⒍
⑴
屋台前に清水とすち子、二人。
清水「(岳夫君と響ちゃんを)仲直りさせる方法なあ…」
清水が頭を悩ませていると、すち子が長椅子で仰向けになる。
清水「なんしてんねん!」
すち「お客さんおらんから、ええやんか」
すち子が渋々体を起こす。
清水「雇ってる俺の気持ちを考えろ!」
すち「私の気持ちも考えてほしいわ」
すち「コロナで気ー立ってんの?」
すち「これは神の試練や。心までやられたら終わりやで」
すち「試練で思い付いたわ」
すち「(岳夫と響、)二人に一つの試練を与えるっていうのは?」
すち「二人で乗り越えたら、仲直りできる」
清水「具体的には?」
⑵
二人が思案しているところに、日本芸者協会の諸見里がやってくる。
清水「こんにちは」
諸見「また、注文いいでしゅか?」
すると、すち子が名案を思いついたのか、清水を上手端まで呼び寄せる。
すち子が小声で清水に対し、
すち「私ら腹痛になったことにして、二人にあの人の対応させましょ」
すち「(シャ行で)苦労したら、仲良なる」
すち「私が腹痛のフリするから、二人を呼んでほしい」
清水「分かった!」
すち子が諸見里のもとに行き、ストレートに、
すち「私ら今から腹痛になるんで、他の子が店番します」
諸見「…?」
なんのためにヒソヒソ話をしたのか。笑
すち子がわざとらしくお腹を押さえ、
すち「アタタタタタ、ワチャ!」
清水「北斗の拳や!(苦笑)」
清水「岳夫君、響ちゃん、ちょっと来てー!」
岳夫が土産物屋から、響が旅館から現れる。
岳夫・ひび「…?」
すち「私ら腹痛になったから、ちょっと店番お願い!」
岳夫・ひび「えっ?」
すち子と清水がお腹を押さえながら下手袖に消え、岳夫と響が応対することになる。
⑶
諸見里が岳夫たちに対し、
諸見「注文いいでしゅか?」
すち子と清水がこっそり戻ってきて、
下手端客席付近の花道に移動して、岳夫たちを見守る。
すち子は、殴った時に舞台袖スタッフが音を出す『板』を持っている。
(この場面の花道での台詞は『』表記)
この場面は、岳夫たちはすち子たちの存在に気づいておらず、声も聞こえない体で、
岳夫が諸見里に対し、
岳夫「え~と、何にしましょうか?」
ここで、すち子が『パンッ!』と板を重ねて鳴らす。
諸見里が慌てて岳夫を殴り、岳夫が殴られた動きをする。
すち『今度は2発殴るよ?』
すち子が『パンッ、パンッ!』と板を二度鳴らす。
すると、岳夫が慌てて諸見里を2発殴り、諸見里が殴られた動きをする。
すち『こういうのでやってたんや(=板鳴らしてたんや)』
すち子がまた板を鳴らすと、
今度は諸見里が響を殴り、響が殴られた動きをする。
清水『響ちゃんが殴られた!(苦笑)』
すち子が板を連打する。
諸見里が肩を小刻みに動かし、岳夫も小刻みに殴られた動きをする。
清水『速すぎて見えへん!(苦笑)』
すち『打たれ強い』
⑷
殴り殴られ疲れた、三人。
諸見・岳夫・ひび「はぁはぁ…」
諸見「あの、注文いいでしゅか?」
すち『ここからや』
清水『ソースか醤油か』
諸見「プレーン、8個」
非常に聞き取り易い注文をする、諸見里。
すち・清水『…!?』
岳夫「プレーン8個ですね」
清水『まだ、届け先と時間がある!』
諸見「左京区の日本芸者協会本部ビルに15時で」
左京区も含めて、すらすらと非常に聞き取り易い注文をする、諸見里。
すち・清水『…!?』
清水『めっちゃ分かり易く喋った!』
岳夫「左京区の日本芸者協会本部ビルに15時ですね」
⑸
すち『なんとかせな!』
すち子が三三七拍子で板を鳴らす。
諸見里が四方八方に手を出し、岳夫が小刻みに殴られた動きをする。
すち『あの子、殴られる時ずっと同じ動きしてるな。(苦笑)』
清水『彼には遊び心が無いから。(苦笑)』
すち子がまた板を連打すると、
岳夫がなんとか存在感を出そうとしなちゃんダンスを始める。
しかし、大きな盛り上がりには繋がらず、
すち『上手いこといかんなー()』
清水『なんとかしたいけど、無理や()』
すち子たちが頭を悩ませているのは岳夫と響の仲直りのことなのか、
芸人・信濃岳夫のことなのか。
すち子が板を叩くと、今度は響が岳夫を殴る。
岳夫「痛っ!、何すんねん!」
ひび「何がよ!?」
岳夫・ひび「フンッ!」
二人が顔を背けて、土産物屋と旅館に戻ってしまった。
⑹
すち子と清水が諸見里のもとに戻る。
計画が上手くいかず苛立つすち子が諸見里に対し、
すち「あんた、前と喋り方が違うやん! 何してんの!?」
諸見「帰ってくるん、遅いわ! 注文(、受けて)!」
すち「あかん。腹たった」
すち子が諸見里の背後に回り、
両腕を使った軍隊格闘術で諸見里を締め落としにかかる。
諸見里が怪物ののっそりした声で、
諸見「人間きら~い」
諸見里が絞め落とされた。
暗転
その6に続く