⒎
⑴
新人アルバイト・茂造
番頭・高井
オーナー・要
オーナーの息子・健一
4名。
従業員・麻理奈とシェフ・永田が上手端通路から現れる。
麻理「オーナー、シャンパンの確認を」
永田が長台詞で難解なシャンパン名を喋り切る。
要冷「…、それでいい。(ポカン)」
茂造「分かってへんやろ!」
⑵
連泊客の入木(入木将志)が散歩から戻ってくる。
高井「景色はどうでした?」
入木「すって…、とっても綺麗でした」
珍しく一声目でミスをする、入木。
茂造「すって?(苦笑)」
入木「素敵でした」
入木が麻理奈から鍵を受け取り、階段から部屋に向かおうとする。
茂造「お前が『すってんころり』や!」
と、見事なアドリブを入れながら杖で壁を叩き、階段が坂になる。
入木は手すりを掴み、踏ん張って上り切り、客席に向かった。
観客の拍手が起こる。
茂造が舞台最前まで来て、観客に対し、
茂造「すみません、期待に添えず」
茂造が独り言のように、
茂造「あいつ、空気読まんな」
⑶
永田「オーナー、健一さんの特別ディナーは何時に?」
要冷「19時で」
永田「分かりました」
健一は初耳で、
健一「特別ディナーって?」
要冷「縁談や。ISトラベルの社長が来られる」
茂造「ISトラベルいうたら、大手旅行代理店やないか」
健一が父親・要に対し、
健一「何勝手に決めとんや!」
要冷「結婚が決まれば、この旅館は安泰や。お前の将来を考えてのことや」
健一「お断りや! 結婚相手は自分で決める!」
要冷「縁談、進めるぞ」
要は健一の考えには耳を貸さそうとしない。
要冷「永田君、ディナーの用意を」
要と永田が上手端通路に消えていった。
⑷
高井「茂造さん、宴会場の掃除手伝うて?」
茂造「掃除やったら任せて。綺麗にするでー!」
茂造「、ダスキンに電話や!」
高井「自分でせんのかい!」
高井と茂造も上手端通路に消え、ロビー下手寄りに健一と麻理奈二人になる。
⑸
麻理「仕事に戻りますね…」
麻理奈が早足で上手端通路に向かおうとして、健一が追いかける。
健一「麻理奈さん、待って!」
麻理奈を追いかけた拍子にテーブルの足に小指が当たる。
健一「痛っ!」
健一が小指を押さえる。
麻理「大丈夫!?」
健一「大丈夫」
⑹
健一と麻理奈が向き合う。
健一「縁談は父親が勝手に決めただけや!」
健一「僕は麻理奈さんを愛してる」
健一「プロポーズの返事、聞かせてくれ!」
次の瞬間、フロントの額縁が外れ、茂造と高井が現れる。
茂造・高井「えーっ!?」
健一と麻理奈が驚く。
楽しそうにロビー出てくる、茂造と高井。
茂造が健一に対し得意げに
茂造「今の、茂造イリュージョンいうねん」
健一「あそこでずっと聞いてたんですか!?」
茂造「掃除しようと通り掛かったら、最後の方だけ聞こえたんや」
健一「最後の方って…」
茂造『麻理奈さん、待って! 痛っ!』
健一「一番最初や!」
⑺
茂造が健一たちに尋ねる。
茂造「どこまで行ったの? A?、B?、C?」
高井「中学生か!」
健一「…、Aです」
高井「答えんでいいです!」
茂造は健一と麻理奈を交互に見ながら、楽しげに、
茂造「チューまで行った? チューまで行った?」
健一「あの、このことは父親には黙っていてもらえますか!」
茂造は胸の高鳴りを隠せず、
茂造「黙ってられるかなーっ!?」
⑻
ISトラベル社長との縁談の時刻が近付いたようで、
健一の父親でオーナーな要、シェフの永田が上手端通路から現れる。
要冷「そろそろISトラベルの社長が到着する頃やな」
茂造「来たーーっ!」
要の登場に心躍る、茂造。
要冷「…?」
その6に続く