その前に、悪事から帰ってきた【カルメン】が顔を出し、
「な、何だ、こいつは?どこ……」
 【――から来たんだ?】とは言えなかった。
 それよりも前に【カルメン】の姿はかき消えたのだ。
 【789番ヴェール】の手によって。
 【ヴィホヂット】はいち早く危険を察知して、逃げ出した。
 あれはやばい。
 やばすぎると判断したのだ。
 【カルメン】も天罰とは言え、余りにもむごすぎる結末となってしまった。
 突然、人生がかき消されたのだ。
 【ヴィホヂット】から【カルメン】の記憶がすぅーっと消えて行くのを感じた。
 記憶がなくなったのではない、存在が消えていったのだ。
 あれに関わると無かった事にされる。
 あれに関わると全てが終わりだ。
 それだけはわかった。
 もはや、【ヴィホヂット】は【カルメン】の記憶を持たない。
 持たないが何かが存在ごと消し飛ばされたという恐怖だけは伝わった。
 【ヴィホヂット】は今更ながらに盗賊達が言っていたことを思い出した。
 盗賊達は口々に、
「あれはやばい……」
「あんなものに関わっていたら破滅する……」
「あれを動かしたら身の破滅だ」
 等と言っていた。
 その事が現実のものになろうとしていた。
 あれはタティーへの嫌がらせのために盗っただけのアイテムだ。
 あれを使って何かをしようと思った事は一度もない。
 そう自分に言い訳をする【ヴィホヂット】。
 決して、自分が悪いとは思わない。
 だが、そんな言い訳が【789番ヴェール】に通用するはずも無い。
 【ヴィホヂット】は逃げた。
 とにかく逃げた。
 【カルメン】がさらってきた闇コス大会の優勝者達や、【リーチェニー】、【アイリーン】を置いて逃げた。
 助かりたいから我先にと逃げた。
 闇コス大会の優勝者は【カルメン】が消滅した事によって、【カルメン】にさらわれたという事実も消えたために、元々存在する場所で普通に過ごしていることに切り替わり、その場からは消滅していた。
 【リーチェニー】と【アイリーン】も【カルメン】と関わっていないという事が事実となり、人間関係も微妙に変化していた。
 【カルメン】消滅により、次々と事実が塗り変わる。
 【789番ヴェール】は、ゆっくりと【ヴィホヂット】に狙いをすます。
 言いしれぬ恐怖が【ヴィホヂット】を支配する。