(暗転中)
瀧見が立ち位置を間違え、
舞台中央から下手側に慌てて後退する様子が薄らと見え、
客席から笑いが起こる
(第三景)
⒓
⑴
従業員・清水
新人従業員・川筋
須知組四代目組長の妻兼ホテルマン・すち子
組員兼ホテルマン・瀧見ケン
組員兼ホテルマン・多和田マサ
5名。
(多和田・瀧見→昼食を終え、ソファで寛ぐすち子←清水・川筋の立ち位置で)
暗転中に立ち位置を間違え慌てて後退した瀧見に対し、すち子が
すち「なにムーンウォークの練習してんねん」
清水「下手くそ過ぎる。(苦笑)」
⑵
ここからは暫くの間、すち子のフリータイム。
昼食を終えて、一人ソファにもたれて寛ぎながら
すち「せやけど、サラダバーは怖い」
すち「ハンバーグが来る前にお腹一杯になる。何往復もして」
すち「ヤングコーンばっかり食べてる」
すち「ヤングコーン食い尽くして、最終的にとんがりコーン食べてる。アッハッハ!」
清水「なんもおもんない」
⑶
物語の再開。
すち子が清水に対し、
すち「そんなことより、組長、どうするんや?」
清水「なる気は無い」
下手寄りで多和田が清水の態度に苛立ちながら、
独り言のようにヤクザ映画の似非関西弁風に(歌舞伎口上風に?)、
多和「ワシは組長になりとうてしゃあないのに〜、あいつはどうして…っ!」
⒔
⑴
清水とすち子・瀧見・多和田が次期組長についての話をしていると、
吉本組の組長・辻本と組員・千葉がやってくる。
辻本「どうも」
清水「また!」
辻本「お前に用はない」
辻本の声が聞こえたのか、上手端通路から社長・未知と従業員・信濃が現れる。
辻本が未知に対し、
辻本「気持ちは変わりましたか?」
清水「(信濃と)グルやないか!」
辻本「訳の分からんことを」
⑵
(千葉・辻本→←未知・清水たち、の立ち位置で)
辻本が未知を静かに恫喝する。
辻本「聞きましたで? 娘さん、歩道橋で突き飛ばされたとか」
辻本「怪我が無くて良かったでんな」
辻本「ただ、今度はどうなるか…」
未知「やっぱり、あなた達の仕業だったのね!」
辻本「なんのことですかね?」
辻本「売るか、売らんか、どうしますか?」
未知「…」
未知「分かりました。売ります」
清水「…!」
辻本「そうでっか。では契約書の方を…」
背後に立つ千葉が契約書を取り出し、辻本がサインを書き始める。
その間に清水がすち子を上手端に連れていき、小声で相談する。
清水「組長になる!、だから助けてくれ!」
すち「ホテルマン、諦めることになるで?」
清水「ホテルが無くなったら花梨ちゃんが悲しむ!」
清水はホテルを、延いては花梨を守るため、すち子の条件を呑んだ。
⑶
辻本がサインを終えたようで、未知に対し、
辻本「ここにサインを…」
未知が契約書にサインをしようとしたところで、すち子が
すち「(サインしたら)あきまへん!」
すち「吉本組と信濃はグルです」
未知「信濃君がグル!?」
信濃「社長、違うんです!」
未知「ちゃんと説明して!」
信濃「あの、」
ここで、千葉が信濃に対し、
千葉「おいおい!、絶対言うなよ!」
千葉「お前が吉本組と共謀して、花月ホテルの土地を手に入れ、」
千葉「新しいホテルができた際には、お前が重役になる約束ってことを!」
未知「なんですって!?」
今度は信濃が千葉に対し、
信濃「なんで言うねん!、俺が帳簿を改ざんして社長を騙そうとしたことを!」
未知「なんですって!?」
辻本「アホばっかりやないか」
とにかく、吉本組と信濃が共謀していることを未知が知ってしまった。
⑷
千葉「こうなったら!」
千葉がドスを取り出し、花梨の腕を掴み人質にして下手端に連れて行く。
信濃も下手端に移動。
下手端に信濃・辻本・人質の花梨・千葉、
上手端に未知・清水・川筋・すち子・瀧見・多和田、
一般的な人質の場面が出来上がる。
すち子が千葉に対し、
すち「やめとき」
千葉「ババアは引っ込んどけ!」
多和「誰に向かって言うとんや!」
多和田が激昂し千葉に殴り掛かるが、一発で返り討ちにされ、倒れ込む。
倒れた多和田に千葉が冷淡な表情で近づき、
多和田が少し頭を上げるたびに餅つきのようにパンチを打ち下ろし、
無抵抗な多和田に何度もパンチを打ち下ろす。
パンチに合わせて次第に観客から手拍子が起こり始め、
(悪役の)千葉が手拍子に合わせて仰向けの多和田の顔面にパンチを叩き込む流れに。
正直なところ、少しばかり悪趣味に映る場面。
拳を叩き込み続ける千葉を止めようと、辻本が背後から近付き、
辻本「その変で止め(とけ)」
全てを言い切る前に千葉が振り向き、辻本を殴る。
辻本「…っ!、何で殴った!?」
千葉「…、そこに顎があったから」
辻本「山があったみたいなこと言うな!」
ようやく千葉が下がる。
⑸
辻本が未知に対し、
辻本「社長さん、どないすんじゃ!」
すると、すち子がゆっくり前にでて、辻本に対し、
すち「あんたも地に堕ちたもんやな」
辻本「なんやねん、オバハン」
すち「まだ分からんか?」
辻本「…?」
すち「これでどうやろな?」
すち子が透明フレームの眼鏡を外し、ピンクフレームの眼鏡を掛ける。
辻本「すち子姐さん!」
清水「眼鏡替えただけで!?」
すち「やっと分かったようやな」
すち「娘、解放し」
辻本が千葉のもとに行き、
辻本「娘、解放せえ」
辻本「えっ!?、でも…」
辻本がすち子のことを説明する。
千葉「あの大阪をまとめていた、伝説の!?」
辻本「昔、世話になったんや」
辻本はすち子のことを相当恐れている様子。
花梨が解放され、上手端の清水の近くまで駆け戻ってくる。
⑹
すち子が辻本に対し、
すち「辻本。このホテルのことは諦めるな?」
辻本「そっ、それは…」
すち「うちと争うんか?」
辻本「わっ、分かりました」
すち「分かったら、とっとと帰り」
辻本・千葉が去っていく。
二人が下手端で立ち止まり、
辻本「この腹立たしい気持ち…っ」
辻本「千葉、行くぞ!」
辻本「、ワクチン二回目や」
清水「また!?」
辻本と千葉が去っていった。
⑺
信濃が下手袖方向に消えた辻本と千葉の背中を見て、
信濃「なんて悪い奴らや!」
清水「お前やっ!」
信濃「こうなったら…っ」
信濃「、副反応怖いな…」
信濃もワクチン接種の体で逃げ去っていった。
清水の自己犠牲、そしてすち子の協力で吉本組は追い払われ、
花月ホテルは守られた。
その11に続く