刻一刻と、クアンスティータ誕生の時は迫る。
 クアンスティータ・トルムドアはまとわりついていた吟侍の元を離れ、ニナ・ルベルの側に寄る。
 少々遅れて、最強の絶対者アブソルーター、エカテリーナ・シヌィルコがクアンスティータ誕生の現場に到着する。
「な、なんじゃ?何があった?」
 エカテリーナは状況が把握出来ない。
 彼女は圧倒的な気配の元にやってきただけで、状況がつかめていなかった。
 だが、そんな彼女の内側から声がした。
「うむ、ご苦労。よきにはからえ」
 と。
 口調がエカテリーナ自身のしゃべり方と全く同じなので、区別がつかないが、エカテリーナは自身の切り札として得ていた力が意志を持って話し出したことに驚いた。
「何者じゃ?妾の中で何をしておる?」
「妾の名か?妾はオルオティーナ。クアンスティータ様の乳母だ」
「う、乳母?何を言うておる?」
「乳母がクアンスティータ様のご生誕に立ち会わねばかっこがつかんであろう。妾を運んで来てくれて感謝するぞ。小さき者よ」
「わ、妾を小さき者だと?」
「気にするでない。妾の古き力をお前に全てくれてやる。それで満足しろ。妾はこれよりお前と別行動を取る」
「な、なんじゃと……」
 同じ【妾】という一人称を使ってはいるが、全くの別物であるオルオティーナという存在は怪物ファーブラ・フィクタの古い知り合いだった。
 それこそ、神話の時代からの。
 クアンスティータの力に惚れ込み、クアンスティータの乳母になることを望んだ存在――それがオルオティーナだった。
 オルオティーナは、クアンスティータには従うが、その父である怪物ファーブラ・フィクタに従う事はない。
 あくまでもクアンスティータに仕える存在だった。
 怪物ファーブラ・フィクタは、
「久しいな、オルオティーナ」
 と言った。
「息災であったか怪物ファーブラ・フィクタよ」
「俺には従わぬがクアンスティータには従うと言うのは本当の事のようだな」
「当たり前じゃ。何故、妾がそなたに従わねばならぬ。そちはクアンスティータ様の父親――ただ、それだけじゃ。妾が従う理由にはならぬ」
「変わった奴だ」
「そなたが言うか」
 と返すオルオティーナ。
 会話はそこまでだった。
 いよいよ、クアンスティータ誕生のカウントダウンも無くなった。
 ……7、6、5、4、3、2、1……0……
 ニナ・ルベルの腹部から、小さな手のようなものが飛び出す。
「……あうわう……」
 それが、クアンスティータが発した最初の言葉だった。
 エカテリーナから出てきたオルオティーナの手ににより、ニナ・ルベルの腹部より、クアンスティータは取り出された。
 オルオティーナは産婆の役目も果たすらしい。
 クアンスティータが誕生した時に同時にニナ・ルベルから出てきた異物は一つに集まり、【ファーミリアリス・ルベル】という存在となり、別の場所に飛んで消えた。
 だが、それを気にする者は居ない。