セミの音のする季節。

作業服を脱ぎ、半袖になった浩太と陽子が長椅子に隣り合って座り、
ノートPCの画面と格闘している。

今まで和也がしていた仕事を二人が引き継いでいる様子。

浩太「これでええかな?」
陽子「うーん、いいと思うわよ?」
自信が無さそうな、浩太と陽子。


古賀達、従業員が作業場から休憩に来る。
古賀「休憩や!」

陽子がお茶を汲みに、奥の部屋に行く。

古賀「…専務が亡くなって、3ヶ月か。寂しいな」

哲郎「専務が居ないと仕事が捗らん」
涼介「浩太が仕事を引き継いでくれているけど…」
浩太「苦戦しています!」

涼介「まさか、あんなことになるとは…
ショボーン
浩太「陽子さん、辛いやろうな…
ショボーン

古賀「辛いのは、結衣ちゃんや」
古賀「まさか、犯行現場を見てしまうとはな…」
階段の下から二階を見る。

陽子がお茶を持ち、奥から現れるが、古賀と陽子の間に他の従業員が居て、
古賀は陽子の存在に気付いていない。

古賀「結衣ちゃん、強いショックで、その時の記憶を全部失くしてしもうた
ショボーン
涼介達は陽子に気付き、古賀に目配せする。
古賀が陽子に気づき、
古賀「あっ
アセアセ…すみませんショボーン
陽子「結衣には、絶対に思い出させたくないんです


哲郎「もう一人、可哀想なのは、源造さんや
ショボーン
裏返しで壁にもたれ掛けられた額縁を哲郎が持ち、裏返すと、
変顔をした源造の遺影が現れる。

(客席の驚きと笑いの声が混じる
びっくり笑い泣き)

古賀「もうちょっと、ましな写真、無かったんか?(苦笑)」
浩太「部屋の整理をしたんですが、同じ顔の写真しかなくて。(苦笑)」
笑い泣き

陽子「担当の刑事さんが言っていたわ。犯人が撃った弾は二発…」
陽子「窓に当たった一発目の流れ弾が源造さんに当たってしまった」
哲郎「源造さん、ついてない」
哲郎「お孫さんの墓参りの帰りに、工場の前で撃たれるとは
ショボーン

涼介「寂しくなりましたね
ショボーン
陽子「もう~。和也さんと源造さんの百か日法要は終わったのよ?」
古賀が陽子を見て、
古賀「すみません、一番、辛いのは陽子さんなのに」

陽子「悲しむのはこれで終わり!」
陽子「みんな、元気出して
ウインク


沙月が入り口から現れる。
夏になり、仕事用のジャンパーを脱いでいる。

沙月「おはよう、みんな!」
沙月「今日から新人が入るから、明るく迎えてあげてね
ウインク

沙月「入ってきて~!」
和也が辻本茂造として工場に戻ってきた。

沙月「今日から住み込みで働いてもらう…」

和也は一歩前に出て、皆に聞こえない小さな声で、
和也「戻って来られた…
おねがい
感慨深く、工場を見つめる。

沙月「どうしたの?自己紹介して」

※ここからは、『茂造の身体を借りた和也』を『茂造』表記します。

茂造「辻本茂造です」
茂造「今日から共に働き、共に生活し…(涙)」
陽子「…大丈夫?」
茂造「すみません、働けると思うと、感極まってしまいました。(涙)」

茂造「よろしくお願いします!」
皆が「よろしく!」


沙月「私達も自己紹介するわね!」

沙月「改めまして、私が社長の…」
沙月達が自己紹介する前に茂造が喋り始める。
茂造「原田沙月…」
茂造「未だ独身」

皆が驚いた顔をする。

茂造「古賀雅彦…」
茂造「創業時から居る勤続30周年のベテラン」

茂造「南郷哲郎…」
茂造「力仕事が得意」
茂造「哲郎さんの過去は誰も知らない」

茂造「香芝涼介…」
茂造「元プロバスケ選手」

茂造「落合浩太…」
茂造「リストラされて、職に困っていたところを専務に助けてもらった」

茂造「伊藤陽子…」
茂造「結衣という可愛い娘を授かり、夫の和也を愛していた」
茂造「愛していた…(泣)」
バッグを落とす、茂造。


沙月「どうして、知ってるの?」
茂造「…えっ?あっ、あの~、一緒に働く人を事前に調べました
アセアセ
茂造「A型なんで
アセアセ
浩太「みんなのことを調べるって、気持ち悪い。(苦笑)」
浩太にバッグを当て、怒る、茂造
プンプン

陽子「浩太君、失礼よ!」
陽子「それだけ、仕事に前向きなのよ」
と、陽子は浩太の手を両手で握る。

その瞬間、浩太は決心し、
浩太「陽子ちゃん!」
陽子が驚いた顔で浩太を見る。

浩太「百か日法要が終わったら、告白しようと思っていました!」
浩太「陽子ちゃんのことが大好きです!」

古賀「何を言うてんのや!」
茂造「何を言うてんのや!
プンプン
浩太のお尻を蹴る、茂造。

哲郎「専務を裏切るつもりか!」
茂造「裏切るつもりか!
プンプン

古賀「弟のように可愛いがってもらったのに!」
茂造「可愛いがってもらったのに!
プンプン
浩太「新人、関係ないやろ!
プンプン

 

浩太「専務には…」

浩太のお尻を蹴る、茂造プンプン

浩太「痛っ!アセアセ

 

浩太「専務には感…」

浩太のお尻を蹴る、茂造プンプン

浩太「痛っ!アセアセ

浩太「専務には感謝しています!」
茂造「ほんまか!?」
浩太「でも、陽子ちゃんのことがずっと好きでした!」
浩太「陽子ちゃんが結婚していても、娘さんが居ても、ただ側に居るだけで幸せでした」

涼介「お前なあ、百か日法要が終わったばかりやないか」
浩太「百か日法要の意味をご存知ですか!?」
浩太「百か日法要は、死後、百日目の法要…」
浩太「またの名を『卒哭忌』とも言います!」
浩太「『卒』はやめること」

浩太「『哭』は故人を思い、声を上げて泣き悲しむこと」
浩太「つまり、悲しみ泣きくれることを止める日なんです!」

浩太「陽子ちゃん!もう悲しむのは終わりにして、前を向きましょう!」
浩太「僕が陽子ちゃんと結衣ちゃんを守ります!」
浩太「結婚を前提にお付き合いお願いします!」

茂造「付き合うわけないやん
えー

陽子「付き合います
おねがい
茂造「えーーーっ!
ガーン


茂造「何でーっ!何で、そんな簡単に付き合えるの?ガーン
陽子「浩太君なら、私を大切にしてくれると思って
照れ
茂造「なんで、そんなん分かるん?」
陽子「実は私、学生時代に浩太君とお付き合いしていました」
茂造「初耳や~!
ガーン


茂造が浩太に尋ねる。
茂造「ほんまか?」
浩太「本当です」
ショックを受ける、茂造。

茂造「どういう関係やったん!?A?、B?、C?
アセアセ
浩太「…C~
キョロキョロ
その瞬間、茂造が浩太を殴る
ムキー
倒れた浩太を更に殴る茂造。


哲郎が茂造を背後から押さえ、浩太から引き離す。

引き離され、なお、かかとで蹴ろうとする、茂造ムキー笑い泣き


沙月「陽子が浩太君を頼る気持ち、分かるわ
おねがい
沙月「一人で過ごす時間って、孤独で不安なものなのよ」
沙月「相手が居ることで、心が安らいで、前を向けるの」
沙月「…私もそうだった」
陽子「…『そうだった』って、どういうこと?」

沙月「原田沙月、遂に彼氏ができました!
チュー
全員「奇跡が起きた!!
びっくり
沙月「どこまで言うのよ!
タラー

沙月「そりゃ、こんな時期だし言いにくかったわよ?」

沙月「結婚するかもしれないの
おねがい
全員「えーーーーー!!
びっくり
沙月が「えー」に合わせて、奇妙な踊りをし、
指揮者のように、「えー」を止める。
笑い泣き

沙月「この後もデートなのおねがい


結衣が学校から戻ってくる。
結衣「ただいま
ニコニコ


茂造が結衣のもとに駆け寄り、
茂造「結衣、おかえり~!
おねがい
茂造「転んで、怪我してへんか!?
アセアセ
茂造「学校でいじめられてへんか!?
アセアセ
茂造「変な人に付けられてへんか!?
アセアセ

哲郎「あんた、専務の口癖まで調べたんか
タラー

結衣「おじさん、誰?」
茂造「…おじさん、やな。(苦笑)」
氏造「おじさんは、今日からここで働く、『辻本茂造』って言います
照れ
結衣「初めまして。結衣です
ニコニコ
茂造「初めまして
照れ


茂造を突き飛ばし、結衣の前に立つ、浩太。
浩太「結衣ちゃん。お母さんと結婚前提で付き合うことになったんや」
結衣「お母さん、ほんま?」
陽子「ほんまよ
ウインク
浩太「だから、これからは僕のこと、お父さんって呼んでほしい」

茂造「呼ぶわけないやん
えー

結衣「お父さん
ニコニコ

茂造「呼んだーっ!!
ガーン
茂造「帰ってきて早々、こんなにショックを受けるとはーっ!!
ガーン

涼介「大丈夫か?、このおっさんタラー
古賀「病気やなタラー


陽子が結衣に対し、
陽子「おやつを用意したから、手を洗ってきなさい」
結衣が手を洗いに、奥の部屋に消える。

 

 

その10に続く