⒍
⑴
千葉と幸恵、二人。
東京の大手リゾート会社から派遣された千葉と従業員の間の溝を感じ取っている幸恵が
千葉を気遣う。
幸恵「旅館には慣れましたか?」
千葉「僕はサラリーマンですから」
千葉は別のホテルでも同じような経験をしたのかもしれない。
千葉「女将さんこそ、一人で切り盛りしていて大変だと思います」
幸恵「両親が残してくれた旅館を何とか残したくて」
幸恵「でも、私一人では力不足で…。元々は一人じゃなかったんですけど…」
千葉「…?」
⑵
幸恵が『元々』について話す前に、
下手袖から複数の男性の楽しげな声が聞こえてくる。
男性陣「幸恵ちゃーん!!」
川畑座長の出囃子に合わせて、
下手側から③ボン澤(ボンざわーるど)→②椎森(もりすけ)→①川畑(川畑泰史)の並びで登場。
カー!カー!カー!と川畑から順に三連発でカー顔を決める。
三人は『ゆきえ命』と書かれた鉢巻をして、川畑とボン澤は杖を手にしている。
千葉が幸恵に尋ねる。
千葉「知り合い?」
幸恵「町内会の方たちです」
川畑たちが千葉に対し、敵意を剥き出しにした言い方で
川畑「お前が新しい支配人か!」
椎森「東京から来たようやな!」
ボン「幸恵ちゃんは渡さんぞ!」
千葉「女将さんは僕の彼女じゃないですから」
⑶
ここで、千葉はフラつく川畑が気になり、
千葉「フラフラしてますよ?」
川畑「そういう(演技)プランや。(苦笑)」
川畑も川畑で気になることがある様子。
椎森に対し、
川畑「何で杖持ってないの? 忘れてきてる? 一緒に使う?(半笑)」
と、二人で一本の杖をシェアし始める。
⑷
千葉は三人の鉢巻を見て、
千葉「女将さんのファン?」
川畑「俺らは幸恵ちゃんの親衛隊や!」
川畑「その名も!、」
川畑・椎森・ボン「△□◯×!」
と三人が別々のことを叫び、何を喋っているのか分からないネタに。
しかし、客席は無反応で、
川畑「…、全然ウケへんやないか!(苦笑)」
千葉「反省は後に」
千葉「すみません、今、何て言いました? 1人ずつお願いします」
川畑『ラブラブ同盟!』
千葉「あなたが言うと、ちょっとイヤらしく聞こえる」
椎森『つるっぱげブラザーズ!』
千葉「、あなただけですよね?」
ボン澤はゆったりとした独特の喋りで、
ボン『幸恵ちゃんが好きすぎて食べたいが、我慢して唾を呑み込む男たち』
千葉「気持ち悪い」
⑸
親衛隊の名称で三人が揉め始め、千葉が止めに入り、
千葉「喧嘩しないで!」
と、先ず椎森を引き離す。
すると、椎森が千葉に対し、
椎森「引っ込んでろ!、この東京スカイツリー野郎が!」
観客の反応が乏しく、
川畑「ちゃんとやろう。(苦笑)」
親衛隊の名称でまた三人が揉め始め、千葉が止めに入り、
千葉「喧嘩しないで!」
と、先ず椎森を引き離す。
すると、椎森が千葉に対し、
椎森「引っ込んでろ!、この無駄に背ー高い、無駄にスタイルいい野郎が!」
観客の反応が乏しく、
川畑「ちゃんと言え!(苦笑)」
また、親衛隊の名称で三人が揉め始め、千葉が止めに入り、
千葉「頑張って!」
と、今度は川畑を引き離す。
川畑が千葉に対し何か言う必要があるが
川畑「…!?」
想定外なのかアドリブ風台本なのか、一瞬焦りの表情を見せた後、
川畑「、ンガフフッ」
と、サザエさんのエンディングの名場面を入れ、大きな笑いが起こる。
川畑「びっくりした!、こっち来るから。(苦笑)」
千葉「思い通りに行くと思わないで」
⒎
⑴
千葉が町内会のメンバー、川畑・椎森・ボン澤に尋ねる。
千葉「あなたたちは何をしに…?」
川畑「幸恵ちゃんが疲れた顔をしてたから、笑顔にしに来たんや」
川畑「今から1人ずつ幸恵ちゃんを笑わせるから」
と、ここからピンネタ披露コーナーに。
⑵
椎森とボン澤が下手袖からギターと譜面台を持ってきて、川畑が舞台中央に座る。
椎森が川畑にギターを渡す。
川畑と客席の間に譜面台を置く、ボン澤。
川畑「そこに置いたら、(観客から)ワシ見えへん。(苦笑)」
川畑「もうちょっとこっち(=下手側)に置いて?」
ボン「そしたら、こっち(=下手側客席)から顔が見えへん」
と、譜面台を川畑の背中側に置く。
川畑が譜面台を見るため、客席に背中を向け、
川畑「そしたら、ワシの顔、誰からも見えへん。(苦笑)」
結局、下手寄りに譜面台を置く。
(ボン澤・椎森→中央に川畑←千葉・幸恵、のポジションで)
川畑がギターを弾き、ゆず『栄光の架橋』を気持ち良さげに歌い始める。
演者や観客が手拍子する中、サビに入る。
なかなか歌唱が終わらず、客席から笑い声が漏れる。
結局、オチも無く気持ち良さげに歌い切り、悦に入る川畑。
千葉「本当にただ歌っただけ。(苦笑)」
笑っていない幸恵に、千葉が尋ねる。
千葉「女将さん、どうでした?」
幸恵「あの…、長い」
川畑「大成功!」
千葉「笑ってない」
川畑「ちょっと経ったらオモロいやつや」
⑶
椎森「ワシが行く」
椎森が幸恵を笑わせる番。
椎森「ワシは毎日三点倒立して鍛えとる」
椎森「なんと、今は一点倒立できる」
千葉「一点倒立!?」
椎森「頭で支える」
千葉「大丈夫ですか?」
椎森「大丈夫じゃない」
椎森「やりすぎて、ここ(=頭)こうなった(=禿げた)」
椎森「今日は一点倒立しながら、」
椎森「『アメンボ赤いなあいうえお 浮き藻に小蝦も泳いでる』を言い切る」
椎森が三点倒立した後、両手を床から離し、頭だけで倒立。
客席から拍手が起こる。
椎森「アメンボ赤いなっ!、」
と発生練習を始めて直ぐに支えられなくなり、背中からバタンと音を立て倒れる。
千葉「アメンボしか言えてない」
笑っていない幸恵に、千葉が尋ねる。
千葉「どうでした?」
幸恵「…、何とも言えない」
千葉「一番嫌な感想」
すると、川畑が椎森に対し、
川畑「(ネタが)長いんじゃ!」
椎森「お前が30倍長いわっ!」
川畑「…(苦笑)」
⑷
ボン「ワシの番じゃ」
ボン澤が幸恵を笑わせる番。
ボン澤は下手袖からピンク色の手作りバズーカを持ってくる。
ボン「幸恵ちゃんの着物に似合う、綺麗な色のバズーカじゃ」
川畑「似合うか!(苦笑)」
ボン「似合うやろ。うるさいのう」
ボン「椎森! 川畑を捕まえろ!」
椎森が川畑を羽交締めにする。
(椎森・川畑→←ボン澤←千葉・幸恵、の立ち位置で)
ボン澤が川畑にバズーカを向ける。
ボン「覚悟しろ。 ボンバズーカ、発射!!」
すると、黄色いゴムボールがバズーカの後方から力無く発射され、千葉に命中する。
千葉「えっ?」
ボン「あれ?、おかしいな」
ボン澤がバズーカの発射口を覗き込み、猫の縫いぐるみを発射口から取り出し、
ボン「弾詰まってるかと思ったら、猫のタマ(=弾)、詰まっちゃってた」
千葉「おっちょこちょい」
と、(連携プレイ気味に)『今のどう?』の意味で千葉が両人差し指で幸恵を差す。
幸恵の笑いのツボにはまったようで、幸恵が笑い出す。
千葉がボン澤に対し、
千葉「二度とやらないで」
⑸
笑顔を見せた幸恵に、
川畑「その顔が見たかったんや」
川畑「困った時は兄弟を頼った方がいい」
千葉「兄弟?」
幸恵「実は兄と弟がいるんです」
ここから、(笑いのフリとして)急に意識高い系若手劇団風の青臭い芝居が始まる。
幸恵が舞台中央最前に出て、客席方向を見上げながら、
幸恵「兄弟は仲が良くて、何をするのも一緒だった」
千葉「…?」
川畑が舞台上手前方に移動し、客席方向を見上げながら、
川畑「ロビーで遊ぶ兄弟を優しい目で見る旦那さんと女将さんを見ると癒された」
千葉「…?」
椎森が舞台下手前方に移動し、客席方向を見上げながら、
椎森「旦那さんと女将さんが亡くなってから、歯車が狂い始めた」
千葉「なんで、みんなどっか行くの?」
ボン澤が舞台下手前方に移動し客席方向を見上げるが、何も喋らない。
千葉「ボン澤、喋れ!」
瀧見が上手端通路から現れ、客席方向を見上げながら、
瀧見「長男のケイイチさんが旅館を引き継いだもののなかなか上手く行かず、」
瀧見「不甲斐なさから旅館を出て行った」
千葉「君も加わるの!?」
美優が下手端奥側通路から現れ、客席方向を見上げながら、
美優「弟のスチオさんは、お兄さんがいなくなってから引き篭りになった」
千葉「スチオさんはどこに?」
すると、多和田がフロントカウンターから顔を出し、客席方向を見上げながら、
多和「鳳凰の間に!」
鳳凰の間が空いていないのは、スチオが引き篭っているからだった。
舞台中央最前に立つ幸恵が客席方向を見上げながら、
幸恵「兄が戻って三人一緒になれば、良かった頃のお客さんが戻ってきてくれる」
幸恵「必要なのは、」
呆れ顔の千葉以外の全員が客席の方を向いたまま、胸の前で拳を握り、
幸恵・川畑・椎森・ボン・瀧見・美優・多和「家族の絆!!」
(皆の様子を見ていた千葉の感想は)
千葉「やっすい芝居!(呆れ)」
暗転
その5に続く