与粋は唯愛との会話を改めて思い出す。
 彼女は確か、
「ねぇ、宇田君、うちに引っ越さない?」
 と言っていた。
 なんでも【ちらかし】さんが下宿していた部屋があり、彼が旅立ったので空いたから、与粋の妄想の世界を広げるために越してこないかと持ちかけてきたのだ。
 与粋の現在の部屋が六畳なのに対し、唯愛が用意したというのは十八畳の部屋が二つだという。
 どこのお金持ち様だ?と唯愛の事を思ったが、彼女は、
「君ほどの才能をくすぶらせておくのは惜しいよ。私の家の部屋で良かったら二つほど使ってくれないかな?もちろん、お家賃とかはいらないよ。条件としては、そうだな……私の事も手伝って欲しい――かな?」
 と言っていた。
 彼女が言うには彼女の妄想の材料はスケッチブックだという。
 【ちらかし】さんも含めて相談する相手が二人、その他に三人の友達に手伝ってもらっているらしいが、与粋が手伝ってくれるなら百人力だと言っていた。
 同じ美人でも唯愛となのでは、与粋への評価は月とすっぽんくらい違っていた。
 だが、大丈夫なのだろうか?
 【ちらかし】さんとの秘密だったはずの【ディプミラ】――唯愛は見る事が出来るのだろうか?
 【ディプミラ】――深い、深層心理という意味での【ディープ】と鏡という意味での【ミラー】、それを足して略して【ディプミラ】。
 この存在は想像力が豊かな者にしか見えないと言う。
 実際に、【ディプミラ】は与粋の部屋で遊び回っているのだが、その姿はなのには全く見えていないらしい。
 与粋と【ちらかし】さんだけが見えるゲームマスター――そう思っていたのだが、唯愛の話では彼女は【木能 くゆり(きのう くゆり)】という女性に7冊のスケッチブックを渡された時から見えているらしい。
 与粋で言えば、13束の紙と球状にしてある24色の粘土を指す。
 13束の紙と24色の粘土はRPG風に考えればボスキャラを作り出す素材となっていて、そこにたどり着くまでの冒険を他の紙や粘土を使ってゲームマスターの【ディプミラ】と遊ぶというものだ。
 【ディプミラ】は鏡の様な存在であり、プレイヤーとなる者の想像力が高いほど、【ディプミラ】の用意する敵などのレベルも跳ね上がる。
 唯愛はこのレベルが与粋は他のプレイヤーよりも飛び抜けて高いと評価してくれたのだ。
 通常は唯愛のように仲間(友達)を誘って遊ぶのだが、与粋は一人でやっていると尊敬さえしていた。
 実際には誘える友達が居なかっただけなのだが。