観た。観客が多くてびっくり。アカデミー賞のおかげ?作品賞でもないのに?前評判の高い音?音響?そんなに効果的だった?庭の緑と空の青色が、舞台の書割みたいで、「こんな生活、インチキだ!」というメッセージと受け取った。


さて、本作は、英国人作家サー・マーティン・エイミスが書いた原作 ”The Zone of Interest” を映画化したもの。"The Zone of Interest" は、ドイツ語では "Interessengebiet" と言われるようだが、原作は英語で書かれており、映画のタイトルもそれを踏襲している。


"Point of Interest" (POI) は SatNav で、"Region of Interest" (ROI) は画像処理で、よく使われるが、"Zone of Interest" (ZOI) は初めて聞いた。エンジニアが「関心領域」と聞いたら、ROIを思い浮かべるだろう。


この映画、アウシュビッツ強制収容所の所長だった、ルドルフ・ヘース (Rudolf Höß) 一家の生活を描いたもの。冒頭、川辺で遊んだ家族が車で帰宅する。車のナンバープレートは "SS" で始まる。その家族の主が親衛隊の幹部であることが判る。


その後、ヘースは子どもたちと川で遊ぶ際にも、胸に "SS" と書かれたシャツを着ている。自分が所属する組織に従順であると同時に、その組織、すなわち、SS の一員であることを誇りに思っていることの証だ。よって、自分がしていることに、何ら罪悪感を持っていない。


ヘースの手記を読むと分かるが、彼は狂人でも残忍でもなんでもない。ただただ真面目な人間である。組織に逆らうような人ではない。この訳本(↓)、50年以上前に訳されたものだったと思うが、恐ろしく読みやすい。

 今で言う「社畜」どもも似たようなものだ。かつては、社章を、誇らしげにジャケットのフラワーホールに付けている奴を、よく見かけた。"SS" マークと同じだ。


でもそういう連中こそ、上に行く。彼らは必ずしも上に行きたいわけではないのだと思う。ただ従順で、上からすれば、馬鹿で扱い易い。


一家が暮らす家と壁一枚隔てた向こう側は、アウシュビッツ(第一?)強制収容所である。そこで日夜大量虐殺が行われている。ホントに自宅の庭のすぐ向こう側が収容所。もうちょっと距離が離れているのかと思った。


ヘースの妻はそこでの生活がお気に入りだった。彼女が異常だとは思わない。当時の感覚からすれば、目の前の焼却炉で何万人ものユダヤ人が焼かれようが、なんとも思わなかっただろう。事業が成功していたユダヤ人に対して妬みもあっただろうから、彼らの金品を奪うことにも抵抗はなかったと思う。


富をめぐる争いは昔も今も将来もずっと続くし、他民族への嫌悪感も無くならない。多くの日本人が半島や大陸の人を毛嫌いするのと同じこと。ヨーロッパなんか、隣り合う国同士、あっちでもこっちでももめている。


この映画は、「世の中、綺麗事じゃねぇんだよ」という当たり前の話が映像化されただけ。日本人は平和ボケをやめて、もっと現実に目を向けるべき。平和ボケを続けているうちに、お前ら、負け組になっちゃってるじゃん。世の中、喰うか喰われるかのどっちかなんだよ。俺自身はこの先長くないから負け組で構わんけど、子どもたちには勝ち組になってもらいたいと思う。


さて、アウシュビッツ。過去二度訪問したが、ガイドから、ヘースの自宅や家族の暮らしぶりについて聞いた覚えはない(聞いたけど忘れた?)から、壁の外側にヘースの自宅があったと聞いても、それがすぐ向こう側にあったとは思わなかった。


また、これまで、収容所周辺を歩き回ることなど考えたこともなく、ヘースとその家族の暮らしにまで、気が回らなかった。アウシュビッツでは常に緊張感が漂っており、決められたエリアの外に出てはいけないのではないか、と勝手に思い込んでいた。


もう一度アウシュビッツを訪問して、収容所の周りをぐるっと回ってヘースの自宅も見てみたいものだ。ビルケナウ(第2収容所)は広大だから、周りをぐるっと回るのは難しそうだ。


アウシュビッツ訪問時はクラクフが起点になるが、クラクフではゲットーを訪れるべきだ。もちろんその前に、こちら(↓)を観よう。

 リーアム・ニーソンというと、"Taken" 以降、長らくポンコツおやじを演じていて、どの映画を観ても同じに見えるのだが(と言いながら、新作が公開されるたびに劇場に足を運んでしまう、中毒だな)、シンドラーのリストだけは格別。


さて、アカデミー賞祭りはこれでおしまい。


近頃、「ブリジット・ジョーンズ 4」の撮影が始まった。公開は年明け。ヒュー・グラントが復活?このポンコツおやじの映画もどれを観ても同じなのだけど、独特のナヨナヨ感というのかな、面白い。観客をクスッと笑わせる俳優の中では一番だと思う。あ、そういえば、年末の「チャーリーとチョコレート工場」、見逃した。