信「銀行強盗って、物騒やな…」
あ「でも、この状況は芝居に使えるわよ!」
信「…芝居?」
あ「犯人役が安世を襲って、そこを岳夫兄ちゃんが助ける芝居をするの」
あ「そしたら、安世は岳夫お兄ちゃんに惚れると思うの」
信「…でも、犯人役は誰がするの?」
信「任せた」
信濃は覆面を入手しに、街中に出かけた。
⑵
あき恵・テツ・安尾、三人。
新「でも、芝居って、どうしたら…」
あ「それなら、私に任せて」
あき恵のプランは
①強盗役のテツと安尾が覆面を被り、カウンターに隠れる
②安世が現れたところで、テツと安尾が表に現れ、店の包丁で安世を人質に取る
③新「この女を殺されたくなかったら、逃走用の金を用意しろ!」
④信「その子を放せ!」
⑤信「その子は、俺にとって大切な人なんや!」
⑥テツが信濃に刺しかかり、信濃が返り討ちにする。
⑦テツと安尾が逃げる
⑧井「『大切な人』って、どういう意味ですか?」
⑨信「それは、僕が君のことを好きという意味です!」
⑩信「僕と付き合ってください!お願いします!」
⑪井「喜んで!」
というもの。
⑶
新「あき恵ちゃん、どうして大将の恋をそこまで手伝うの?」
あ「岳夫兄ちゃん、奥手だから、見るに見兼ねて…」
新「本当にそれだけ?」
新「あき恵ちゃん、もしかして、大将のこと…」
あ「…!」
あき恵は動揺して、過剰なくらい変顔でドタバタとする。
新「あき恵ちゃん!?」
安「…(テツの推測が)勘違いでしたか」
新「勘違い、ちゃう!(苦笑)」
⑷
あ「岳夫兄ちゃんのこと、好きだったの…」
♪感傷的な音楽が流れる。
あ「岳夫兄ちゃんがうちの店で弟子だった頃、優しかった」
あ「岳夫兄ちゃんといつか結婚するのが夢だった…」
あ「そのうち、岳夫兄ちゃんは独立して、店を出て行った…」
新「そうやったんか…」
新「それやったら、どうして、大将の恋を手伝うの?」
あ「決まってるじゃない!(涙)」
あ「誰だって、好きな人の笑顔を見たいものでしょ?(涙)」
テツがハンカチを取り出し、あき恵の顔を見ずに、ハンカチをあき恵に差し出す。
新「…あき恵ちゃん、涙が出てる」
あき恵がハンカチを受け取り、顔を押さえる。
あ「やっぱり、悔しくないって言ったら、嘘になっちゃうのかな…(涙)」
⑸
そこに、覆面を手に入れた信濃が戻ってくる。
信濃はあき恵の涙を見て、
信「どうしたんや!?」
信「…分かった!」
信「二人、付き合ってるんやろ?」
その瞬間、あき恵の気持ちを知るテツが激昂し、信濃の胸ぐらを掴む。
新「おいっ!言うてええこととあかんことがあるやろ!!」
新「クソ野郎がーっ!!」
信「…なんか、ごめんな」
と、一応、謝る。
テツが信濃の服から手を離す。
⑴
あき恵が信濃に芝居の説明をする。
あ「覆面をした二人が安世を人質に取るから、お兄ちゃんはこう言って」
あ『その子を放せ』
あ『その子は俺にとってっ、ううっ、大切な人…なんや…うぅ』
あ「そう、アピールじだらいいんじゃないのーっ!!!(号泣)」
新「黙れーっ!!」
安「あき恵ちゃん、がんばれーっ!!(涙)」
あ「二人がお兄ちゃんに…うぅ、刺しっ…うぅ、掛かるから、」
あ「お兄ちゃんがやっつけて、二人が逃げるの。(涙)」
あ「その後、安世がお兄ちゃんに尋ねると思うの。(涙)」
あ「『大切な人ってどういう意味』って。(涙)」
あ「そしたら、お兄ちゃんはこう答えて。(涙)」
あ『それは、僕が君のことを…うぅ、好き…と…(ヒック)、いう、意味、です…うぅ』
あ『僕と…うぅ、付き合って…(ヒック)くだ、ください…うぅ…あ゛~ぁ!(嗚咽)』
あ『お願、い…うぅ、します…』
あ「ぞう、告白ずればいいんじゃないのーっ!!!(号泣)」
テツと安尾があき恵の健気さに声を上げる。
新・安「あき恵ちゃーーん!!!」
信「二人もどうしたんや!?」
あき恵が絶叫しながらお芝居の終わりを説明する。
あ「ぞじで、二人ば抱ぎ合うんやがらーっ!!!(号泣)」
あ「うわぁーっ!!…うぅ」
新・安「うわぁーっ!!」
あき恵・テツ・安尾が泣き崩れる。
⑵
テツが立ち上がり、信濃に対し、
新「大将、命懸けで頑張ってくださいよ!!」
⑶
信「一回、練習しよう」
信「ほな、安世ちゃん役、あき恵ちゃんがやってくれる?」
新「あんた、鬼かーっ!!!」
安「血ー通ってんのかよ!!?」
あ「私、やるわっ!…やり遂げてみせるっ!!」
新「あき恵ちゃん、辛かったら言うんやで!(涙)」
⑷
練習スタート。
テツと安尾が安世役のあき恵を人質に取る。
信「その子を放せ!」
信「その子は俺にとって大切な人なんや!」
あ「うわぁーっ!」
信「あき恵ちゃん、さっきからどうしたの?」
あ「ごめんなさい、目にゴミが入っちゃって…(涙)」
あ「もう一回しましょ」
テツと安尾が安世役のあき恵を人質に取る。
信「その子を放せ!」
信「その子は俺にとって大切な人なんや!」
あ「うわぁーっ!」
あき恵は天井を見上げながら泣く。
あ「ごめんなさい。空が青いなって…(涙)」
信「ここ、店内やけど…(苦笑)」
あ「もう一回しましょ」
テツと安尾が安世役のあき恵を人質に取る。
信「その子を放せ!」
信「その子は俺にとって大切な人なんや!」
あ・新・安「うわぁーっ!」
テツと安尾も一緒に泣く。
信「ここで止まり過ぎ!(苦笑)」
信「次、行こ!(苦笑)」
⑸
テツが信濃に襲いかかる練習。
テツが指でナイフを表現する。
信濃が返り討ちにするはずが、
あ「お兄ちゃん、危ない!」
と、あき恵が信濃の前に出て、テツに切られるフリをする。
あき恵が仰向けに倒れ、
あ「岳夫兄ちゃん。私の分まで、幸せになっ…て」
あき恵が息絶えるふりをする。
新・安「あき恵ちゃーーん!!」
信「死んだら、あかんやん!」
あき恵が立ち上がる。
⑹
テツが信濃に襲いかかる練習のリスタート。
テツが指のナイフで信濃に刺し掛かり、信濃が返り討ちにする。
テツと安尾が逃げるフリをする。
あ「『大切な人』って、どういう意味ですか?」
信「それは、僕が君のことを好きという意味です!」
信「僕と付き合ってください!お願いします!」
あ「喜んで!」
信「ほんで、抱き合うんやな?」
すると、あき恵が信濃に抱きつく。
あ「もう、離したくない!」
あき恵が信濃を強く抱きしめ、離れようとしない。
信「あき恵ちゃん、ちょっと!」
信「痛い、痛い!」
信「二人(テツ・安尾)、助けて!」
テツと安尾は信濃を助けず、あき恵に一方的に抱かれる信濃を写メに収める
信濃はなんとか自力であき恵から離れる。
信「今、なんで写真を撮ったの!?」
新「思い出にしようかと…」
信「何の!?」
信「あき恵ちゃんもどうしたの!?」
あき恵は我に返り、虚しさが込み上げてきたのか、
あ「風に当たってくるわ…(涙)」
あき恵が店を走り去る。
⑺
テツがあき恵を心配する。
新「あき恵ちゃんを探してきます!」
テツが走って、あき恵を探しにいった。
安「俺も!」
安尾もあき恵が心配なようで、店を出ていった。
⑻
信濃は芝居で使う包丁を探しに、調理場に向かった。
その7に続く