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⑴
(第二景)
二日後。
清水と令、二人。
レイ「おじいさん、いつまで泊まるんでしょうか?」
レイ「もう、三日目ですよ」
清水「結婚を認めてもらおうと我慢してきた」
清水「でも、疲れてきた…」
清水は、あの後も茂造に振り回されている様子。
レイ「僕からガツンと言いますよ!」
⑵
茂造がパチンコから戻ってくる。
茂造「また、負けた」
茂造が清水に近づき、手のひらを出し、
茂造「一万(くれ)!」
と、お金を催促する。
清水「…」
清水が渋っていると、茂造が女性っぽく歌う。
茂造「♪ウェーディン ベーエエエエ、エー」
清水「その歌、やめてください!」
清水が渋々財布から一万円札を出そうとする。
すると、令が清水に対し、
レイ「旦那さん、待ってください!」
レイ「僕は二万負けました!、僕にもくださいよ!」
レイ「(旦那さんに)ガツンと言ってやりました!」
茂造「やるやないか!」
茂造と令が清水を挟んで握手する。
清水「何しとんや!」
⑶
客らしき男性・啓之(清水啓之)が小さなバッグを持ち、現れる。
啓之「すみません。予約していないんですけど、泊まれますか?」
清水「大丈夫ですよ」
啓之が即、椅子に座る。
すると、茂造が啓之に対し、
茂造「『お掛けになってください』を言われてないのに、座りましたね。(苦笑)」
茂造「あなたを見ていると、(台本があって)先々分かっている感じがします」
と、啓之の演技をキッカケに茂造の追い込みが始まる。
啓之「いえ、あの、色々回っていて、疲れたんで座りました」
茂造「『色々回っていて』…ここに来る前はどこに?」
啓之「えー、…海外」
茂造「海外から温泉?」
首をかしげる、茂造。
清水が啓之の小さなバッグを持ち、啓之に尋ねる。
清水「海外に行っていたのに、荷物、こんだけ?」
啓之「それはあの~、一人旅なんで」
清水「具体的には、どこに行っていたんですか?」
啓之「…」
啓之「ブラジル」
茂造「真裏ですね。また、何をしに?」
啓之「…」
茂造は啓之が何も思い付いていないと見るや、
茂造「あっ、サンバを踊りに!?」
清水「見たいな!」
茂造「令君、笛吹いてくれる?」
令が『♪ピーピーピピー』と笛を吹く真似をし、サンバのリズムを作ると、
啓之がサンバを踊り始める。
が、盆踊りにしか見えない。
令が頃合いを見てサンバのリズムを止めると、
啓之が自分で『♪ピーピーピピー』と言いながら、盆踊りを続ける。
啓之が清水に対し、
啓之「いい加減にしてくださいよ!!」
茂造「それは、こっちの台詞や!」
茂造「台詞を飛ばして、座って先々進めるから、なんかネタやるんやな、思た」
茂造「だから、ワシも乗ったんやで?()」
啓之「…」
啓之「違いますやん…(苦笑)」
啓之には地獄のような時間になるも、客席は大きく沸く。
⑷
啓之が宿泊名簿に記入する。
清水「何、書いてんの?…ペン出てないけど」
啓之「…」
先程の場面で全力を使い果たしたか、言葉が出てこない、啓之。
清水が苦笑いしながら、靖子を呼ぼうと中央奥通路の手前まで足を進める。
清水が啓之に確認する。
清水「もう、呼んでいい?(=ストーリー、進めていい?)、苦笑」
啓之「お願いします!」
清水「靖子さーん!」
⑸
靖子が中央奥通路から現れる。
靖子「何でしょうか?」
清水「お客様を桜の間にお願いします」
啓之は靖子を見て、
啓之「綺麗な方ですね」
茂造「綺麗やとーっ!?…ワシの孫をいやらしい目で見やがって!」
と、マキザッパで啓之の頭を叩く。
啓之は高い声で、
啓之「痛ーい!」
茂造「…?」
茂造「他のところ、叩いてみよか」
茂造が啓之の胸をマキザッパで叩く。
啓之「痛ーい!」
茂造が啓之のお腹をマキザッパで叩く。
啓之「痛ーい!」
茂造が啓之の股間をマキザッパで叩く。
啓之「…ふふふっ」
茂造「変態やないか!」
茂造「お尻も叩いてみよか」
茂造が啓之のお尻をマキザッパで叩く。
啓之「…」
啓之「ブリブーリ!」
茂造が頭・胸・お腹・股間・お尻をランダムに叩く。
啓之は茂造が叩くスピードに付いていくことができず、
頭を叩かれた時に『ブリブーリ!』と言ってしまったり、チグハグになってくる。
茂造「叩いてないのに、『ブリブーリ』とか言うてるやないか!」
啓之「叩くのが速すぎるんですよ!(苦笑)」
茂造「椅子、叩いてみよか」
啓之「…椅子!?」
茂造が椅子をマキザッパで叩く。
啓之「…」
啓之「いやいーや!」
茂造「椅子、後三つあるから、全部違うはずや」
茂造「行くで!?」
茂造が二つ目の椅子を叩く。
啓之「…」
啓之「フワフーワ!」
茂造が三つ目の椅子を叩く。
啓之「…」
啓之「ダメダーメ!」
茂造「ラスト、行くで!」
茂造が最後の椅子を叩く。
啓之「ダメよーっ!!」
茂造「さっきから、(一の介を)パクっとるやないかい!」
啓之「早く案内してくださいよーっ!!」
啓之と靖子が桜の間に向かうため、上手端通路に消えていった。
啓之の奮闘に、観客から大きな拍手が起こる
茂造「あいつ、口では怒ってるけど、ウケてるから目が笑ってた」
清水「言わんでよろしい!(苦笑)」
⑹
茂造「ワシも奥で休もうかな」
茂造「動いて、腹減ったから、料理持ってきてくれ」
茂造が上手端通路に消える。
清水「わがままなじいさんやな!」
清水「令君、料理頼める?」
レイ「僕もここに『居たーい!(=痛ーい!)』」
と、啓之の真似をしてから、上手端通路に消えていった。
⒐
⑴
清水が一人になり、溜息を吐いていると、
中央奥通路から仲居の真希(前田真希)が現れる。
真希「どうかされました?」
清水「おじいさんがね…」
真希「大変そうですね」
真希「おじいさんが居たら、結婚できない」
真希「でも、私なら、面倒なことが無いわよ?」
清水「えっ?」
真希「前から、旦那さんのことが好きでした」
清水「俺は靖子さんと付き合っているから」
真希「私じゃ駄目!?」
真希「女の私にここまで言わせて平気なの!?」
真希が清水に近づく。
清水「ちょっと、真希ちゃん」
清水「俺は靖子さんのことを真剣に愛してる!」
清水「諦めてくれ!」
真希「分かりました」
清水「ごめん」
真希「じゃあ、靖子さんの次でいいです!」
真希「お願いします!」
清水「真希ちゃん、何を言うてんや!?」
真希が強引に清水の手を握り、体を寄せる。
清水「靖子さんを裏切ることはできん!」
⑵
茂造に食事を用意した令が上手端通路から戻ってくる。
令は清水と真希が近くで寄り添い合っているように見えたようで、
レイ「何してるんですか!、靖子さんが居ながら!」
真希「旦那さんが迫ってきたの…!」
清水「なんでや!」
真希「酷い!(涙)」
真希が泣きながら、中央奥通路に消える。
レイ「女性を泣かせるなんて、最低や!」
レイが清水に憤慨し、上手端通路に消えていった。
清水「…なんで?」
その6に続く