⒐
⑴
おしみさん・浅香・安尾、三人。
浅「…きっと、偶然よ」
浅「施設の話なんて、幾らでもあるわ」
自分に言い聞かせるように話す浅香だが、立ち眩みしてしまう。
清「社長、大丈夫ですか!?」
清「椅子に座ってください」
浅香が客用の丸椅子に座ろうとすると、
安尾が椅子を除け、浅香が派手に転ぶ。
浅「何するのよ!?スカートの中が(観客に)丸見えになったじゃないの!」
おしみさんは安尾ではなく、浅香に対し、
清「迷惑だから、やめてください」
⑵
清「安尾さん、社長にお茶を入れてくれますか?」
安尾がお茶を入れようとする。
急須はあるが、ポットが見つからず、おしみさんが奥にポットを探しに行く。
⑶
そこに、白スーツのサングラス姿の男性・帯谷(帯谷孝史)がやってくる。
安「ポット、あった!」
帯谷の頭を触る、安穏。
おしみさんが本物のポットを見つけ、安尾に渡す。
ここからは、安尾による一連のポットくだり。
浅香は娘と思われる靖子のことでショックを受け、俯いており、
ポット弄りを見ていないだけでなく、帯谷が現れたことにも気づいていない様子。
⑷
帯谷が浅香の存在に気付く。
帯「ひょっとして、あき恵さん?」
帯谷の声を聞き、浅香が顔を上げる。
浅「園長さん!」
帯谷は、浅香が25年前に娘を預けた児童養護施設『希望ハウス』の園長だった。
浅「娘を迎えに行った時以来だから…20年ぶりかしら」
帯「お久しぶりです」
⑸
帯谷は、25年前に一時的に預かった子供の結婚式に参列するため、
花月殿を訪れたと言う。
そこに、控え室から靖子が現れる。
靖子は帯谷を見て、
靖「園長先生、お待ちしておりました!」
靖子と帯谷が控え室に向かった。
⑴
おしみさん・浅香・安尾、三人に。
おしみさんが浅香に対し、
清「やっぱり、間違いないですよ!」
清「靖子さんは、社長の娘さんです!」
浅「まさか、こんなことが…」
安尾が浅香に対し、
安「社長。実の母親だと、靖子さんに言いに行きましょう!」
浅「今更、のこのこ出て行って、言えるわけがないでしょ!」
清「靖子さんは25年間、お守りを大切に持っていました」
清「きっと、本当のお母さんに会いたいはずです!」
清「結婚式場の人間ではなく、母親として、おめでとうを言ってあげましょう」
浅「無理よ…」
安「最初に、僕が靖子さんと話して、ムードを作ります」
安「タイミングを見計らって、『今や!』と言いますので、話してください」
浅「…分かったわ」
⑵
安尾が靖子を呼び、靖子が現れる。
靖「何でしょうか?」
安「ちょっと、お話が…」
靖子を丸椅子に座らせる。
浅香は靖子に背を向け、舞台下手で話を聞く。
安「靖子さん。もしも、結婚式にお母さんが現れたら、どうですか?」
靖「そんな、何もしてもらってないですし」
靖「捨てられて、とっても貧しい思いをしました」
靖「私の前に現れたら、ボコボコに殴って、殺しますよ」
安「…」
安「今や!」
浅「…!」
⑶
靖子も長年の思いがあるようで、安尾に更に語る。
靖「私を捨てた人に、私の結婚を邪魔をされたくありません」
浅香が靖子に語りかける。
浅「靖子さん。今回の結婚、あなたにとって、幸せなものなの?」
靖「…(涙)」
靖子が泣きながら、控え室に走り去ってしまった。