(第二景)
⒏
⑴
旅館支配人・千葉
女将・幸恵
番頭・瀧見
従業員・多和田
従業員・美優
5名。
夜になり、どこからかフクロウの鳴き声がする。
幸恵の兄弟、ケイスケとスチオについて、
千葉「よし、先ずは近くの問題から解決しよう」
千葉はスチオの問題から解決する考えのよう。
千葉が幸恵に確認する。
千葉「スチオ君はいつから引き篭りに?」
幸恵「3年前です」
千葉「3年間、一度も会ってないんですか?」
幸恵「はい。食事を部屋の前まで運んでも、人が居ない時に部屋に取り込んでいて…」
千葉「徹底していますね」
瀧見「3年間、僕も一度も見ていないんです」
⑵
千葉は多和田と美優にも確認する。
千葉「二人は?」
多和「女将さんでも見てないのに、僕らが会えるわけないですよ」
美優「私、見たことあるかも…」
多和「えっ?」
千葉「詳しく聞かせてくれる?」
美優「どうしようかな~」
新支配人・千葉を受け入れられず、素直に協力できない、美優。
美優がフロント方向に歩みながら、
(故意に)意識高い系若手劇団風の芝居がかった標準語で、
美優「素直に協力するのは癪だが、この旅館のために…」
フロントのベルを『チーン!』と鳴らし、
美優「協力しよう!」
千葉「…」
呆れ顔の千葉。
美優が人差し指と親指を立て、銃のような形にして、
旅館中央奥のお土産が置かれた棚を指差しながら、
美優「ある夜、照明の消えた中、お土産コーナーで人影が見えたの」
千葉「えっ、二本指で指すの?(苦笑)」
美優がまた意識高い系若手劇団風の芝居がかった標準語で、
美優「怖くなって、部屋に戻って寝たわ」
美優「翌朝起きると布団の上に地図が描かれていたのは、また別の話」
千葉「しょんべんの話!?(呆れ)」
美優が普通の喋り方に戻り、
美優「翌朝確認したら、お土産コーナーのお菓子が食い荒らされていたの」
千葉「土産物のお菓子というのは…?」
幸恵「父が開発したお土産用の『ハゲの月』です」
千葉「萩の月じゃなくて?」
幸恵「いえ、ハゲの月です」
千葉「また変わった名称ですね」
幸恵「父の友人が名付けたんです」
ここで、多和田が会話に加わり、
多和「可笑しな話ですね。お菓子だけに」
千葉「、ちょっと下がってようか。(冷ややか)」
絶妙なタイミングでボケを捌く、千葉。
⑶
お土産用の旅館オリジナル菓子『ハゲの月』について、
幸恵「名称のせいで客ウケは悪かったんですけど、私たちは気に入ってました」
幸恵「スチオは一度に50個も食べたのよ」
と、三兄妹がまとまっていた頃を思い出す、幸恵。
⑷
ハゲの月のエピソードを聞いた千葉が
千葉「スチオ君を誘い出しましょう!」
瀧見「どうやって?」
千葉「瀧見さん、ハゲの月の在庫を全て持ってきてくれますか?」
瀧見「分かりました」
瀧見がフロント奥にお菓子を取りに行く。
千葉「美優ちゃんはハゲの月を一個ずつ鳳凰の間からロビーまで等間隔で並べて」
美優「分かったわ」
美優が棚のハゲの月を手にし、中央奥通路に消えた。
千葉「多和田君はフロントで電気のスイッチ係を」
多和「はぁ」
千葉「僕が『消して』って言ったら消して。『点けて』って言ったら点けて」
多和「そりゃそうでしょう、できることっていったら」
幸恵「私は何を…?」
千葉「女将さんは見守っていてください」
瀧見がハゲの月の箱を抱えて戻ってくる。
千葉「テーブルに置いてください」
瀧見がテーブルにハゲの月を置く。
美優もハゲの月を床に等間隔に置きながらロビーまで戻ってくる。
美優「完了っと」
どうやら、スチオの好物・ハゲの月で誘い出し、
スチオがお菓子に夢中になっているところを捕まえる作戦のよう。
⑸
千葉・幸恵が下手端で、瀧見・美優が上手端でしゃがみ、
多和田がフロントに隠れ、皆でスチオの登場を待つ。
その6に続く