02 ファーブラ・ローマーネンシスの物語


 少女は老人に攫われた。
 長い月日、少女の行方は解らず、両親は何度も少女を諦めかけた。
 せめて、遺体だけでも――そんな願いもむなしく月日は重ねられる。
 少女が救い出されたのはそれから数年経っての事だった。
 少女も大きくなり、見違える様に美しく成長していた。
 少女を攫ったのは一人の老紳士だった。
 一見、人格者の様に見えたその老人は少女に毎日、話を聞かせていた。
 【ファーブラ・ローマーネンシスの物語】という小説を。
 【ファーブラ・ローマーネンシスの物語】という小説は怖かった。
 幼かった少女には耐えがたい恐怖を感じさせる物語だった。
 【ファーブラ・ローマーネンシスの物語】は【ファーブラ・ローマーネンシス】という青年をモデルにした小説だった。
 【ファーブラ・ローマーネンシス】は一見、好青年だった。
 ちょうど、この話を聞かせている老紳士が若かりし頃の様に。
 何をやらせても完璧で、誰も悪く言う者は居ない――そんな青年として、物語の冒頭は描かれていた。
 非の打ち所のない完璧な青年――そう思って居たが、すぐに少女は崖から突き落とされた様な表情を浮かべる事になる。
 その【ファーブラ・ローマーネンシス】は恐ろしい青年だったからだ。
 【ファーブラ・ローマーネンシス】はちょっとでも悪事を働いた者を許さなかった。
 とことんまで追い詰めて、じわじわとなぶり殺しにする――そんな恐怖の物語だった。
 少女はトラウマとなった。
 トラウマとなってからも老紳士は話を続けていた。
 その話は【ファーブラ・ローマーネンシス】が自ら人間を地獄に落とすのに飽きて、自分の代わりに人間を恐怖のどん底に突き落とす7体の【殖死(しょくし)】と呼ばれるいわゆるゾンビの様な存在と17枚(種類)の【奈落のCD】を用意した。
 7体の【殖死】が被害者となる存在に17枚の【奈落のCD】の内の1枚を無理矢理聞かせるために現れ、始末していくという物語が淡々と語られていた。
 少女が助けられた時、老紳士は既に白骨化しており、少女がどうやって生き延びたかは不明となっていた。