[第一幕…セット紹介]
花月うどん店
最も基本的なセットです。
⒈
店先あり
⒉
店内
舞台下手寄り…お店入り口(引き戸)
舞台下手寄り奥…レジ
舞台上手寄り奥…厨房
舞台上手端…店舗兼自宅の自宅部分への通路
[第一幕:うどん屋編]
⒈
⑴
(敬称略)
会場に流れるキャラメルパッキングの音楽が大きくなるにつれ、
客席の明かりが消え、真っ暗になる。
事前収録された掛け声で
辻本『辻本!、新喜劇ー!!』
『新喜劇ー、新喜劇ー』とエコーが掛かった後、
いつもの開幕曲『♪ホンワカパッパ~』で開幕。
⑵
舞台は、カレーうどんが評判の花月うどん店。
新喜劇の基本セットだが、NGKの辻本座長回としては珍しいスタートに。
若者カップルの健太(平田健太)とこがちゃん(こがちゃん)がうどんを食べ終わる。
こが「美味しかったー!」
健太「3年ぶりに食べに来たけど、ここのカレーうどんは日本一や!」
こが「スパイスも効いてて、最高ね」
健太「お昼は行列ができるから、時間をずらしてよかった」
健太はかつての常連客の様子。
⑶
健太「お水のおかわり貰おうか」
こが「うん」
健太「すいません!、すいませーん!」
と、舞台上手寄り奥の厨房に呼びかけると、
奥から、アルバイトの青年・レイ(レイチェル)が爽やかな笑顔を浮かべて現れる。
レイ「はいはい!」
健太「お水、いただけますか?」
レイが水差しを取りに行き、
レイ「滅茶苦茶暑いですよね」
健太「はい」
レイがコップに水を注ぎながら、
レイ「喉が渇きますよね。僕も一緒です」
と、コップに注いだ水を飲み干し、そのコップをテーブルに置く。
レイ「どうぞ」
健太「『どうぞ』やないでしょ! 今、飲んでましたよ!」
レイ「僕、飲んでました!? すみません、無意識でした」
健太「なに考えてるんですか!」
と、健太がレイの肩を突き、怒ったレイも健太の肩を突き返す。
ここで、健太の身体つきに感動する、レイ。
レイ「!、ちょっとお兄さん、サーフィンでもしてたんですか?」
レイ「凄くいい身体してますね」
レイ「まさに、♪ダイナマイトなバディ でも品が無い!」
健太「舐めてんのか!」
⑷
こが「まあまあ、健太君。そんなに怒らなくても」
彼女になだめられ、笑顔を取り戻す、健太。
こが「せっかく一緒に来れたんやし、記念写真撮ろうよ」
レイ「それやったら、僕が撮りましょうか?」
こが「お願いします」
レイがこがちゃんから使い捨てカメラを受け取る。
レイ「使い捨てカメラですか、エモいですね。 今、流行ってますよね」
レイがお店の入り口に立ち、上手に立つカップルを撮影しようとカメラを構え、
『はいチーズ、♪ズー、ズー、ズー、ずーっと前から~』のネタに入ろうとするが、
ここでハプニング発生。
レイ「(カメラの残り枚数が一枚も)無いです。(苦笑)」
健太・こが「…!(焦)」
健太「いいんで、それで撮ってください!(焦)」
公演時間がタイトなため、写真撮影できる体で物語を進めようとする、健太。
が、やはりライトが光らないことにはオチも光らないため、
レイ「ちょっと買ってきますわ!(半笑)」
レイが下手袖にダッシュで消え、別の使い捨てカメラを持ち、一瞬で戻ってくる。
レイ「すぐ売ってましたわ!(半笑)」
改めてネタに入ろうとするが、
レイ「これも無いじゃないですか!(半笑)」
レイ「もう一回買ってきます!(半笑)」
レイが下手袖にダッシュで消え、別の使い捨てカメラを持ち、一瞬で戻ってくる。
改めてネタに入ろうとするが、
レイ「これも無い…(苦笑)」
レイ「三回目なんで、もうやめましょうか。(苦笑)」
と、カメラネタを省略。
⑸
レイ「でも、お客さんと色々お話しできて、楽しい~!」
と、健太にもたれ掛かる。
健太「楽しいん、お前だけや!」
二人の見事なアドリブで、台本通り、店員と客が揉める場面に持っていく。
健太「この店、どうなってんねん!」
レイ「こちら(=上手端)がトイレで、こちら(=上手寄り奥)が厨房です」
健太「そういう意味やない!」
健太「この店員じゃ、どうにもならん! 誰か、誰かー!」
と、厨房の方に呼び掛ける。
※
補足
本来はカメラネタの後、健太がレイの撮り方に怒り、
逆ギレしたレイがレジ付近のゴミ箱に使い捨てカメラを投げつけ、
健太「今、ゴミ箱に捨てようとしたやろ!」
レイ「えっ?、使い捨てカメラでしょ?」
健太「そういう意味ちゃうねん!」
と、揉める場面でした。
⒉
⑴
健太が厨房奥に呼び掛けると、
うどん屋二代目大将の俊彦(高井俊彦)が厨房から現れる。
俊彦は人柄が良さそうで、20代後半に見える。
俊彦「どうかされました?」
健太「この店員(=レイ)、滅茶苦茶なんですよ!、僕のこと品が無いって言うたり」
俊彦がレイを叱る。
俊彦「レイ!、お客様にほんまのこと言うたらあかんやろ!」
健太「ちょっと!」
俊彦「冗談です」
俊彦が改めてレイを叱る。
俊彦「前も接客業やったのに、なんでちゃんとできんのや!」
俊彦が健太に頭を下げる。
俊彦「すみません。こいつ(=レイ)には後で厳しく指導しておきますんで」
※
補足
カメラネタが成功する通常回では、
健太「この店員(=レイ)、滅茶苦茶なんですよ!、僕のこと品が無いって言うたり」
俊彦「レイ!、お客様にほんまのこと言うたらあかんやろ!」
ではなく、
健太が使い捨てカメラを俊彦に見せながら、
健太「この店員、ふざけてカメラ撮ったりするんですよ!」
俊彦が健太のカメラを手に取り、
俊彦「レイ!、何考えてんねん!」
と、怒りでカメラを床に叩きつける。
健太「ちょっと!」
俊彦「えっ?、使い捨てカメラ…」
健太「あんたもかい!」
…という流れでした。
皆さん、流れに沿ったアドリブを臨機応変に入れ、話を進めているわけですね。
⑵
健太が厨房や上手端通路を意識しながら、俊彦に尋ねる。
健太「あの、大将はどちらに…」
俊彦「あっ、祖父なら隠居して、孫の僕が店を継いでいるんです」
健太「そうなんですね」
俊彦「ちょっと待ってくださいね」
俊彦「お母ちゃーん!」
俊彦が奥に呼び掛けると、
上手端通路から、俊彦の母親で白髪混じりの美由紀(たかおみゆき)が現れる。
みゆ「どうしたの?、俊彦」
俊彦「お客様」
美由紀が健太を見て、
みゆ「あら、平田さん。お久しぶり」
健太「お久しぶりです。東京に転勤して3年、やっと食べに来られました」
健太「大将、隠居されたんですね」
みゆ「そうなの。今は田舎暮らしで、ボケ防止に畑で野菜を作っているわ」
俊彦「お店のカレーうどんに入っている青ネギやタマネギ、」
俊彦「それにスパイスも全て祖父が作ったものなんです」
こが「こんな美味しいカレーうどん、初めて食べました!」
俊彦「ありがとうございます」
すると、腕組みしたレイが老人の枯れた声で偉そうに、
レイ「やっと一人前になれたのう」
俊彦「お爺ちゃんの真似せんでええ!」
⑶
お店や登場人物の基本設定を観客に知らせたところで、物語は少しずつ幹に入っていく。
美由紀が店内を見回し、
みゆ「そう言えば、幸恵さん。出前の鉢下げるだけやのに遅いわね」
幸恵の話を始めた途端、陰湿な表情に変わる、美由紀。
美由紀が俊彦の妻・幸恵の話をしていると
清楚で聡明な印象の幸恵(鮫島幸恵)がうどん鉢と紙袋を持ち戻ってくる。
幸恵「戻りました」
俊彦「お帰り」
俊彦「こちら、おじいちゃんの代からのお客さん」
と、健太を幸恵に紹介する。
幸恵「妻の幸恵です」
美由紀がトゲのある口調で幸恵に対し、
みゆ「いつまでかかってんのよ!、どこかでサボってたでしょ?」
幸恵「サボってません」
幸恵「帰りに和菓子屋の前を通り掛かったので、お母さんにお土産を買ってきたの」
幸恵「『おはぎ』よ」
幸恵が美由紀におはぎが入った紙袋を渡す。
普段、美由紀にいびられている幸恵が機嫌を取ろうとしていることが窺える。
俊彦「お母ちゃんの大好物やないか」
二人の仲を取り持とうとする、俊彦。
だが、美由紀は紙袋の中身を覗きこんでから幸恵に対し、
みゆ「甘い物を食べさせて、私を糖尿病にして殺すつもりか!」
ここで、なぜかアルバイトのレイが
レイ「はい」
俊彦「そんなことあるか!」
⑷
(テーブルにこがちゃん・健太、幸恵→俊彦←美由紀・レイ、という立ち位置で)
アルバイト・レイがまるで美由紀が言うかのように大将の妻・幸恵に指示する。
レイ「幸恵さん、ぼーっとせんとテーブルの鉢下げる!」
俊彦「お前の仕事やないか!」
レイが小さく謝り、テーブルの鉢を下げに行く。
美由紀は幸恵を意識しながら、イヤミったらしく、
みゆ「レイ君は気がきくわねえ」
幸恵「私がします…」
幸恵もレイの仕事に加わり、うどん鉢を厨房に下げる。
お盆を持った幸恵が厨房から戻ってくるところで、
みゆ「私はもっと美味しい和菓子が食べたいのよ」
みゆ「アホの一つ覚えみたいに、『おはぎ、おはぎ』って」
幸恵「はぁー!?」
憤慨した幸恵は思わずお盆をフルスイングし、
前に座る健太の後頭部をおもいきり叩いてしまう。
健太「痛ーっ!、何するんですか!?」
レイが慌てて健太たちに対し、
レイ「これ以上ここに居たら、命の保証はできませんよ!」
健太が慌てて、
健太「おあいそっ!」←お勘定、ではなく
俊彦「お代は結構ですので!」
健太とこがちゃんが慌てて去っていった。
⑸
俊彦「もうー、お客さん、怒って帰ってもうたやないか!」
俊彦「二人とも、仲良くして!」
幸恵・みゆ「できるかーっ!!」
レイ「ハモった!」
第一部は、幸恵と美由紀の嫁姑問題、
そして、二人の間で苦悩する俊彦が物語の幹になる様子。