⒍
⑴
シナキュラがモロミーに対し、
シナ「国に帰るぞ! 京都に来て出会った女性、全員最悪や!」
モロ「えっ?」
モロミーが浅香・若井・珠代を思い返しながら指を折り、
モロ「美人・美人・美人」
シナ「どこがや! ブサイク・老人・変人やないか!」
⑵
シナキュラが帰り掛けたところで、上手端通路から従業員の響が現れる。
(←シナキュラ←モロミー→←響、の立ち位置で)
響がモロミーに尋ねる。
咲方「そちらの方は?」
モロ「連れのシナキュラでしゅ。でも、もう帰るって…」
咲方「えっ?」
響がシナキュラに近づき、シナキュラの背中に向けて、
咲方「シナキュラ様、ようこそ、お越しくださいました」
シナ「だから帰るって言ってるでしょ!」
と、響の方を振り向く。
その瞬間、「♪ピロリロリ~ン」と一目惚れの効果音が鳴り、
シナキュラが客席に向けて吉本新喜劇定番の一目惚れポーズを取る。
響はシナキュラの楽しげな表情を見て安心し、
咲方「では、ごゆっくり」
響が中央奥上手寄りの客室通路に消える。
⑶
シナ「今の、何や!?」
モロ「人間」
シナ「そうじゃなくて!」
モロ「あっ、ホテルの従業員でしゅ」
シナ「タイプや!」
モロ「趣味悪っ」
熟女好きのモロミーからすると、響はストライクゾーンから外れるよう。
シナ「清楚でお淑やか。まさに理想の女性や!」
シナ「あの女性の生き血、」
客席にアピールするように、マントを広げ両手を掲げ、得意げな表情で、
シナ「このシナキュラ伯爵が吸うのだーっ!」
同時にバロック調のオルガン曲が流れる。
やはり、反応が薄い客席。
モロミーがシナキュラに対し、
モロ「いつ受けるんや!?(苦笑)」
⑷
上手端・従業員通路から従業員の清水が現れる。
清水がモロミーに尋ねる。
清水「そちらの方は?」
モロ「連れのシナキュラです」
清水がシナキュラに挨拶する。
客室通路から響が現れると、清水が響に対し、
清水「夜勤の従業員が二人、交通事故に巻き込まれて来られんようや」
咲方「えっ?」
清水「二人は無事らしいんやけどな。しかし、困ったな…」
人手が足らず、頭を悩ませる、清水。
シナキュラがモロミーを下手端に呼び寄せ、コソコソと話し始める。
シナ「チャンス到来や! 従業員になって響ちゃんに近づこう!」
シナキュラが清水に対し、
シナ「もしよろしければ、我々を臨時の従業員として雇ってもらえませんか?」
清水「いや、お客様にお願いするというのは…」
シナ「日本文化を堪能できる絶好の機会なんです」
清水「でも…」
シナ「給料は要りません!」
モロ「、血ーさえ吸えれば」
清水「…?」
シナ「…!」
シナキュラが誤魔化す。
シナ「いや、あの、困っている人を放っておけない血筋なんです」
清水「では、申し訳ないですが少しの間お願いできますか?」
シナ「ありがとうございます!」
⑸
清水が響に対し、
清水「響ちゃん、二人の教育係をお願い」
咲方「分かりました」
清水が仕事に戻るため、上手端通路に消える。
シナキュラがモロミーを下手端に呼び寄せ、コソコソと話し始める。
シナ「チャンスあるぞ!」
モロミーが上手端に立つ響を見ながら、シナキュラに小声で、
モロ「でも、可愛いから昔遊んでたはず」
シナ「そんなことない!」
コソコソと話す二人に響が、
咲方「では、掃除からお願いします」
咲方「制服に着替えてきてくれますか?」
シナ「分かりました!」
響が二人に制服を渡し、二人が中央奥上手寄り客室通路に消える。
響、一人。
咲方「私に教育係ができるかしら…?」
⒎
⑴
響がシナキュラとモロミーの着替えを待っていると、
上手端通路から従業員・珠代が現れる。
珠代「響ちゃん、今度コンパ行こう」
咲方「私、そういうの苦手なんです…」
珠代「お堅いんだ」
珠代「今まで彼氏ができたことがないなんて、勿体無いぞ~」
珠代「このままじゃつまんないから、真似してもらおうかな?、このダンス」
咲方「えっ?」
珠代「見てて?」
珠代が四股を踏むように大股になり、股間にタオルか何かを通すフリをしながら、
珠代「♪頑張れ、頑張れ、マワシを絞めろ キュッキュッキューのキュ」
珠代「これを一緒に」
すると、響が無理するでもなく自然に、かつマドンナ役らしい上品さも保ちながら、
珠代の歌に動きを合わせる。
二人が四股を踏むように大股になり、股間にマワシを通すフリをしながら、
珠代「♪頑張れ、頑張れ、マワシを絞めろ キュッキュッキューのキュ」
珠代「♪はい!、いててのて」
珠代「♪はい!、食い込んで」
珠代「♪頑張れ、頑張れ、マワシを絞めろ キュッキュッキューのキュ」
二人が踊りながら上手端通路に消えていった。
⑵
従業員の制服に着替えたシナキュラとモロミーが中央奥・客室通路から現れる。
シナ「今の聞いたか!?」
モロ「♪キュッキュッキューのキュ」
シナ「違う!(苦笑) 響ちゃん、付き合ったことないって!」
響はシナキュラが求める理想の女性像を完璧に満たしているよう。
モロ「隙を見て、ガブっといきましょう!」
⑶
響がモップ2本とバケツを持ち、現れる。
咲方「では、モップ掛けからお願いします」
モロ「この人(=シナキュラ)、モップ掛けの経験が無いんでしゅ」
咲方「では、持ち方から教えますね」
咲方「両手を30cmくらい離す感じで」
響がシナキュラの手を取り、モップの持ち方や動かし方を細かに指導する。
その都度、シナキュラが「はいっ!」、「はいっ!
」と
憧れの女子生徒と話す思春期の男子中学生のように緊張気味に返事をする。
様子を見ていたモロミーは、
モロ「狼狽てる」
⑷
響がシナキュラに対し、
咲方「私はこっち(=上手側)をするので、そっち(=下手側)をお願いします」
シナ「分かりました!」
咲方「モロミーさんは雑巾でお願いします」
と、おろしたてで真っ白な雑巾をモロミーに渡す。
⑸
(下手端にモロミー・シナキュラ、上手側に二人に背を向けモップ掛けする咲方)
モロ「さっきから、何してるんでしゅか!」
シナ「響ちゃんの顔見たら緊張すんねん!」
二人に背を向け、中腰でモップ掛けする響を見たモロミーが
モロ「今やったら、お尻に噛み付ける! お尻、ドフリーやから!」
シナ「ドフリーって!(苦笑)」
シナキュラが躊躇していると、
咲方「私、あっち(=上手端通路奥)をしてくるので、ロビーをお願いします」
シナ「わ、分かりました!」
響が上手端通路に消える。
遠ざかる響の背中をただ眺めている、シナキュラ。
モロミーがシナキュラのお尻を押すように蹴り倒す。
モロ「何しとんねん!」
⑹
上手端通路から、中腰でモップ掛けしていると思われる響のお尻部分だけが現れる。
モロミーが上手端のお尻を見て、
モロ「あっ!」
モロ「響ちゃんのお尻、ドフリーでしゅよ!」
シナキュラが意を決し、叫び声を上げながらお尻に噛みつきに行く。
シナ「あーっ!!」
すると、聞こえてきたのは珠代の声。
珠代「痛ーっ! お前、なんしとんねん!
」
シナキュラが噛み付いたのは、響ではなく珠代のお尻だった。
珠代「さっきトイレ行ってお尻拭いてへんわ」
シナ「オエーッ!!」
シナキュラは吐き気を催した後、
ショックでロビー中央に仰向けに倒れ込み、ピクリとも動かなくなる。
モロ「シナキュラ様ーっ!」
モロミーが駆け寄り、無念そうに真っ白な雑巾をシナキュラの顔に被せる。
珠代は珠代でフロントに向かい、ご臨終の意味のチャイムを得意げに鳴らす
『♪チーン』
すると、シナキュラが上半身を起こし、
シナ「死んでへーんっ!!」
暗転
その6に続く