⒋
⑴
誰もいないロビー。
舞台上手袖の通路から、芳伸が一人で現れる。
芳「どうしよう!?」
芳「姉ちゃん、乗り気やし、彼女おること言えへん」
⑵
そこに、烏川に追いかけられて客室通路に逃げた藍五郎が現れる。
藍「あれっ、食事は?」
芳「あっ…なんだか、お腹いっぱいで、席を外しました」
芳「あのさっきの話、聞いてませんよね?」
藍「何のことですか?」
芳「いえ、それやったらいいんです」
藍「さっきから、烏川の奴が『マイクチェックせえ』、うるさいんですわ。(苦笑)」
藍がカラオケの電源を入れ、マイクを持ち、マイクチェックする。
藍『芳伸さんに彼女がおるとはっ!』
芳「ちょっと!」
⑶
マイクの音を聞き、烏川が現れる。
烏「聞こえてもうたんで…」
烏川が芳伸に対し、
烏「芳伸君、そんな大事なこと、何で女将さんに言わへんの?」
芳「言いそびれたんです」
芳「…良くあるんですかね?」
藍「あります、あります」
藍「友達が食事していて、ネギが歯に挟まったんです」
藍「あっ、これ、高校の時の話です」
藍「言うてええんか、言わん方がええんか、悩むうちに、言いそびれたんです」
藍「だから、その友達、一日中、ネギが歯に挟まってて」
藍「それ以来、『ネギ挟まり』いうあだ名を付けられました」
藍「でも、『ネギ挟まり』って、言い難い。(苦笑)」
藍「俺やったら、『ネギ』って呼びますわ」
烏「何の話や!」
⑷
芳伸はまさか女性を紹介されるとは思っておらず、
彼女を靖子に紹介するため、呼んでいるらしい。
芳「彼女を迎えに行ってきます」
藍「彼女を迎えに行ったこと、女将さんに伝えときましょうか?」
芳「いえ、彼女のことは自分で言いますんで」
藍「分かりました」
芳伸が彼女を迎えに行った。
⑸
靖子と一の介が食事を中断して、ロビーにやってくる。
靖「芳伸、見なかった?」
藍「彼女を迎えに行きましたっ!」
あっさりと打ち明ける、藍五郎。
靖「何ですって!?」
烏「実は…」
⑹
そこに、真希と今別府が現れる。
烏川が真希と今別府に対し、
烏「あの、お二人。ちょっと、いいですか?(苦笑)」
烏「ほんまはここにおらなあかん人間が、奥で何をしていたんでしょうか?(苦笑)」
ミスをしっかり笑いに変えていく、烏川。
今「あの~、商談とか、色々…」
客「…」
烏「あんたが来てから、ずっと、こんなんや!(苦笑)」
⑺
烏川が靖子や真希に対し、
烏「正直に言います。芳伸君には彼女が居ます」
真「そんな…」
椅子に座り、落ち込む、真希。
藍五郎が真希の背後に回り、真希の肩から手を回し、まるで彼氏のように振る舞う。
藍「俺にしとけって」
真「絶対に嫌です」
藍「無理か…」
次の瞬間、真希にチョークスリーパーを仕掛ける、藍五郎。
⑻
靖子が真希に、
靖「一回、奥に行きましょう」
靖子・真希・一の介が舞台上手奥通路に消えていった。
⑼
藍五郎と烏川、二人。
藍「彼女のことばらした奴、何考えとんや!」
烏「お前や!」
烏「いらんこと、言うな!」
⑴
年配の女性、由美(末成由美)が現れる。
由「あの、お手洗いをお借りしたのですが…」
烏「奥にありますので、どうぞ

由美が舞台上手袖の通路に行き、手前で止まる。
一呼吸し吐息を漏らしてから、通路に消えていった。
烏「…ちびっとんな。(苦笑)」
⑵
藍五郎がカラオケ機器を宴会場に運ぼうと
カラオケ機器の方に行きかけて、立ち止まる。
烏「ちびったんか?(苦笑)」
藍「いえ。ズボンのお尻のとこが破れたかも…」
藍「烏川さん、ちょっと見てもらえませんか?」
烏川が藍五郎のお尻を覗くと、
『プー』
と、藍五郎が烏川の顔を目掛けて、オナラをする。

烏「くさっ!


藍五郎はマイクを持ち、
藍「もう一発、出そう!


と、マイクをお尻に当てる。
『(エコーの効いた→)プー』

烏「エコーを効かすな!


⑶
そこに、芳伸が戻ってくる。
芳「くさっ!


芳「オナラの臭いがしますよ!誰!?」
藍五郎が烏川を指差し、
藍「こいつです

烏「お前や!」
芳伸は彼女を迎えに行ったが、居なかったらしい。
⑷
靖子と一の介が奥から現れる。
靖「芳伸、聞いたわよ!…彼女って!」
靖「旅館のためにも、真希さんと結婚するのが一番なのよ!

一の介も芳伸に、
一「芳伸君のことを好きでいてくれて、あんなに綺麗な人は居ないと思うぞ」
芳「年齢的に…

靖「たった2歳の違いじゃない!」
芳「少し年上でも駄目なんや!」
⑸
由美がトイレから戻ってくる。
芳伸は由美を見て、
芳「由美ちゃん!

靖「芳伸の知り合い?」
芳「俺の彼女や!」

藍「彼女って、めっちゃ年上じゃないですか!」
芳「めっちゃ年上じゃないと駄目なんです!」
藍五郎が由美に尋ねる。
藍「…あの、何歳ですか?」
由「75歳です」
藍「芳伸さんは?」
芳「25歳です」
藍「半世紀やん!(苦笑)」

⑹
靖子が芳伸で尋ねる。
靖「由美さんとどこで出会ったの?」
芳「駅のホームで」
藍「老人ホームやろ!


靖「本当に幸せなの?」
芳「幸せしかない!」
藍「シワしかないやろ!


芳「由美ちゃんと、結婚式を挙げたいんや!」
藍「結婚式挙げても、直ぐ葬式やって!


芳「姉ちゃん、由美ちゃんとの結婚、認めてくれ!」
靖「何を言ってるのよ!」
靖子が立ちくらみする。
芳「姉ちゃん!

藍「靖子さん!

藍五郎が咄嗟に靖子のもとに駆け寄る。
…が藍五郎は靖子の小さな体を支えようとせず、一定距離を取り、
靖子はそのまま床に倒れてしまう。
烏「支えたれよっ!

暗転。
その5に続く