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⑴
荒木が現れ、まだ判明していない取引相手の登場に警戒する、刑事の吉田・小西。
お洒落で品の良いスーツを着た男性・信濃(信濃岳夫)がやってくる。
信濃は自分に疑いの目を向ける吉田・小西に、
信濃「旦那さん、いらっしゃいますか?」
辻本が中央奥通路から現れ、信濃を見て驚き、すぐに険しい表情になる。
辻本「信濃、お前っ!」
小西が辻本に尋ねる。
小西「お知り合い?」
辻本「元従業員です」
信濃の方も法被姿の吉田・小西とは面識が無く、
信濃「こちらは?」
吉田「花月旅館の従業員です」
小西「花月署の刑(事です)…」
吉田が慌てて小西の言葉を遮る。
吉田「おーい!、真似しとけ言うたやろ!」
小西「あっ、従業員です」
信濃「今、花月署って…」
小西「言い間違えました!」
信濃「言い間違えないでしょ?」
小西「花月署と従業員って似てるんで。花月署、花月署、花月署、従業員」
全員「…?」
演者も観客も全員がポカンとなり、妙な間が生まれる。
小西「とにかく、従業員です」
早急に次の場面に行きたいように見える、小西。
⑵
お洒落で品の良い服を着た信濃に、
辻本「昔と違って垢抜けたな」
信濃「事業で成功しまして」
信濃「あの…泊まれますか?」
辻本「泊まる気か!」
ここで、響と直子が中央奥通路から現れる。
ひび・直子「お父さん、勉強教えて」
信濃が響と直子に近づき、
信濃「覚えてるか?」
ひび「誰ですか?」
直子「知らないです」
信濃「そうか。二人はまだ赤ちゃんやったしな」
辻本がフロントから鍵を持ち出し、
響や直子から信濃を遠ざけようと信濃に鍵を渡す。
辻本「ルームキーや。ごゆっくり」
信濃が中央奥通路から客室に向かった。
⑶
直子「ねえ、お父さん。勉強教えてー」
辻本「よっしゃ。奥で教えたる」
辻本が直子・響とともに中央奥通路に消えた。
吉田が小西と話す。
吉田「信濃って奴、怪しいな」
信濃が荒木の取引相手なのだろうか?
なにやら他にも理由がありそうに見えるが…
⒍
⑴
吉田が荒木の取引相手として信濃を怪しんでいると、
荒木がスマホを耳にしながら、カフェから現れる。
荒木が電話の相手に対し、
アキ「今、ロビーや」
アキ「運び屋、どんな奴や?」
吉田と小西が荒木の会話に耳をそばだてると、荒木は急に小声でモゴモゴと話し始める。
吉田「途中から分からん!、全然聞こえへんぞ!」
(この場面は吉田の心の声で、荒木には聞こえていない体)
すると、荒木が電話相手に対し、観客にも聞こえるかどうかギリギリの小声で、
アキ「全然聞こえへんぞ」
吉田「繰り返してへんか!?」
⑵
吉田と小西が荒木の電話に集中しているところに、
辻本の息子で小学生の健太が飛行機のポーズをしながら中央奥通路から現れる。
健太「ウィーン!」
健太が吉田に対し、
健太「お兄ちゃん、遊んで」
吉田「今、忙しい!」
吉田は荒木を注視し続けていて、健太の顔を見ずに返答する。
健太「なーなー、遊んで」
吉田「ちょっと静かにしといて!」
健太「なーなー!」
吉田「黙っとけ言うてんねんっ!!」
吉田の怒鳴り声に、
健太「遊んでほしかっただけやのに…」
健太は両手を目元に当て、「ウワーン!」と泣き出してしまう。
(健太・小西・吉田↘︎→→↓荒木、の立ち位置で)
健太の泣き声で荒木が警戒したのか、吉田の居る方向を睨みつける。
アキ「チッ」
荒木に張り込み捜査を気づかれたと思い焦る吉田だが、
アキ「下手くそな泣き方しやがって!」
荒木が中央奥通路先のカフェに戻っていった。
吉田「泣き方の指導かい!」
吉田と小西が荒木を追いかけ、カフェに向かった。
⑶
ロビーで一人泣く健太だが、一転して悪ガキの笑顔になる。
健太「居なくなったな」
健太はフロントから瞬間接着剤を持ち出し、
館内・玄関付近の馬の顔出しパネルに向かう。
瞬間接着剤を顔出し部分に当て、
健太「ここにたくさん塗って…、全部使っちゃえ」
と、瞬間接着剤を顔出し部分に一周させる。
健太が上手端通路の人影に気付く。
健太「帰ってきた!」
両手を目元に当て、「ウワーン!」と泣くフリをする、健太。
⑷
吉田と小西がカフェから戻ってくる。
小西「何も無かったですね。取引しないのかも…」
吉田「諦めるな。 自然に根気よく。それが張り込み捜査の基本や」
吉田が嘘泣きしている健太を見て、
吉田「ごめん、悪かった。泣き止んでくれんかな?」
健太「…じゃあ、笑わせてや。(嘘泣き)」
健太「パネルから顔出して。そしたら笑うから。(嘘泣き)」
吉田「そんなんでええんか? ほんま、小学生やなあ」
吉田がパネルから顔を出す。
健太「アハハハ!」
健太の笑顔を取り戻し、一安心の吉田。
健太「アーッハッハッハ!」
吉田「?、そんなおもんないぞ?」
健太「アーッハッハッハ!!」
策略にはまった吉田を見て、呼吸困難になるほど大笑いする、健太。
吉田がパネルから顔を抜こうとするが、
吉田「おい、待て!? 取れへん!!」
吉田「小西、引っ張ってくれ!」
小西が吉田の体を引っ張る。
吉田「イテテテッ!」
吉田の顔は瞬間接着剤でくっついてしまい取れる気配が無い。
吉田「取れへん!、何でや!?」
すると、健太がポケットから得意げに瞬間接着剤を取り出し、吉田に見せる。
健太「ジャーン!」
吉田が状況を把握する。
吉田「…! 動かへんやないか!」
馬のパネルから顔を出した吉田を見た小西が、
小西「パネルに自然に溶け混んでますよ!」
小西「なるほど、これが張り込み捜査の基本ですね!」
吉田「そういう意味やないねーん!!」
暗転
その5に続く