⒉
⑴
高井が花子を叱っていると、
中央奥通路から、橙色の作務衣を着た女将の靖子(高橋靖子)が現れる。
靖子「騒がしいけど、どうかしたの?」
高井「花子さんがサボって、遅刻したんです!」
高井「クビにしましょう!」
花子「女将さん、すみません!」
靖子「花子さんも、反省しているみたいだし、大目に見てあげてましょ?」
高井「女将さんは優しすぎますって!」
高井が花子に対し、
高井「今回だけやぞ!」
⑵
花子には困り事がある様子。
花子「あの、女将さん、お願いがあるんですけど…」
靖子「何?」
花子「仕事の時は、小学一年生の息子を預けているんです」
花子「でも、いつも預かってくれている人が今日から旅行で…」
花子「仕事の間、ここで預かっていただけませんか?」
花子は、本当は託児所をあちこち探して回って、遅刻したのかもしれない。
高井「花子さん、何を言うてるんですか!」
高井「仕事とプライベートはきっちりわけないと」
高井「仕事場で子供がうろちょろしていたら、師匠が怒りますよ!」
靖子「大丈夫よ」
高井「女将さんがそう言うなら…」
花子の息子を花月堂で預かることにする。
⑶
靖子「で、息子さんはどこに…?」
花子「外で待たせてます」
花子「こっちよ!」
と、店先に呼びかける。
高井「小1なら、可愛いんやろな…」
花子に呼ばれ、
下手袖から、花子の息子で小学一年生の諸太郎(諸見里大介)が勢いよく登場する。
190cm近い身長は非常に舞台映えし、客席が大きく沸く
諸太郎はランドセルを背負い、黄色の帽子を被り、
短パン半シャツで小学生らしい格好をしている。
諸太郎のあまりの大きさに、高井が
高井「これ、小1!?」
※
補足。
吉本新喜劇を観ていて、毎回、思うことですが、
出演者を一人一人目立たせるための『お約束』とはいえ、
一緒に来ておいて、(特に子供を)離れた場所で待機させる演出は不思議ですね。
⑷
花子が諸太郎に対し、
花子「皆さんに自己紹介して?」
この場面は高井が応対する。
諸見「しゅしゅしゅしゅしゅっしゅ えしゅ!」
高井「『えしゅ!』しか、分からん!」
高井「だいぶ、滑舌が悪いな」
諸見「しょんなに、かちゅじぇちゅ悪いでしゅか?」
諸見「はちゅみみ~(=初耳)」
ここからは、サ行ネタの場面。
サ行を飛ばし、タ行を言う、諸太郎。
高井「サ行、飛ばしたらあかん!」
諸見「まだ習ってへんから」
高井「タ行、習ってるやん!」
諸見「フッフッフッフッ」
諸太郎が肩を大きく上げ下げして笑い出す。
高井「怖い、怖いっ!」
諸太郎は笑いながら高井を指差し、花子と一緒に、両手を自分の顔周りから広げ、
『高井の顔の大きさ』をアピールする。
高井「でかない!、笑うな!」
⑸
諸太郎が自己紹介し直す。
諸見「一年しゃん組しゃんじゅうしゃん番、諸太郎でしゅ!」
高井「一年3組33組の諸太郎君…だんだん分かるようになってきた」
※
注記。
ここからは、諸太郎の喋りが理解できるようになったものとして、
例外を除き、一般的な喋り方で記載いたします。
実際には、多少『しゃしぃしゅしぇしょ』になっています。
⑹
靖子「諸太郎君、よろしくね!」
諸見「よろしくお願いしましゅ!」
高井「諸太郎君はどこの小学校?」
諸見「初対面の奴に教えるわけないやろ。ちょっとは考えろや!」
諸太郎が態度を一変させ、目を見開きながら自分の頭を指して、
まるでヒール役のプロレスラーのように高井を挑発する。
⑺
靖子と花子が仕事の準備のため、上手端通路に消え、
諸太郎と高井、二人になる。
⒊
⑴
諸太郎と高井、二人。
高井「それにしても、大きいなあ。何cm?」
諸見「…」
高井を無視する、諸太郎。
高井「何cmって、聞いてるやろ!」
諸見「お母しゃんに『知らない人と喋っちゃダメ』って言われてる」
諸見「まだ自己紹介されてないから…」
高井「ごめん。自己紹介するわ」
高井「ここの職人の高井俊彦です」
諸見「ここの食品のかたいおしんこ?」
高井「大根やん!、和菓子と違うてもうてるやん!」
諸見「ほな、Qちゃん?」
高井「Qちゃんでもない!(苦笑)」
高井「たかい としひこ!」
諸見「かたい おしんこ?」
高井「滑舌だけじゃなくて、耳も悪いんか?」
諸見「(耳も悪いって)終わってるやろ?(苦笑)」
高井「自分で言うな!」
諸見「冗談。高井しゃんね?」
⑵
諸太郎がショーケースに行き、並べられた和菓子の箱を触る。
高井「売りもんに触ったらあかん!」
諸太郎が今度は、上手奥の調理台を触る。
高井「お菓子を作るところやから、触ったらあかん!」
諸太郎が客席の下手側上方を指差す。
諸見「あっ!」
すると、高井が指し示した方を見る。
…が、なにがあるわけでもなく、
諸見「♪アホが見ーるー 豚のけーつー」
高井「…」
高井「何なん!?」
諸見「人間」
高井「これやから子供は嫌やねん!」
⑶
諸太郎が調理台にある棒のようなものを手に取る。
諸見「耳かきかな?」
高井「触るな!」
高井「それは『三角棒』言うて、和菓子の形を整える道具や」
高井「先先代から大切にしている、二度と手に入らんもんなんや」
諸見「絶対『あかん』って言うと思うけど、メルカリで売っていい?」
高井「絶対、あかん!」
高井「結論が分かっているのに、聞くな!」
⑷
諸太郎はまたショーケースに移動し、豆大福を掴んで食べる。
諸見「めっちゃ美味いな」
高井「何、勝手に食うとんねん!」
高井「それに、豆を床にポロポロと落として、だらしない」
高井「店で歩きながら食べたらあかんぞ!」
諸太郎は手に付いた粉を自分の服で拭き取ろうとする。
高井「拭くな!」
すると、諸太郎は高井の作務衣で拭き取ろうとする。
高井「何してんねん!」
高井「勝手しとったら、師匠に怒られるぞ!」