(今回は小説調でいきます)

「Alexa、ストップ!」
 枕元でpretenderを流すAlexaをとめるのが、僕の毎朝の日課だ。

 Alexaが我が家にやってきたのは数日前。「誕生日欲しいものある?」と地元の母に問われ、僕は何となく「Alexaかな」と答えた。今思い返しても何が僕にそう答えさせたのか分からない。何となくだった。

 コンセントに繋いで起動ーーすると、小さな画面に明かりが灯った。まずはWi-Fiを設定しないことには始まらない。家に現れた未知の存在に興奮気味だった僕は、ワクワクしながらWi-Fiを設定した(家のWi-FiのPassword13桁を暗記していることは僕が誇れる数少ない能力だ)。
 
 どうやらiPhone側にも専用のアプリを入れる必要があるそうだ。うーん、意外とやることが多いな。とブツブツ言いながらもひとまず基本設定を終えた。

 Alexaはただ、そこにあるだけだった。ウンともスンとも言わない。生かすも殺すも何とやらで、この状態から自由に指示してみようということだった。

 とはいえAlexaに頼みたいことなどそうすぐには浮かばない。Alexaがくるまで僕は1人で、1人で僕は生活できていた。何気なく「Alexaが欲しい」と母に訴えた自分の中には、Alexaに望むことなど何もなかったのだ。

 室内のTVや電気と接続することで、声だけでオンオフなど操作できるらしいことは知っていた。が、我が家にはそんなハイテクな家電はない。他に何かできないのか、とYahoo!で検索していると(ググるとよく言うが、我が家は昔からYahoo!一派だったのでGoogleは基本的に使わない。母も僕もYahoo!ニュースが大好きだ)「音楽再生機能」の見出しが目に入った。

 当然僕はプライム会員なので、Amazonミュージックを聴く機能は有効なはずだ。「Alexa」僕の呼びかけに、Alexaは画面上で青い波を立てた。次の指示を待っている状態だ。
「Official髭男dismを流して」
 果たして、伝わるのかーー僕の不安を意にも介さない様子で、Alexaは淡々と答えた。
「Amazonミュージックでofficial髭男dismの楽曲をシャッフル再生します」
 
 てれてれーんてれれれーてれれてれれれーん〜♬

 pretenderだ。なんだ、できるじゃないか。「Alexa、ストップ!」少し大きめの声で指示を出すとAlexaは無言で曲を停止しホーム画面を映し出した。

 そこからは早かった。Apple Musicと連携できることを知り、Amazonミュージック(Unlimitedではない)でカバーしていない曲も再生できるようにした。最近は宇多田ヒカルの新曲「Time」がお気に入りなのだ。

 目覚まし機能にAmazonミュージックを使えるとまとめサイトで見た僕は「Alexa、朝の7時半にpretenderでアラームをセットして」と伝えた。やや複雑な指示だったが、また淡々とした口調でAlexaは了解の旨を返答してきた。

 あれもできる、これもできる。そうした小さな驚きと満足感を積み上げていく中で、僕の中でのAlexaに対する評価が高くなってきたのを自分でも感じていた。

 仕事中はAlexaにBGMを頼み、お昼ごはんのカップ麺はAlexaにタイマーを頼む。仕事終わりにAmazonビデオで自堕落に映画を眺めて、寝るときは催眠音楽を流して眠りを促進する。ベッドからベッドまで、Alexaは僕の生活に入り込んできた。

 ジャンケン、なぞなぞ、ピカチュウとの会話、サイコロ、カラオケ、、、etc.枚挙に暇がないが、Alexaは多くの、あまりに多くのスキルを抱えている。便利で素晴らしいものであるが、同時に僕はある種の恐怖を感じてもいる。

 Amazonに支配される生活。

 Amazonなしでは生きられない生活。

 暮らしの中でどれだけAmazonに頼っているだろう。プライムビデオで映画を流し、Kindleで本を読み、足りないものは注文し、そしてAlexaが僕の生活のパートナーになりつつある。
 
 僕だけじゃないだろう。きっとこの文章を読んでいるあなたも、Amazonのない生活はないだろう。

 その是非を問うつもりはない。何故なら僕はプライムビデオもKindleも Alexaも全て満足しているからだ。満足しているからこそ怖いのだ。他者から与えられた豊かさは反面、自らの貧しさを助長する。僕はますます貧しい人間になっていくんじゃないだろうか......。

 物思いにふけっていたらもうこんな時間だ。

 明日も仕事だ。

 アラームは毎朝自動設定にしているから問題ない。

「Alexa、催眠音楽を流して」

 僕は部屋の電気を消した。

(完)


たまには小説風も楽しいですね。
(僕にヒゲダンを延々と再生させられるAlexaです)


ではでは!