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⑴
セミの音のする季節。
作業服を脱ぎ、半袖になった浩太と陽子が長椅子に隣り合って座り、
ノートPCの画面と格闘している。
今まで和也がしていた仕事を二人が引き継いでいる様子。
浩太「これでええかな?」
陽子「うーん、いいと思うわよ?」
自信が無さそうな、浩太と陽子。
⑵
古賀達、従業員が作業場から休憩に来る。
古賀「休憩や!」
陽子がお茶を汲みに、奥の部屋に行く。
古賀「…専務が亡くなって、3ヶ月か。寂しいな」
哲郎「専務が居ないと仕事が捗らん」
涼介「浩太が仕事を引き継いでくれているけど…」
浩太「苦戦しています!」
涼介「まさか、あんなことになるとは…
」
浩太「陽子さん、辛いやろうな…
」
古賀「辛いのは、結衣ちゃんや」
古賀「まさか、犯行現場を見てしまうとはな…」
階段の下から二階を見る。
陽子がお茶を持ち、奥から現れるが、古賀と陽子の間に他の従業員が居て、
古賀は陽子の存在に気付いていない。
古賀「結衣ちゃん、強いショックで、その時の記憶を全部失くしてしもうた
」
涼介達は陽子に気付き、古賀に目配せする。
古賀が陽子に気づき、
古賀「あっ
…すみません
」
陽子「結衣には、絶対に思い出させたくないんです」
哲郎「もう一人、可哀想なのは、源造さんや
」
裏返しで壁にもたれ掛けられた額縁を哲郎が持ち、裏返すと、
変顔をした源造の遺影が現れる。
(客席の驚きと笑いの声が混じる![]()
)
古賀「もうちょっと、ましな写真、無かったんか?(苦笑)」
浩太「部屋の整理をしたんですが、同じ顔の写真しかなくて。(苦笑)」 ![]()
陽子「担当の刑事さんが言っていたわ。犯人が撃った弾は二発…」
陽子「窓に当たった一発目の流れ弾が源造さんに当たってしまった」
哲郎「源造さん、ついてない」
哲郎「お孫さんの墓参りの帰りに、工場の前で撃たれるとは
」
涼介「寂しくなりましたね
」
陽子「もう~。和也さんと源造さんの百か日法要は終わったのよ?」
古賀が陽子を見て、
古賀「すみません、一番、辛いのは陽子さんなのに」
陽子「悲しむのはこれで終わり!」
陽子「みんな、元気出して
」
⑶
沙月が入り口から現れる。
夏になり、仕事用のジャンパーを脱いでいる。
沙月「おはよう、みんな!」
沙月「今日から新人が入るから、明るく迎えてあげてね
」
沙月「入ってきて~!」
和也が辻本茂造として工場に戻ってきた。
沙月「今日から住み込みで働いてもらう…」
和也は一歩前に出て、皆に聞こえない小さな声で、
和也「戻って来られた…
」
感慨深く、工場を見つめる。
沙月「どうしたの?自己紹介して」
※ここからは、『茂造の身体を借りた和也』を『茂造』表記します。
茂造「辻本茂造です」
茂造「今日から共に働き、共に生活し…(涙)」
陽子「…大丈夫?」
茂造「すみません、働けると思うと、感極まってしまいました。(涙)」
茂造「よろしくお願いします!」
皆が「よろしく!」
⑷
沙月「私達も自己紹介するわね!」
沙月「改めまして、私が社長の…」
沙月達が自己紹介する前に茂造が喋り始める。
茂造「原田沙月…」
茂造「未だ独身」
皆が驚いた顔をする。
茂造「古賀雅彦…」
茂造「創業時から居る勤続30周年のベテラン」
茂造「南郷哲郎…」
茂造「力仕事が得意」
茂造「哲郎さんの過去は誰も知らない」
茂造「香芝涼介…」
茂造「元プロバスケ選手」
茂造「落合浩太…」
茂造「リストラされて、職に困っていたところを専務に助けてもらった」
茂造「伊藤陽子…」
茂造「結衣という可愛い娘を授かり、夫の和也を愛していた」
茂造「愛していた…(泣)」
バッグを落とす、茂造。
⑸
沙月「どうして、知ってるの?」
茂造「…えっ?あっ、あの~、一緒に働く人を事前に調べました
」
茂造「A型なんで
」
浩太「みんなのことを調べるって、気持ち悪い。(苦笑)」
浩太にバッグを当て、怒る、茂造![]()
陽子「浩太君、失礼よ!」
陽子「それだけ、仕事に前向きなのよ」
と、陽子は浩太の手を両手で握る。
その瞬間、浩太は決心し、
浩太「陽子ちゃん!」
陽子が驚いた顔で浩太を見る。
浩太「百か日法要が終わったら、告白しようと思っていました!」
浩太「陽子ちゃんのことが大好きです!」
古賀「何を言うてんのや!」
茂造「何を言うてんのや!
」
浩太のお尻を蹴る、茂造。
哲郎「専務を裏切るつもりか!」
茂造「裏切るつもりか!
」
古賀「弟のように可愛いがってもらったのに!」
茂造「可愛いがってもらったのに!
」
浩太「新人、関係ないやろ!
」
浩太「専務には…」
浩太のお尻を蹴る、茂造![]()
浩太「痛っ!
」
浩太「専務には感…」
浩太のお尻を蹴る、茂造![]()
浩太「痛っ!
」
浩太「専務には感謝しています!」
茂造「ほんまか!?」
浩太「でも、陽子ちゃんのことがずっと好きでした!」
浩太「陽子ちゃんが結婚していても、娘さんが居ても、ただ側に居るだけで幸せでした」
涼介「お前なあ、百か日法要が終わったばかりやないか」
浩太「百か日法要の意味をご存知ですか!?」
浩太「百か日法要は、死後、百日目の法要…」
浩太「またの名を『卒哭忌』とも言います!」
浩太「『卒』はやめること」
浩太「『哭』は故人を思い、声を上げて泣き悲しむこと」
浩太「つまり、悲しみ泣きくれることを止める日なんです!」
浩太「陽子ちゃん!もう悲しむのは終わりにして、前を向きましょう!」
浩太「僕が陽子ちゃんと結衣ちゃんを守ります!」
浩太「結婚を前提にお付き合いお願いします!」
茂造「付き合うわけないやん
」
陽子「付き合います
」
茂造「えーーーっ!
」
茂造「何でーっ!何で、そんな簡単に付き合えるの?
」
陽子「浩太君なら、私を大切にしてくれると思って
」
茂造「なんで、そんなん分かるん?」
陽子「実は私、学生時代に浩太君とお付き合いしていました」
茂造「初耳や~!
」
茂造が浩太に尋ねる。
茂造「ほんまか?」
浩太「本当です」
ショックを受ける、茂造。
茂造「どういう関係やったん!?A?、B?、C?
」
浩太「…C~
」
その瞬間、茂造が浩太を殴る![]()
倒れた浩太を更に殴る茂造。
哲郎が茂造を背後から押さえ、浩太から引き離す。
引き離され、なお、かかとで蹴ろうとする、茂造
。 ![]()
⑹
沙月「陽子が浩太君を頼る気持ち、分かるわ
」
沙月「一人で過ごす時間って、孤独で不安なものなのよ」
沙月「相手が居ることで、心が安らいで、前を向けるの」
沙月「…私もそうだった」
陽子「…『そうだった』って、どういうこと?」
沙月「原田沙月、遂に彼氏ができました!
」
全員「奇跡が起きた!!
」
沙月「どこまで言うのよ!
」
沙月「そりゃ、こんな時期だし言いにくかったわよ?」
沙月「結婚するかもしれないの
」
全員「えーーーーー!!
」
沙月が「えー」に合わせて、奇妙な踊りをし、
指揮者のように、「えー」を止める。 ![]()
沙月「この後もデートなの
」
⑺
結衣が学校から戻ってくる。
結衣「ただいま
」
茂造が結衣のもとに駆け寄り、
茂造「結衣、おかえり~!
」
茂造「転んで、怪我してへんか!?
」
茂造「学校でいじめられてへんか!?
」
茂造「変な人に付けられてへんか!?
」
哲郎「あんた、専務の口癖まで調べたんか
」
結衣「おじさん、誰?」
茂造「…おじさん、やな。(苦笑)」
氏造「おじさんは、今日からここで働く、『辻本茂造』って言います
」
結衣「初めまして。結衣です
」
茂造「初めまして
」
⑻
茂造を突き飛ばし、結衣の前に立つ、浩太。
浩太「結衣ちゃん。お母さんと結婚前提で付き合うことになったんや」
結衣「お母さん、ほんま?」
陽子「ほんまよ
」
浩太「だから、これからは僕のこと、お父さんって呼んでほしい」
茂造「呼ぶわけないやん
」
結衣「お父さん
」
茂造「呼んだーっ!!
」
茂造「帰ってきて早々、こんなにショックを受けるとはーっ!!
」
涼介「大丈夫か?、このおっさん
」
古賀「病気やな
」
⑼
陽子が結衣に対し、
陽子「おやつを用意したから、手を洗ってきなさい」
結衣が手を洗いに、奥の部屋に消える。
その10に続く