく帝王学を叩き込まれた」
吉田「目を瞑ると思い出す…」
暗転
⑺
レジ前テーブル周辺のみ、薄明かりで照らされる。
テーブルには学生服を着た裕が座っていて、
前には険しい顔で腕組みした耕一が立っている。
どうやら、自宅で説教されている場面を裕が思い出している様子。
耕一「何だ、この成績は!」
耕一が大声で怒鳴り、机を両手でドンと叩く。
裕が小声で
吉田「すいませんっ」
耕一「すいませんじゃない!」
耕一が大声で怒鳴り、机を両手でドンと叩く。
裕は観客には聞こえないほど小声で何か言い謝る。
耕一「…(半笑)」
何かアクシデントが起こったようで、耕一が一瞬笑ってしまう。
耕一「すいませんは聞き飽きた!」
耕一が大声で怒鳴り、机を両手でドンと叩く。
吉田「…」
裕が下を向き、小刻みに震える。
耕一「お前は吉本グループを背負って立つ男なんだ!」
耕一「お前は人の上に立たなければいけない!」
耕一「できなければ家畜同然だ!」
耕一「いつも言ってるだろ!分かってんのか!」
吉田「…」
耕一「何か言うことは無いのか!」
吉田「圧倒されて…」
耕一が段ボールを持ってきて、テーブルに置く。
段ボールの中から鶏の鳴き声(効果音)がする。
耕一が段ボールを開け、
押すと変声で鳴くおもちゃ『びっくりチキン』を取り出す。
耕一「お前は殺されるのを待つ鶏のような人生を送るのか!?」
裕が下を向き首を振る。
耕一「嫌なら、この鶏を握り殺せ!」
鶏を裕の前に差し出す、耕一。
吉田「そんな…」
耕一「やるんだっ!」
裕に鶏の首を掴ませる、耕一。
首を掴まれた鶏が苦しみ、「ウォー!」と変声を発する。
吉田「できません!」
耕一「やれーっ!!」
耕一が裕の手を掴み、無理矢理握り殺させる。
「ウォー!、ウォー!、ウォー!」
と首を絞められた鶏が苦しみ、変声を発し続ける。
暗転
※
補足
烏川さんが一瞬笑った件について
カーテンコール時の話では、
吉田裕さんの台詞がしっかり用意されながら、ほとんど喋らなかったそうです。
詳しくはカーテンコールで触れることとします。
⑻
現在に戻る。
吉田「本当に辛い思い出だ…」
千葉「ドラマに寄せてんじゃん!」
千葉「人に散々言っておいて、自分が寄せてる」
千葉「鶏を握り殺すなんて、ありますか?」
千葉「自分だけ、ずるいよ」
⑼
森田「事情は分かったわ」
森田「お父さんに勝ちたいよね」
裕が頷く。
その6に続く