⒋
⑴
テツ、一人。
新「花月の大将、どんな人なんやろな?」
テツがお茶を飲んで休憩しようと、ポットを探す。
新「ポット、あれへんな…」
⑵
そこに、全身白のシェフ姿(帽子は無し)で、前髪を上げた帯谷(帯谷孝史)が現れる。
帯「こんにちは」
テツは帯谷の声に気付き、帯谷を見る。
テツは帯谷に近づき、
新「ここにあるやんか」
と、帯谷の頭頂部を押す。
ここから、一通りのポット弄り。
帯「ポットちゃう!」
帯「一人(=自分)と一個(=ポット)や!」
ポットを持つテツがポットを傾けながら、謝る。
新「間違えて、すみませんでした!」
帯「二人で謝るな!」
テ「『二人』、言うた。(苦笑)」
⑶
信濃が休憩から戻ってくる。
信濃は帯谷を見て、
信「師匠!」
新「えっ?」
帯谷は『花月』の大将で、信濃の師匠だった。
⑷
帯谷が信濃に対し、
帯「弟子の教育、どないなっとんや!」
信「テツ、何したんや!?」
新「ポットと間違えてしまいました!」
信「師匠、アルバイトが失礼して、すみません!」
と、ポットに話し掛ける、信濃。
帯「こっちや!」
帯「お前も間違えとるやないか!」
帯谷と信濃は冗談が通じる仲のようで、帯谷は本気で怒っているわけではない様子。
⑸
信濃が帯谷に改めて挨拶する。
信「師匠。10年ぶりですね」
帯「店の調子はどうや?」
信「ええ、まあなんとか、やってます」
信濃が帯谷に用件を尋ねる。
信「遠くからわざわざ…用事っていうのは?」
帯「高校を卒業した娘が『店を継ぎたい』と言い出してな…」
帯「ただ、親元で修行させると甘えが出てしまう」
帯「一番弟子のお前の店なら、娘を安心して預けられると思ってな」
帯「娘を修行させてやってほしい。頼む!」
帯谷が弟子の信濃に頭を下げる。
信「師匠、頭を上げてください!」
信「喜んで、お引き受けします」
⑹
信「いつから、仕事を始めますか?」
帯「今日からお願いできるかな?」
帯「…実は、お前なら引き受けてくれると思ってな。娘をそこまで呼んでるんや」
信「久しぶりに会うなあ」
新「どんな子ですか?」
信「俺が弟子をしていた時は、まだ8歳やった」
信「小さくて、可愛かったな」
信「あれから、もう10年」
新「ほな、18歳ですね!」
信「えらい大人になってるんやろな」
⒌
⑴
帯谷が店先に呼びかけると
いかにも少女っぽい、甘い印象の服装を着た、
帯谷の娘・あき恵(浅香あき恵)が現れる。
あき恵は過剰に可愛い声を作り、
あ「岳夫兄ちゃん、久しぶり」
新「ブッサイクやなーっ!」
あ「オーマイガー!」
新「ほんまに18歳!?」
新「81歳の間違いでしょ?」
あ「失礼なこと言うな!こう見えても、高校卒業したばっかりや!」
あ「なめとったら、怒るでしかし!」
新「おっさんになってますよ!」
あ「今のはおっさんじゃなくて、やっさんよ!」
新「やっさんもおっさんですよ」
18歳とは思えない発言内容と喋り方のあき恵。
81歳はともかく、62歳位の言動に見える。
⑵
新名があき恵に自己紹介すると、あき恵はまた過剰に可愛い声を作り、
あ「18歳、あき恵です」
テツはあき恵に不快感を示し、
新「名前、聞きたない!」
⑶
(帯谷→あき恵→←新名←信濃、という立ち位置で)
新名はあき恵の顔を見て、
新「特技、気になります」
あ「ちょっと、何の話をしてるの?」
新「鼻から油を出す特技です」
あ「鼻から油を出す人なんか見たことありますか!?」
新「初めて見ました」
あ「何やの、もう!」
あき恵が怒り、顔を震わせると、
新「うわっ、油っ!()」
と、床に油が振り撒かれた体で、油を避けるように退く。
あ「油なんか出てないわよ!」
すると、新名が一歩前に出て、スベる。
次は信濃が下手くそにスベる。
あ「下手くそーっ!ちゅりんて行けよ!」
帯「お前ら、ええ加減にせえよ!」
と、あき恵が油を落とした(体の)床を素通りして、新名達に近づく。
新「こけへんのかい!」
あ「もう、酷い!」
あ「嫌~~~~ぁあ!!!!」
新「あっ、昼休みのサイレンや」
あ「違うわっ!」
上手袖通路に捌けようとする新名にバッグを投げつける。
新名は床に投げつけられたバッグを見て、
新「…入れ歯?()」
あ「なんでや!」
新名は恐る恐るバッグを触り、
新「ベトベトや!」
と、サイドキックであき恵の方にバッグを転がす。
あ「蹴るなーっ!」
⑷
信濃が弟子時代を懐かしむように、あき恵との再会を喜ぶ。
信「あき恵ちゃん、大きなったな」
信「一人くらい、彼氏でもできたんちゃうか?」
あ「バッ、バカね!?、彼氏なんて…!」
あき恵は動揺して、体を大袈裟に震わせる。
信「…ウンコしてんの?(苦笑)」
あ「乙女の恥じらいよ!」
帯谷が信濃に尋ねる。
帯「お前の方はどうや?」
信「相変わらず、彼女、できません」
帯「そうか、まだか」
⑸
帯「ほな、ワシ、帰るわ」
帯「あき恵、頑張れよ!」
帯谷が去っていった。
⑹
信「あき恵ちゃん。奥にエプロンがあるから、着けてくれる?」
あ「オツケー(=OK)!」
あき恵がエプロンを着けるため、舞台上手袖通路に消えた。
新「エゲツないオバハンやな…」
信「…(苦笑)」
その4に続く