⒊
⑴
辻本家の家族構成が観客に伝えられたところで、
セーラー服姿の中学生、辻本家の娘・響(咲方響、台詞は『ひび(き)』表記)が
学校から戻ってくる。
ひび「ただいま」
辻本「おかえり」
響は見慣れない法被姿の吉田・小西について、辻本に尋ねる。
ひび「そちらの二人は…?」
辻本「新しく入ってきた従業員や」
響が吉田と小西に自己紹介する。
ひひ「はじめまして」
柔らかい口調から、素直に育っていることが窺える。
吉田・小西も自己紹介する。
小西が辻本に対し、
小西「こんな可愛らしい双子なら、近所でも評判なんでしょうね」
辻本「え、ええ…」
吉田・小西「?」
歯切れが悪い、辻本。
⑵
双子の話をしていると、
セーラー服姿の中学生、辻本の双子の姉・直子(岡田直子)が学校から戻ってくる。
直子「だだいまー!」
辻本「おかえり」
直子は舞台中央に立ち、客席の方を見てオタク風に、
直子「ちょっぴりドジだけど元気な中学生、直子よ! テヘペロ」
親指・人差し指・小指を伸ばし、その手を顔に近づけポーズを決める。
吉田「何やこいつ!」
響とは容姿も性格もまったく似ておらず、引き気味の吉田。
小西「吉田さんの気持ち、代弁します」
小西「ブスッ!」
直子「ちょっとー!」
小西「仲本工事みたい」
直子「誰が仲本工事よ!」
ここから、直子が仲本工事と言われたことへの不満を長々と捲し立てる。
吉田「どんだけ喋んねん!」
頃合いを見計らい直子の喋りを止める吉田。
直子「言いたいことの3分の1も言えてないわ」
吉田「ごめん、ごめん」
吉田「新しく入った吉田っていいます。仲良くしてね」
小西も直子に自己紹介する。
⑶
小西が響と直子に尋ねる。
小西「名前、教えてくれる?」
ひび「響です」
直子「直子です」
小西は響の方だけ見て、
小西「響ちゃんていうんや」
直子「…」
吉田「(直子ちゃんを)無視すんな!」
小西がまた尋ねる。
小西「学校では部活しているの?」
ひび「バレーボール部です」
直子が部活名を言い掛けると、小西がそれより先に
小西「バレーボール部なんや」
直子「…」
吉田「(直子ちゃんに)聞く気無いやろ!(苦笑)」
⑷
友見が響と直子に対し、
友見「響、直子。ご飯の前に勉強してきて」
ひび「数学してくるね」
響が中央奥通路に消えた。
直子「大人の数学してくるね」
吉田「大人の数学?」
直子が吉田に対し、大人っぽく、
直子「3.14イコール…パーイ」
と両手で自分の胸を包むようにアピールし、中央奥通路に消えた。
吉田「あいつ、ほんまに中学生か!?(苦笑)」
⑸
辻本が吉田に尋ねる。
辻本「麻薬取引の人物は判明しているんですか?」
吉田「一人が吉本組の荒木という男であることは分かっています」
吉田「ただもう一人は判明していません」
吉田「情報が正しければ、もう直ぐ荒木がやってくるはずです」
吉田「辻本さんはいつも通り仕事してください」
辻本「分かりました! では、私は仕事に戻ります」
辻本が中央奥通路に消える。
⑹
友見が吉田に尋ねる。
友見「犯人がカフェに来たらどうすれば…?」
吉田「いつも通りで、自然に」
友見「分かりました!」
友美が上手端通路からカフェの仕事に向かった。
ロビーは吉田と小西、二人になる。
⒋
⑴
刑事の吉田
後輩刑事の小西
旅館の法被を着て、張り込み捜査を始めた二人。
下手袖から大きな足踏み音がし、
黄色スーツの吉本組・荒木アキ(アキ)が走って現れる。
荒木は玄関の柱に手を当て立ち止まり、
アキ「はぁ、はぁ…」
と息を整え、唾を飲み込む。
長時間沈黙を続け、客の笑いが起きた後に、
アキ「なに~」
吉田「長い! 時間かけ過ぎやろ!」
吉田「『なに』はこっちが聞きたい!」
アキ「俺が来て、俺から何はおかしいな。何泥棒してた」
アキ「、何泥棒って何じゃろか?」
吉田「知らん!」
吉田「しっかりせえよ!(苦笑)」
アキ「しっかりしましょうよ!」
吉田「お前に言うてんねん!」
アキ「俺がしっかりしましょうよ!」
吉田「えっ、自分に言うたん?」
アキ「自分に言うた。言い聞かす家系やから」
吉田「…」
吉田が小西の方を見て、
吉田「(荒木とは)会話できへんわ」
⑵
荒木がスマホで電話する。
荒木「着いたぞ」
セットの設定を無視し、玄関扉の舞台前方側から外に出て行く、荒木。
吉田は荒木の会話を盗み聞きしようとするが、荒木がボソボソと話すため聞きとれない。
吉田「近付かな、何話してるかわからん」
小西「僕が行ってきます」
小西が少し近付いては荒木が振り返り、小西が足を止める、を繰り返す。
吉田「『坊さんが屁をこいた』やないか!」
荒木が観客にも聞こえるかどうかギリギリの小声で電話相手に対し、
アキ「『坊さんが屁をこいた』やないか」
吉田「今、『坊さんが屁をこいた』言うてないか!?」
荒木がまた観客にも聞こえるかギリギリの小声で電話相手に対し、
アキ「今、『坊さんが屁をこいた』言うてないか!?」
⑶
荒木が吉田や観客にも聞こえる声で電話相手に対し、
アキ「カフェで時間を潰す」
またブツブツと小声で電話相手と話しながら、上手端通路先のカフェに向かった。
吉田「滑舌崩壊してるやん!」
吉田「何喋ってるか全然分からん!」
荒木は癖が強く、張り込み捜査はなかなか骨が折れそうだ。
その4に続く