⒊
⑴
盗人の裕と敦史
女将・友見
三名。
友見が壺を亡き夫と重ねる話をしていると、
常連客らしい椎森(もりすけ)と岩崎(岩崎タツキ)
椎森「戻りました」
友見「椎森さん、岩崎さん、お帰りなさい」
椎森「街を歩いて汗を掻いたんで、お風呂に入ってもいいですか?」
友見「ごめんなさい、忙しくて。ちょっと待ってくださいね」
友見が裕たちを見て、
友見「お客様、お部屋にご案内します」
吉田「それやったら、自分たちで行きます」
友見「大丈夫ですか? すみませんね」
友見「椎森さん、お風呂の準備してきますね」
友見が上手端通路に消えた。
⑵
吉田「女将さん、ずっと忙しそうや」
椎森「女将さん、一人やから心配で」
岩崎「美優ちゃんが居てくれたら…」
吉田「美優ちゃん?」
岩崎「女将さんの一人娘なんです」
椎森と岩崎は友見の亡き夫の大学時代からの付き合いで、
椎森は同級生、岩崎は後輩に当たるらしい。
岩崎「先輩が亡くなってから、
椎森「美優ちゃん、『女優になる』って家を出ていった」
椎森「それから音沙汰無しなんです」
話を聞いていた敦史が
奥重「それで、そんなにハゲたんですね」
椎森「昔からや! 若くてもハゲるんや!」
奥重「私はハゲてませんけど」
吉田「何のやりとりや!(半笑)」
裕がグダグダな掛け合いを止める。
椎森たちは友見を心配して定期的に泊まりに来ている様子。
⑶
友見が戻ってくる。
友見「お風呂の準備ができました」
下手寄り奥棚に置かれた日本酒の一升瓶が椎森の目に入る。
椎森「お風呂の後で、このお酒を飲んでもいいですか?」
友見「どうぞ」
椎森は酒豪なのか、一升瓶をそのまま手にする。
岩崎「椎森先輩、お酒はやめときましょ?」
椎森「捜査していた事件も解決したし、たまにはええやないか」
吉田・奥重「…!?」
椎森の言葉に反応し、表情を変える、裕と敦史。
岩崎「確かに解決しましたね、未成年への飲酒強要事件」
岩崎「今日くらいハメを外してもいいですよね」
話を聞いていた奥重が椎森に対し、
奥重「もしかして、ガーシー!?」
吉田「どこがガーシーや!(苦笑)」
奥重「だって黒光りしてるし」
吉田「(椎森は)白光りやないか!(半笑) 白光りって表現もおかしいけど」
友見「二人は警視庁の敏腕刑事なんですよ」
吉田・奥重「…!」
椎森「では、お風呂に入ってきます」
椎森と岩崎が一升瓶を一本ずつ持ち、
⑷
友見が裕たちに対し、
友見「お部屋にご案内しますね」
吉田「それなら、自分たちで行けますので」
友見「すみません。では夕飯の準備にかかりますね」
友見「今日の夕飯は…、何やったかな?」
友見「最近、物忘れが酷くて」
友見「あっ、お客さん(=裕)の顔見たら、思い出しました」
友見「馬刺し!」
吉田「馬やないねん!」
友見が上手端通路から厨房に向かった。
⒋
⑴
盗人の裕と敦史、二人。
吉田「刑事がおる!」
奥重「二人は風呂に行ったから、大丈夫です」
奥重「今のうちに壺を交換しましょ」
裕と敦史が西郷の壺と模造品を入れ替えようと中央奥通路横の棚に
西郷の壺を持ち上げる。
その時、ビジネススーツ姿の女性・湯澤(湯澤花梨)
湯澤「失礼します」
裕が慌てて左腕を壺の中に入れ、
奥重「腕折れた!」
吉田「全治3ヶ月!」
「、ギプスちゃうねん!」
とモノボケする。
湯澤はモノボケをあしらうように冷静に、
湯澤「どうされました?」
吉田「すみません、旅館が素敵すぎてテンション上がっちゃって」
と、西郷の壺を棚に戻す。
⑵
湯澤「女将さんに用があるんですけど…」
吉田「女将さん、お客さんですよ!」
吉田が奥に呼び掛けると、女将・友見が現れる。
友見「いらっしゃいま…、」
湯澤の顔を見て、友見の表現が一変する。
友見「湯澤さん、お断りすると言ったはずです」
湯澤「そうおっしゃらずに。今日は社長も来ていますので」
⑶
(舞台中央に湯澤→←友見、上手フロント前に敦史・裕、
セカンドリゾート社長・瀧見(瀧見信行)が現れる。
瀧見「セカンドリゾートの社長をしている瀧見です」
フロント前の敦史が小声で、
奥重「ちっちゃ」
瀧見「それはいいでしょ!」
敦史の声は丸聞こえだったよう。
ここで敦史のテンションが上がり、瀧見の前までやってきて、
奥重「めちゃめちゃ有名人ですやん!」
瀧見「有名人? 誰と間違えてます?」
奥重「千と千尋のカエルでしょ?」
瀧見がカエルを真似る。
瀧見「千を出せ!、千を出せ!」
次の瞬間、敦史が瀧見に背を向け、
奥重「(カエルと)ちゃうわ 小さいおっさんやった」
瀧見「させんな!(半笑)」
⑷
友見「とにかく、気持ちは変わりませんので」
瀧見「そうおっしゃらず、お話だけでも」
と、勝手にテーブル下手側席に腰掛け、短い足を組む。
奥重が瀧見の足を見て、独り言のように、
奥重「足、組んでる? 置いてる?」
瀧見が立ち上がり、
瀧見「聞こえてますよ!」
奥重「小さいのに聞こえるんや」
瀧見「身長と聴力は関係無いでしょ!(半笑)」
奥重「知らない。自分は小さくないんで」
瀧見「…(半笑)」
⑸
瀧見が中央テーブル席下手側に座ったため、友見も仕方なく反対側に座る。
瀧見「この辺りに大型リゾート施設の建設計画がありまして」
瀧見「旅館の土地をお譲りいただけないでしょうか?」
瀧見「こちらは頭金の1千万です」
と、小切手をテーブルに置く。
友見「結構です! もう、旅館に関わらないでください」
瀧見「分かりました。今日のところは失礼します」
瀧見が友見に一歩近づき、友好的な表情から野心的な表情に一変させ、
瀧見「ただ、我々も諦めませんので」
⑹
瀧見「湯澤君、帰るとしよう」
湯澤「はい、社長」
二人が帰っていく。
下手端で立ち止まり、瀧見がプライベートの話をする。
瀧見「今日、一緒に夕食どうかな?」
湯澤「ごめんなさい。
瀧見「…」
吉田「めっちゃ嫌われててるやん!」
二人が去っていった。
友見は夕食の準備のため上手端通路に消え、
ロビーはまた裕と敦史二人きりになる。
その4に続く