⒊
⑴
隣のクリーニング店の真希(前田真希)が休憩にやってくる。
真「けんじさん、こんにちは」
清「おお、真希ちゃん。いらっしゃい」
真希は安尾とは面識が無く、けんじに尋ねる。
真「そちらの方は?」
清「最近入った、安尾っていうアルバイトなんや」
清「お茶を出すから、座って」
⑵
クリーニング店から、花子(山田花子)も休憩にやってくる。
花「大将、こんにちは」
清「おっ、姉妹揃って休憩?」
清「花ちゃんも座って」
花子と真希は姉妹で、花子が姉のよう。
テーブルを挟んで、二人が座る。
⑶
安尾が二人の間に立ち、
安「何という、神様のいたずら!」
安「生きていたら、良い事がある」
安「だから、頑張って!」
と言い、真希の方を見る。
清「そっち!?(苦笑)」
安「歯が出てるから」
清「確かに、『すんのかい、せんのかい』みたいな空気、出てるけど」
真「…?」
清「でも、歯出てるのは、どっちか言うたら、花ちゃんの方や!(苦笑)」
⑷
真希がけんじに対し、
真「けんじさん、今日もお店が忙しそうね」
清「おかげさまで…」
真「定休日も無しに、朝から晩まで働いてるわね」
清「何とかなってるのも、家内のお陰や」
真「奥様は?」
清「今、買い物に行ってるわ」
⑸
けんじの妻の靖子(高橋靖子)がスーパーのビニール袋を提げ、戻ってくる。
靖「ただいま」
清「靖子、お帰り」
靖「今日は、あなたの好きな『すき焼き』にするわね」
清「おー、楽しみやな」
靖「亜依はもう戻ってきた?」
清「それが、まだなんや」
清「中学校、とっくに終わってる時間やのに、何してるんやろ?」
⑴
中学校の制服を聞いた亜依(葛原亜依)が戻ってくる。
清「亜依、お帰り」
亜「…」
亜依は不機嫌そうな表情で返事をしない。
靖「亜依、『ただいま』は?」
真「亜依ちゃん、『ただいま』は大事よ」
花「『ただいま』って、言おうね」
膨れっ面をする、亜依。
安「亜依ちゃん、『た…」
けんじは、安尾の言葉に被せるように、亜依に対し、
清「お腹、空いたやろ?」
安「僕にも『ただいま』くらい言わせて…」
大袈裟に膨れっ面をする、安尾。
清「お前がやっても、全然、可愛いない。(苦笑)」
⑵
改めて、けんじが亜依に対し
清「お腹、空いたやろ?」
清「うどん、作ったろか?」
亜依は不機嫌そうな表情のままで、返事をしない。
花「はっきりと、『ここのうどん、不味い』って、言い」
安「『ここのうどん食べたら、地味になるから』って、言い」
清「黙れ、お前ら!」
清「亜依、お母さんから聞いたけど、今日、すき焼きやって」
清「楽しみやなあ」
亜「…」
靖「亜依、学校で何かあったの?」
亜依は何も言わず、奥の部屋に向かった。
⑶
気不味い雰囲気になる、店内。
清「物心がついてきてから、あんな感じで」
清「…少しずつ、慣れていくと思うんやけど」
安「知らんかった!…大将、すき焼きが好きとは!」
花「大将は海辺で育って、毎日魚を食べてたから、魚は懲り懲りなのね」
清「お前ら、何を言うとんや。(苦笑)」
清「もっと気になるところがあったでしょ?」
靖子が事情を説明する。
靖「亜依は私の連れ子なんです」
安「バツイチ!」
清「そういう言い方、やめろ」
靖「…前の夫、亜依の父親は、事故で亡くなってしまったんです」
靖「日曜日は毎日、亜依と遊ぶような父親で、亜依も懐いていたもので…」
安「…」
安「なるほど~…それで、赤トンボは居ないんですね」
清「話、聞いてた?」
安「あっ、それで、大将に懐いてないんですね」
⑷
清「本当の父親が居てない…亜依の気持ち、分からんでもないんや」
清「なんとか、距離を縮められたらええんやけどね」
清「ええ方法、ないかな…」
安尾が両手を叩き、
安「ええ方法、思い付いた!…ら、良かったのに」
清「何も思い付いてないの?」
安「思い付いてないですっ!」
清「ほな、なんで、手、叩いたん?」
真「焦らず、ゆっくり頑張るしかないわね」
⑸
靖子の表情も幾分暗く、けんじが気遣う。
清「座って、休んどき」
安「よいしょっと!」
けんじの背後に居る、安尾が座る。
清「お前に言うてない!仕事しろ!」
清「雰囲気見たら、誰に言うたか分かるやん!?」
清「お前と目、合わせた?」
安「あっ」
安尾が椅子から立つ。
⑹
靖子・真希・花子に対し、
清「今、お茶を汲むね」
けんじがカウンターに向かう。
⑴
けんじがお茶を入れようとポットを探すが、見つからない。
そこに、白スーツでサングラスを掛けた、
借金取り風の男・帯谷(帯谷孝史)が現れる。
清「あった、あった」
と、帯谷の方に向かう。
けんじは帯谷の頭頂部を押し、
清「あれ、お湯、出えへんな?」
頭頂部を見て、
清「止まるになっとるわ」
安尾がカウンターの奥の調理場にあったポットを持ってきて、
けんじに渡す。
ここから、一連のポットくだり。
⑵
帯「ワシ、ポットちゃいまんねん!」
帯「借金の取り立てに来たんや」
清「借金!?誰ですか?」
帯「花子!今日こそ、50万、返してもらうぞ!」
真「お姉ちゃん、こんなところからお金を借りるなんて…」
花「手術に必要やったの」
真「家族やのに、何でそんな大事なこと、言うてくれんかったの!?」
花「心配させたくなかったから…」
清「花ちゃん、手術って、何の手術?」
花「鼻の手術。高くしてみた」
清「高くして、それ?…アホみたいな顔、してるやん。(苦笑)」
⑶
花子が帯谷に対し、
花「少しだけ、待ってください!」
帯「しゃあないの!少し、待ったるわ」
帯「次来る時までに用意しとけよ」
帯谷が去って行った。
⑷
真希が心配する。
真「お姉ちゃん、50万もどうするのよ!」
花「アテはあるから」
花「…パチンコ行って来るわ」
花子が走って行った。
清「パチンコに注ぎ込む金で返せ!」
清「花ちゃんは、ほんまに…」