(第二景)
⒏
⑴
景の合間のBGMが鳴り止み、第二景スタート。
だが、舞台は暗闇のままで、客席からは何も把握できない。
開演前の『演出の都合、非常灯を消灯』
今公演最大の見せ場がスタート。
真夜中、明かりの消えたロビー。
暗闇の中で、舞台上手側から裕の声が、下手側から敦史の声がする。
吉田「よっしゃ!」
奥重「アニキ、チャンスです!」
裕の声がする場所からペンライトの明かりが点く。
真っ暗で裕の顔は確認できないがペンライトの主は裕のよう。
吉田「敦史、お前もライトをつけろ!」
すると、敦史が両手に持った2本のサイリウムを点ける。
奥重「点けました!」
吉田「何してんねん! それ、ライブで使うやつや!(苦笑)」
裕と同じく顔は確認できないが、サイリウムの主が敦史のよう。
奥重「アニキー!」
敦史が楽しげにサイリウムを振る。
吉田「何持ってきてんねん!」
サイリウムを小刻みに点滅させる、敦史。
吉田「点けたり消したりすな!」
敦史が点滅するサイリウムを蛍に見立て、ゆっくり動かす。
奥重「アニキ、蛍です」
吉田「ほんまや。この時期見えるんや」
吉田「、ちゃうねん!」
ノリツッコミする、裕。
今度は敦史がサイリウムの色を次々と変化させる。
吉田「色変えんな!(苦笑) 目ーそっち行くやろ」
奥重「そんなやいやい言わないでくださいよ!」
奥重「怒っちゃうぞ?」
と、両手のサイリウムを上下に激しく振り回す。
吉田「やめろ、やめろ、やめろ! 見つかってまうやろ!」
吉田「予備持ってきてるから、(サイリウムやなくて)これ使え」
裕が敦史に予備のペンライトを渡す。
どうやら、
⑵
敦史がペンライトを点け、裕の方に向ける。
吉田「顔照らしてるか?」
奥重「はい」
吉田「右乳首照らしてないか?」
奥重「いえ」
しかし、敦史のペンライトの光は客観的には右乳首を標的にしており、
吉田「右乳首照らしてるやないか!」
吉田「右乳首ライトすな! ライトすな!、すな!、すな!、すな!、」
(敦史がつま先→顎→脇の順にペンライトを照らす形で)
吉田「つま先やめろ!、顎やめろ!、脇やめろ!、」
(敦史がライトを消し)
吉田「ライトせんのかーいっ!」
『ドリルせんのかい』の応用系に客席から笑いと拍手が起こる
吉田「全く、何やねん。(呆れ)」
⑶
その後も敦史が自分の顔をライトで照らして遊ぶ。
吉田「怖いからやめろ!(苦笑)」
と、その時、裕が誰かの足音に気付く。
吉田「誰か来た!、隠れろ!」
ロビーの明かりがつく瞬間、裕は上手奥のフロント下に逃げ込むが、
敦史は隠れる場所が無く、
中央テーブル下手側席に座り、『考える人』のポーズを取る。
上手端通路から友見と美優の親子が現れ、
美優が中央テーブルの奥側席に、
二人はなぜか下手側席の『考える人』敦史に気付かず話し始める。
友見「行人さん、
美優「行人さん、優しい人だから大丈夫」
裕と敦史は旅館都合でキャンセル扱いにはならず、宿泊できている様子。
裕がフロントから顔を覗かせ、
敦史に気付かれないかとヒヤヒヤしながら様子を見ている。
しかし、美優と友見はなぜか敦史に気付くことなく、
美優「行人さんを見ているとお父さんを思い出すの」
友見が西郷の壺を見て、
友見「きっと、お父さんも美優を見守ってくれてる」
美優も西郷の壺を見て、
美優「お父さん、見守っててね」
友見「そろそろ寝ましょうか」
親子水入らず?の時間を過ごし、二人が上手端通路に消えた。
⑷
友見が去り際にロビーの明かりを消し、暗闇に戻る。
裕がペンライトを点ける。
テーブル下手側席に座っていた敦史について、
吉田「なんでバレへんのや!?」
吉田「3人で喋ってる感じやったぞ!(苦笑)」
敦史「アニキがフロントに隠れたから、
と、ここで敦史が点けていない状態のペンライトを床に落とすハプニング。
奥重「ペンライト、失くしました。(苦笑)」
吉田「ほんまに探さなあかんやないか!(半笑)」
裕が敦史のもとに行き、ペンライトで床を照らして、
吉田「あった!」
裕がペンライトを拾い、敦史に渡す。
奥重「ビックリした。(半笑)」
吉田「こっちがビックリしたわ。(呆れ)」
⑸
敦史が裕を下手に連れて行く。
奥重「今度は俺がフロントに隠れるんで、アニキはこっちで」
敦史が上手奥フロント前に立つ。
また誰かやってくることを事前に知っているかのような、
と、その時、裕が誰かの足音に気付く。
吉田「誰か来た!」
ロビーの明かりがつく瞬間、
裕はダッシュしフロント下に飛び込んで隠れる。
フロント下に隠れる予定だった敦史は行き場を失い、
フロント前で棒立ちで目を閉じる。
上手端通路から行人が現れるが、なぜか敦史には気付かず、
ロビー中央最前で客席方向を向いて、誰かに電話を掛ける。
行人は旅館を訪れた時の好青年とは別人のような悪人声で、
行人「大丈夫です。俺のことを信じ込んでます」
裕がフロント下から顔を覗かせ心配そうに見守り、
行人の左後方にいる敦史は目を開け、行人の会話を聞く。
行人はなぜか敦史に気付く様子は無く、電話相手と話し続ける。
行人「母親には『得意料理を振る舞う』って言われて」
行人「何やと思います?」
行人「ハンバーグ。ケッサクでしょ?」
行人「権利書、奪い取りましょ! 瀧見社長」
行人が電話を切る。
行人はなぜか敦史に気付かないまま、上手端通路に消えた。
⑹
行人が去り際にロビーの明かりを消し、暗闇に戻る。
裕がペンライトを点ける。
テーブル前に棒立ち状態だった敦史に、
吉田「隠れろや!」
奥重「アニキが飛び込んだから、隠れる場所が無かったんですよ!
吉田「せやけど、聞いたか? びっくりした」
奥重「聞きました。ハンバーグって!」
吉田「そっちちゃう!」
吉田「確かに、女将さん、筑前煮とか得意そうな見た目やけど。(
吉田「あの生瀬って奴、セカンドリゾートの社長とグルやった」
吉田「権利書を奪うために美優ちゃんと女将さんを騙してる」
吉田「二人に伝えてくる!」
奥重「待ってください!」
奥重「…、壺、盗みましょ?」
吉田「そやけどやな…!」
奥重「アニキ、頭を冷やしてください」
吉田「…、そやな。心を鬼にして、仕事するか」
⑺
暗闇の中、
中央奥通路から怒鳴り声が聞こえてくる。
椎森『おい、泥棒ーっ!』
裕と敦史が壺を盗もうとしていることがバレたのだろうか?
暗闇の中、椎森がロビーに現れたようで、
椎森「怪しい思うてたんや!」
友見が騒ぎを聞きつけ、上手端通路から現れたようで、
友見「何があったの!?」
椎森「女将さん、電気をつけてください!」
友美がロビーの明かりをつけると、
上半身裸でブラジャーを着け、頭に女性用パンツを被った宿泊客・玉置を
椎森が確保している。
玉置「クソーッ!」
玉置は下着泥棒だったようだ。
壺の前に立つ裕は(上手フロント前で)椎森に確保された玉置を見ながら、
吉田「泥棒って、そっちかいっ!!」
暗転
その6に続く