『お婆ちゃんといっしょ』
[セット紹介]
鮫島家宅の居間
⒈
屋外あり
舞台下手端…隣家の玄関
下手端・舞台最前…ブロック塀
ブロック塀と隣家の間…道路=演者の入退場用
⒉
鮫島家宅の居間
⑴
玄関と段差のある畳の居間
舞台中央にちゃぶ台
⑵
下手寄り…玄関(引き戸)
中央上手寄り奥…ふすま
上手端…奥の部屋への通路
[物語]
(敬称略)
⒈
⑴
舞台は鮫島家宅の居間。
三人の男性がちゃぶ台を囲み、何やら楽しげに話をしている。
ちゃぶ台下手側に座る吉田(もじゃ吉田)と奥側の小西(小西武蔵)、
スーツ姿の二人は正座し、
ちゃぶ台上手側の中年男性・鮫島耕一(烏川耕一)は普段着で胡座を組んでいる。
耕一「助かりました」
小西「素敵です、自宅で結婚なんて」
吉田「今は式場を使う人ばかりで珍しいです」
耕一「娘がどうしても家で結婚式をするって言うもんで…」
耕一「家で結婚式を挙げられるのも花月ブライダルさんのお陰です」
吉田「喜んでいただけて嬉しいです」
吉田と小西はブライダル会社の社員で、耕一の娘が近々結婚式を挙げるよう。
⑵
吉田が耕一に対し、
吉田「それにしてもお父さん、ずっと喜ばれてる」
耕一「そりゃ、娘が結婚するんですから」
吉田「ずっと口笛吹いてますよね?」
耕一「…? 吹いてません」
吉田「吹いてますって」
耕一「吹いてない」
吉田「一回、口笛吹いてみてもらえますか?」
吉田が耕一に口笛を吹かせ、やめさせ、烏川の唇について、
吉田・小西「一緒やん!」
耕一「何言ってるんですか!」
⑶
今度は小西が耕一に対し、
小西「お父さん、ずっと張り切ってはる」
耕一「そりゃ、娘が結婚するんですから」
小西「ずっと『よきよう』の練習してますよね?」
『余興』の発音が怪しくなった小西に
耕一「何…?(苦笑) あっ、余興ね」
小西「はい、余興です。(苦笑)」
耕一「余興の練習なんかしてませんけど…」
小西「パンスト被ってはる」
耕一「被ってないですけど」
小西「余興で使うパンスト持ってるんで被ってみてください」
小西がポケットからパンストを取り出す。
少し流れに無理があるように思えるが、
後のカーテンコールの話によると、小西の希望でこの場面を入れたらしい。
『ひょっとコメディー』で毎回大爆笑を起こす耕一のパンスト芸の時間に。
小西が耕一にパンストを被らせ、客席に耕一の顔を見せる。
ベースは紛れもなく耕一なのだが、もの凄い顔が出来上がり、
客席の大爆笑を誘う。
吉田が耕一の顔を見て、
吉田「早く被ってください!」
耕一「被りましたけど!?」
耕一「(パンスト)取ってください!」
小西がパンストの先を引っ張るがなかなか抜けず、
耕一の目が吊り上がり、また大爆笑が起こる。
パンストが取れた後、耕一の顔を見た吉田が
吉田「凄い顔。とんでもない。(半笑)」
耕一「もう取れてんねん!」
吉田・小西「一緒やん!」
耕一「何言ってるんですか!」
耕一「さっきから何で顔で遊ぼうとするんですか?」
小西「遊んでほしそうな顔してるんで」
耕一「明日の本番ではやらないでください」
耕一の娘の結婚式は明日行われることが分かる。
⑷
小西「結婚式の二次会ですが、グルメサイトで当たりを見つけました」
グルメサイトに頼るブライダル企業は信頼に値するのか疑問に感じるが、
耕一「どんなお店ですか?」
小西がスマホを見ながらレビューを読み上げる。
小西『一軒目に行ったのは海鮮のお店』
小西『病みつきになるほど中毒性があって、』
小西『牡蠣を食べた時に思った。「これは当たりだね!」』
小西『二軒目は皆で病院に行きました』
耕一「その当たり、要りません」
小西「では、こんな店はどうですか?」
小西がスマホを見ながらレビューを読み上げる。
小西『地下にある完全個室性のお店』
小西『一見怪しげな雰囲気だが、芸能人も良く見かける』
小西『最近見たのはエリカ、マッキー、マーシー』
耕一「薬物の店やん!」
小西が続ける。
小西『ハーブ料理が有名なお店で、』
耕一「違うハーブや!」
小西『マスターに「美味しい」と告げると、マスターはクスリと笑った』
耕一「ダジャレ要らん!」
耕一「もういいです。二次会はこっちで調べます」
⑸
女性『あなたー!』
上手端通路から女性の声がし、耕一の妻・泰恵(未知やすえ)が現れる。
泰恵「騒がしかったけど、どうかしたの?」
耕一「この人ら(=吉田・小西)が俺の顔で遊ぶんや」
すると、泰恵が吉田と小西に、
泰恵「遊び易い顔でしょ?」
小西が泰恵に対し、
小西「娘さん、お父さんと顔が似てないと思っていたんですけど、」
小西「娘さんが綺麗なのはお母さんが綺麗だからなんですね」
泰恵「そんな綺麗やなんて…」
泰恵「、ワ゛ァーハーハーハー、(パパパパパン)コッ」
と喜びの最上級を披露する。
⑹
泰恵が耕一に尋ねる。
泰恵「あなた、幸恵たちは?」
耕一「もう来るんちゃうかな?」
結婚する娘の名は幸恵で、普段は別の場所で暮らしている様子。
⒉
⑴
娘・幸恵の結婚式を明日に控えた、父親・耕一
耕一の妻・泰恵
花月ブライダル社員の吉田と小西
4名。
皆が幸恵たちの到着を待っていると、
幸恵より先に主役の新郎・祐貴(伊丹祐貴)が柔かな表情で現れる。
花月ブライダルの吉田が祐貴に気付き、
吉田「新郎の羽田様」
祐貴「違います!」
小西「すみません、成田様」
祐貴「成田でもない!」
耕一「関空?」
泰恵「新千歳?」
祐貴「全部日本の空港やないですか!」
耕一「…、インチョン?」
祐貴「どこの空港ですか!」
耕一「韓国。仁川(=にかわ)と書いて、」
全員で祐貴を指差し、
全員「インチョン!」
しかし、小西だけタイミングがずれてしまい、
祐貴「一人合ってない!(苦笑)」
祐貴が小西を見て、
祐貴「汗だくやないですか。(苦笑)」
祐貴「伊丹祐貴です」
⑵
耕一「祐貴君が来たことやし、奥(の部屋)で細かいことを決めていこうか」
ここで、吉田が祐貴に確認する。
吉田「あっ、その前にブライダル料のことですが…」
祐貴「口座に振り込んでおきますので」
耕一「格安で有難いです」
吉田「それでは式の段取りを決めましょうか」
耕一・泰恵が上手端通路から部屋に移動する。
吉田と小西も上手端通路に向かう。
吉田「小西。明日の結婚式のこと、上司に報告しておいてくれるか?」
小西「分かりました」
小西が胸に取り付けられたトランシーバーに向かって、
小西「こちら小西。準備完了しました!」
すると、吉田が胸のトランシーバーに向かって、
吉田「こちら吉田。了解!」
祐貴「上司ってあんたかい! 何の意味があるんや!?」
吉田と小西が通路に消えた。
その3に続く